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国内税務2024.12.04 貸倒損失の計上~適切な時期に処理をpart2~

 

1.はじめに


 

前回のブログで、貸倒引当金のうち個別評価金銭債権の計上時期について取り上げました。

個別評価金銭債権の貸倒引当金~適切な時期に処理を~

 

個別評価金銭債権として貸倒引当金を計上した後、無事回収出来た場合には万々歳ですが、一向に回収が出来ず連絡も取ることができない・・・といった状況に陥る場合もあります。

「回収が出来ないまま何か連絡があるまで放置しておくのが良いのか?」、「明らかに回収出来なさそうなので今期貸倒損失を計上して良いか?」といったご相談をいただくことがあります。

今回は貸倒損失計上についてご説明いたします。

 

2.貸倒損失の判断①
~金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ~


 

貸倒損失は、その計上が認められるため事実・対象となる金額損金算入時期について次の法人税法基本通達において定められています。

※なお、通達ですので国の一般的、基本的な解釈基準であり、法令上明確に定められている訳ではありません。

 

・法基通9-6-1:金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ

・法基通9-6-2:回収不能の金銭債権の貸倒れ

・法基通9-6-3:一定期間取引後弁済がない場合等の貸倒れ

 

3つの基本通達について、順に詳細を確認します。

 

 【法基通9-6-1】

法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には,その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は,その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1)更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において,これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2)特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において,この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切捨てられることとなった部分の金額

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっ旋による当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し,その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において,その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

 

本通達の(1)~(3)を確認すると、「更生計画認可の決定」「特別清算に係る協定の決定」「関係者の協議決定」というように切捨てられる額(回収不能額)が客観的に決まることが分かります。

第三者から見ても明らかな回収不能額は貸倒損失に計上出来る、ということです。

 

一方、(4)は、相手の状況を鑑みて債権者自ら債務免除の意思決定が必要です。

 

会社が意思決定できるが故に注意が必要なのは、弁済を受けることが出来るにもかかわらず債務免除を行い、債務者に対して実質的な利益供与を図ったと認められるような場合は貸倒損失が認められないという点です(※利益供与を図ったと認められる場合には「寄付金」に該当します)。債務者が第三者であることをもって無条件に貸倒損失の計上が出来るというものでもありませんので、金銭債権の回収可能性を充分に検討しやむなく債務免除を行う、といった場合に(4)の事実に当てはまると考えます。

また債務者の債務超過状態を判断する「相当期間」とは、債権者が債務者の経営状態から回収不能かどうかを判断するために必要合理的な期間をいうとされており、形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じてその期間は異なりますので、債務者に資金繰りや事業計画についてヒアリングする必要があります。

例えば、新しい事業を始めて、事業が安定するまで3年ほどの時間がかかると見込まれるにもかかわらず、当初1年間債権の回収が難しい場合に債務超過が相当期間継続したと判断して貸倒処理をする、これは税務上否認を受ける可能性があります。

なお、書面については、債務者に対する債務免除の事実が書面により明らかにされていれば足りますが、債務者から受領書を受け取ることや内容証明郵便等により交付することでその書面が交付された事実を明らかにすることができます。

 

本通達では、法的に債権が消滅した(それに準ずるものも含む)という事実に基づくことから、会計上の「損金経理」は要件とされていません

 

 

3.貸倒損失の判断②
~回収不能の金銭債権の貸倒れ~


 

 

 【法基通9-6-2】

法人の有する金銭債権につき,その債務者の資産状況,支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には,その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において,当該金銭債権について担保物があるときは,その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注)保証債務は,現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 

本通達によると法律上は債権が存在するものの債務者の資力喪失等、経済的に事実上回収不能である場合に貸倒損失を計上できることが分かります。

 

「全額が回収できないことが明らかになった場合」に該当する事実としては、債務者に破産、強制執行、整理、死亡、行方不明、回復不能の長期債務超過、天災事故、経済事情の急変等の事実が発生し全く回収の見込みのない場合等がこれに該当します。ただ、こういった外形的事実が生じていない場合であっても、その資産状況等から明らかな場合には同様に取り扱うことになります。

また、債務者の事情にのみ焦点をあてるのではなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較、債権回収を強行することによって生じる他の債権者との軋轢等による経済的損失等といった債権者の事情や経済的環境等を踏まえて社会通念に従って総合的に判断されるべきものであるとの最高裁の判例もあります。

ただ、本通達に基づいて貸倒損失を計上する難しさは回収不能の状態にある限りいつでも自由に行えるものではなく、「回収出来ないことが明らかになった事業年度において」行うべきものであるとされている点です。

長期的に回収ができていない債権があり、今後も全額回収することはできないだろうし、今期利益が出ているからこの際に貸倒損失を計上しよう、ということは出来ないという訳です。

 

また、本通達では、会計上の「損金経理」が要件とされています。

※なお、判例によっては「当該債権の回収ができないことが明らかとなった事業年度中に貸倒れとして損金経理をしておかなければ、その後になって、当該債権についてこれを貸倒損失金であるとする主張がし得なくなるものと解すべき実定法上の根拠はない(東京地裁 平成元年7月24日・税務訴訟資料第173号292頁)。」とするものもあります。

 

 

4.貸倒損失の判断③
~一定期間取引後弁済がない場合等の貸倒れ~


 

 

 【法基通9-6-3】

債務者について次に掲げる事実が発生した場合には,その債務者に対して有する売掛債権(売掛金,未収請負金その他これらに準ずる債権をいい,貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9―6―3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは,これを認める。

(1)債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には,これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

(2)法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において,当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

(注)(1)の取引の停止は,継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況,支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから,例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については,この取扱いの適用はない。

 

本通達は、9-6-1や9-6-2と異なり、明らかに回収不能な状況あること要件とせず、形式的な判断で貸倒損失を計上できることが分かります。

ただ、その対象になるのは全ての金銭債権ではなく、「継続的な営業債権」に限られているため注意が必要です。

本通達においても「事実が発生した場合」とあるため、継続的な営業債権の取引停止日と最後の弁済日のうち最も遅い日(つまり直近の日)から、1年以上経過した事業年度では処理を行わず、翌事業年度以降で処理を行う、というのは出来ないことになります。

また、本通達に基づいて貸倒損失を計上した場合には、明らかに回収不能であることが要件でないため、計上後において相手方の財務状況が回復し、弁済可能になったと連絡を受ける場合もあると思います。

その場合には実際に弁済があった事業年度において益金算入する必要があります。

 

なお、本通達では、会計上の「損金経理」が要件とされています。

 

 

5.まとめ


 

貸倒損失に関する法人税の基本通達を3つ確認しましたが、いかがでしたでしょうか。

 

9-6-1のように第三者からみても回収不能であることが明らかな場合にはその計上時期は比較的明瞭ですが、9-6-2や9-6-3は計上時期を逃すとそれ以降の貸倒損失計上のハードルは高くなると考えます。

ただ、個人的には、長期的に回収ができていない債権がある場合でも、9-6-1の(4)もしくは9-6-2に基づいて、次のようなアプローチを行い、回収不能であるかどうかの事実・状況確認を行い、証拠資料を揃えておくことで貸倒損失を計上できる可能性はあると考えます。

・信用調査会社を利用した調査報告書の受領

・内容証明郵便や催告書の写しの保管

・現地への訪問や周辺(取引関係)への聞き取り

・当該債務者に関して従業員等から受けた報告や社内での判断の取りまとめ資料

 

補足になりますが、消費税については、貸倒損失を計上した事業年度において「貸倒れとなった金額に対応する消費税額」を「貸倒れの発生した課税期間の売上げに対する消費税額」から控除することができるので忘れずに処理を行うようにしてください。

 

あすか税理士法人

【スタッフ】中村麻侑子