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国際税務2020.11.25 行為計算否認で国が敗訴!?ユニバーサル事件

今回はユニバーサル事件の東京高裁の判決について簡単に紹介したいと思います。

2020年6月24日東京高裁判決のユニバーサルミュージック社の事例は多国籍グループのグローバルな組織再編について、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)の適用可否について争われたものであり、最高裁の判断によっては実務にも影響が及ぶものとして注目されています。

 

【事例概要】


 

音楽事業を目的とする日本法人であるユニバーサルミュージック社(原告)が、平成20年12月期から平成24年12月期までに係る法人税の確定申告において、同族会社である外国法人からの借入約866億円に係る支払利息の額を損金の額に算入して申告したところ、麻布税務署長から、当該支払利息の損金算入は海外関連企業への利益移転であり、原告の法人税の負担を不当に減少させるものであるとして、法人税法132条1項に基づき、本件各事業年度に係る法人税の各更正処分等を受けた。
なお、判決では原告が日本の過小資本税制の適用を受けないために、出資額や借入額を調整した事実は認定しつつ、それについての否定的な評価はされていません。
つまり、過小資本税制の適用要件である資本と借入の比率(1:3)に抵触しないように、借入・増資・期日前弁済の金額調整を行っていたとしても、一連の取引に経済的合理性があれば、租税回避とは認定されないと示された点が実務では大きいと考えられます。

 

詳細な判決内容はこちら

 

 

【東京高裁の判断】


 

東京高裁は地裁と同様、以下の観点から判断を行った上で、納税者の経済的合理性を認めている。
1.本件組織再編等のスキームに基づく本件組織再編取引等が、通常は想定されない企業再編等の手順や方法に基づいたり、実態と乖離した形式を作り出したりするなど不自然なものであるかどうか
2.税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するか

 

〈原告の借入の事情〉

高裁は判決において、借入の事情について下記のように判断しています。
①本件借入れの目的は,本件各日本法人の株式の購入代金及び関連費用に使用することであるから,本件再編成等スキームの一部を成すものとして,その必要性・合理性を認めることができる
②本件借入れの金額は,買収資金のうち本件増資では足りない分を賄うためのものであり,第三者機関による株式価値算定分析も踏まえたもので不当に高額であるとは認められず,上記①の目的に必要かつ相当な金額であると認められる

③本件借入れの融資条件は財務状況や利益予想等を考慮して決められており,元本の返済又は利息の支払が困難になるおそれがあったとは認められず,納税者にとって不当に不利益となるものとは認められない
④納税者は無担保で借り入れているが,上記①の借入れ目的や上記③の返済可能性を踏まえると,不自然ではなく合理的な理由がある,
⑤納税者は本件借入れにより債務超過となったが,納税者の資金調達は専ら本件CMS合意(資金集中管理制度)に基づき外国関連企業の信用力で行われるから,本件借入れにより納税者の資金調達への影響が生ずるおそれはないほか,直ちに外部の金融機関に対する信用力の低下や倒産リスクを生じることはなく,社会的信用が従前と比べて損なわれたとの事情もうかがわれない

 

〈借入の目的〉
東京高裁が認めた、本件の目的は以下の8項目です。
①オランダ法人全体の負債レベルを軽減するための資金を調達すること
②日本法人を1つの統括会社の傘下にまとめること
③日本における音楽出版事業会社を合併により1社とすること
④日本法人の円余剰資金を移転させ、ヴィヴェンディが為替リスクをヘッジすることなく、ユーロ市場での投資活動を行うことを可能にすること
⑤日本法人の資本構成に負債を導入し、日本の関連会社が保有する円建ての資産及び日本の関連会社が生み出す円建てのキャッシュフローに係る為替リスクを軽減すること
⑥業務系統と資本系統の統一を図ることにより経営を合理化・効率化すること及びUMOの余剰資金を減少させること(配当制限はる英国から余剰資金を移転させる)
⑦日本法人を合同会社にすることにより、米国税制上のメリットを受け、又はデメリットを回避するとともに、原告を含む日本の企業体の柔軟かつ機動的な事業運営を行うこと
⑧当時検討されていた将来起こり得る可能性のある日本におけるヴィヴェンディ・グループ外の第三者による音楽会社の買収に対応すること

 

本件の借入事情並びに8つの目的を本件組織再編取引等により達成したことは、ヴェヴェンディグループ全体にとってだけでなく原告にとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入は原告に不当な利益をもたらすものとはいえないから、これらが原告にとって経済的合理性を欠くものであったと認めることはできないと判断した。

 

 

当該裁判は、税務当局の伝家の宝刀ともいえる法人税法132条の「不当」の判断を示すものであり、経済的合理性があれば法132条を安易に適用すべきでないという新しい解釈を行った判決として非常に興味深いものです。
国側は最高裁へ上告しており、最高裁の判決が注目されます。

 

あすか税理士法人(大阪)

【国際税務担当】街 有帆

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