お問い合わせ

BLOGブログ

会計・ファイナンス・監査2021.08.04 JICPA「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」を公表

日本公認会計士協会(JICPA)は、経営研究調査会研究資料第8号「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」(以下、研究資料)を公表しています。今回は、この研究資料から、会計不正の傾向や企業が取り組むべき課題について考えてみたいと思います。

 

 

1.会計不正の公表会社数の推移


 

研究資料では、2017年3月期から2021年3月期までの5年間を対象に調査が行われていますが、2017年3月期以降公表会社数は増加傾向にありました。しかし、2021年3月期においては前年と46件から約半分の25件へと減少へと転じています。

 

会社の業種別や上場市場別の内訳推移についても、分析がなされていますが、特定の業種・市場に大きな偏りは見られないという結果が出ています。この点、皆さんの会社においても「いつ不正事案が起きても不思議ではない」という認識を持っておくことが非常に大切であると感じます。

 

 

2.会計不正の類型別の推移


 

会計不正は、大きく「粉飾決算」と「資産の流用」に分類されますが、全体の約80%が「粉飾決算」であるという調査結果が出ています。

 

公認不正検査士協会(ACFE)が2年に一度公表している「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」(以下、ACFE報告書)においても、「資産の流用」は件数は多いものの金額的なインパクトは平均的に小さく、「粉飾決算」は逆に件数は少ないものの金額的なインパクトが大きくなる傾向が示されています。

 

研究資料は、そのデータソースを外部公表資料としているため、金額的インパクトの大きい「粉飾決算」が多く確認されたのではないかと考えられます。よって、未公表のものまで含めると、不正事案全体の傾向は異なっている可能性があるという点には留意が必要です。

 

では、どのような粉飾決算が行われたのかという点ですが、①売上の過大計上、②架空仕入・原価操作、③経費の繰り延べ、④在庫の過大計上、⑤その他資産の過大計上など)の順となっています。最も多い「売上の過大計上」でも全体の約30%程度であり、広い範囲で不正事案が発生していることが分かります。

 

また、1社で複数の会計不正が発生するケースも増えています。例えば、売上の過大計上だけを行ってしまうと、利益率に異常が発生してしまうため、同時に仕入の架空計上や在庫(原価)の操作が同時に行われるケースでは、それだけ不正が発見しにくくなっているという点にも留意が必要です。

 

 

3.会計不正の発生場所


 

これは、個人的に関心のあるテーマなのですが、過去5年間の推移を見てみますと、本社(親会社)と子会社(国内・海外)では約50%ずつという傾向が出ています。

 

元々、海外子会社は地理的にも遠く、本社(親会社)からの目も届きにくいため、不正リスクは高いとされています。ただ、2020年・2021年と国内子会社での発生が多かったという点には留意が必要です。

 

このブログでも何度か取り上げていますが、子会社自体の内部統制や本社(親会社)の管理部門及び内部監査部門のモニタリング(監視)体制が非常に重要になってきていると考えられます。詳しくは、こちらのブログもご覧ください。

 

 

 

4.会計不正の関与者


 

内部統制は、経営者等による無効化(無視)や複数の担当者による共謀があった場合に機能しなくなる(内部統制の固有の限界)と言われています。

 

2017年3月期から2021年3月期までの5年間の事案をその関与者(実行者)と共謀者の有無で分類した場合に、役員及び管理職が関与者(実行者)となり、共謀者を伴って会計不正を引き起こしているケースが全体の60%近くに及んでおり、共謀者の3分の2は企業内部にいたことが分かっています。

 

ACFE報告書において、不正が起きてから発見されるまでの時間が長くなるほどその金額的インパクトは大きくなることが報告されています。内部統制が無効化されると当然不正の発見は難しくなる一方で、日本企業の場合、パワーハラスメントに代表されるように、部下が上司の理不尽な命令に逆らえないといった状況も多く見られるところです。

 

このようなことから、内部通報制度のような非公式なレポートラインや内部監査部門による不正調査等不正を早期に発見する取り組みも重要であると考えられます。

 

 

5.会計不正の発覚経路


 

2017年3月期から2021年3月期までの5年間の事案について、発覚に至った経路を分析した結果、内部統制等による発見の件数が最も多くなっています。ACFE報告書においては、不正は通報により発見される割合が最も高いとされており、日本においては、会計不正の発見に内部統制がある程度寄与しているということが言えます。

 

一方で、当局の調査、公認会計士監査、取引先からの照会等外部からの指摘により会計不正が発覚しているケースも多く、会計不正の公表と同時に内部統制報告書の訂正報告(開示すべき重要な不備が開示されていなかった)を行った事案が全体の約50%となっていることと一定の相関関係があると考えられます。このような場合では、会計不正の発覚=内部統制の重大な不備=会社のレピュテーションリスクの顕在化というような深刻な状況に繋がることも懸念されます。

 

 

 

2021年版においては、それまでに公表されたものと傾向的に大きな相違は認められなかったものの、発生会社数の増加傾向や類型別にも発生場所別にもより広い範囲に会計不正が及んでいることが見て取れました。内部統制(管理体制)の定期的なチェックによって、会計不正の未然の防止あるいは早期発見という取り組みが一層重要になってきていると思われます。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

プロフィールはこちらをご覧くださいませ!