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国際税務2022.06.22 非居住者に支払うソフトウェアの対価に係る源泉徴収の判断~インド最高裁判決を参考に~

インドの2021年3月2日の最高裁判決において、インド国内のエンドユーザーや販売業者から海外のソフトウェア業者に対して支払われるソフトウェアの対価は「使用料」に該当しないという判断がされました(裁判では4つの類型について検討が行われていますが、典型的な内容のため割愛)。

 

今回は非居住者に対するソフトウェア等の対価が租税条約上の「使用料」に該当するか否かの判断基準について考えてみたいと思います。

 

2021年の最高裁判決が下されるまで、インド国内において「使用料」の見解については判断が分かれていた所、本判決において統一的な見解が示される形となりました。

 

以後、インド企業と同様のソフトウエアの取引を行う企業についても、その対価は租税条約上の「使用料」には該当しないことが前提となり、源泉徴収がされないこととなります。

 

源泉徴収されている場合には、本来は源泉徴収されるべきものではないことから外国税額控除の適用がない可能性もありますので、ご注意ください。

 

1.OECDモデル条約におけるソフトウェア対価の区分


 

インドの裁判所はソフトウェアの対価は租税条約上の「使用料」の解釈(OECDモデルコメンタリーを重視)に照らして、「使用料」に該当しないと判断しました。

 

そして、「使用料」の解釈にあたってはその国の国内税法を基本に、著作権法上の権利の供与を一切伴わない場合「使用料」に該当しないと判断しています。

 

使用料に該当するかの判断基準として、OECDモデル条約のコメンタリーはソフトウェアの対価の取扱を下記の3区分のように示しています。

 

1)著作権の権利の一部を取得する場合は「使用料」
2)プログラムの複製物に対する権利を取得する場合には事業所得
3)著作権の権利のすべてを取得する場合は著作権の譲渡として事業所得又は譲渡所得

 

なお、ユーザーがプログラムを効果的に作動させるためのみに行う複製行為に関連する権利は課税上の判断においては無視するとされています。これは複製物の販売の場合も同様です。

 

※租税条約上の使用料の一般的な定義は次の通りです。
「文学上、美術上もしくは学術上の著作物(映画フィルムを含む)の著作権、特許権、商標権、意匠又は模型、図面、秘密方式もしくは秘密工程の使用もしくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上もしくは学術上の経験に関する情報の対価として受領されるすべての種類の対価をいう」

 

 

2.日本の国内法におけるソフトウェア対価の取扱い


 

日本では判例において、パッケージソフトの対価の課税上の取扱いとして下記の3つの取引類型が示されています。

 

1)売買・再売買型
ソフトウェア開発会社→流通会社→エンドユーザー
すべての取引が売買である場合、「著作権の使用料」に該当しない

 

2)転貸・転貸型
ソフトウェア開発会社→流通会社→エンドユーザー
すべての取引が転貸である場合、「著作権の使用料」に該当する
エンドユーザーにパッケージソフト使用のための複写権の利用許諾が含まれていると解されている

(※平成30年の著作権法の改正において、電子計算機での利用を維持・回復を目的とする場合などの過程で複製等があったとしても対価を徴収する必要がない旨の改正があったため、今後の使用料か否かの判断に影響がある可能性があります。)

 

3)売買・転貸型
ソフトウェア開発会社→流通会社→エンドユーザー
ソフトウェア開発会社から流通会社は販売、流通会社からエンドユーザーは賃貸借の場合
パッケージソフトの対価とは別に流通会社からエンドユーザーへの賃貸に対応して開発会社へ支払われる対価がある場合には、
その対価は「著作権の使用料」に該当する(実務上はこういった対価はほぼないと思われる)

 

我々会計事務所が会計ソフトをパッケージで購入する場合は1の売買型であり、
毎月あるいは年一回など対価を支払い、複写行為を行うことについて権利者(流通会社)の許諾を得る場合は使用料と考えられます。

 

 

 

以上、非常に複雑ですが今後、非居住者に支払うソフトウェア等の対価が「使用料」に該当するか否かの実務的な判断の要素は次の通りです。

まず国内税法の上記2の3類型に照らして、著作権の使用か否かの判断を行う。

次に租税条約の「使用料」に該当するか否かはOECDコメンタリーの上記1の区分に照らして判断を行う。

 

いずれにも該当する場合は租税条約上の「使用料」に該当し、源泉徴収の有無を判断することになると考えられます。

 

 

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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