従業員が働きやすい環境作り等のため会社が支出する経費については福利厚生費として処理します。
しかし、福利厚生費として処理するものであっても、給与とみなされ、従業員の所得税や住民税の課税対象となる場合もあるので、注意が必要です。
はじめに、給与とは、従業員や役員に支払う俸給や給料、賃金、歳費、賞与を指します。
役員や従業員に支給する手当(残業手当、休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族手当、住宅手当等)は給与に該当し、給与所得の収入金額として所得税や住民税の課税対象となります。
例外として、以下のような手当は非課税とされています。
(1)通勤手当のうち、一定金額以下のもの
(2)転勤や出張等のための旅費のうち、通常必要と認められるもの
(3)宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
(1)については、通勤手段や通勤距離を判断基準として1ヶ月当たりの非課税枠が決められています。(3)については、宿直や日直を本来の職務とする人の宿日直料など一定のものを除き、1回の宿日直について支給される金額のうち、4,000円までは非課税とされています。
そのため、場合によっては上記の手当が所得税の非課税枠を超えている可能性があり、注意が必要です。
また、給与は金銭で支給されるのが普通ですが、以下のように物や権利等をもって支給されることもあり、これを現物給与といいます。現物給与についても一定の場合には給与所得の収入金額の対象となります。
・物品その他の資産を無償または低い価額により譲渡をしたことで従業員が得た経済的利益
・土地、家屋、金銭その他の資産を無償または低い価額により貸し付けたことで従業員が得た経済的利益
・福利厚生施設の利用といった(2)以外の用役を無償または低い対価により提供したことにより従業員が得た経済的利益
・個人的債務を免除または負担したことにより従業員が得た経済的利益
なお、現物給与には、
イ 職務の性質上欠くことのできないもの
(主に会社側の業務遂行上の必要から支給される)
ロ 換金性に欠けるもの
ハ その評価が困難なもの
ニ 金銭による給与等とは異なる性質のもの
(受給者側に物品などの選択の余地がないなど)
ホ 政策上特別の配慮を要するもの
といったものがあり、特定の現物給与については、課税上、金銭による給与等とは異なった特別の取扱いが定められているので、次にそのポイントを押さえていきます。
特定の取扱いが定められている現物給与としては以下のようなものが挙げられ、それぞれ課税対象となるラインが通達上で設けられています。
①食事の支給
会社が支給する食事については、従業員がその食事の半額以上を負担する場合には原則として課税されません。ただし、その食事の価額から従業員の負担した金額を控除した金額(会社負担額)が月額3,500円(税抜)を超えるときは、その会社負担額は給与所得とされ課税対象となります。
なお、食事の価額とは、次の価額を指します。
・会社が調理して支給する食事→その食事の材料や調味料等に要したいわゆる直接費
・会社が飲食店等から購入して支給する食事→その購入価額
例)会社が飲食店から弁当(消費税率8%)を購入して、従業員に支給している場合
ⓐ 一ヶ月の弁当の購入価額合計8,640円、従業員負担5,400円のとき
従業員負担額 5,400円≧4,320円(=8,640円÷2)
会社負担額 (8,640円-5,400円=3,240円)税抜3,000円≦3,500円
∴非課税
ⓑ 一ヶ月の弁当の購入価額合計9,720円、従業員負担5,400円のとき
従業員負担額 5,400円≧4,860円(=9,720円÷2)
会社負担額 (9,720円-5,400円=4,320円)税抜4,000円>3,500円
∴4,320円は給与所得として課税
上記の例からも分かるように、従業員負担額が同じであっても購入価額が高くなると給与課税される可能性が高まります。実際購入価額にかかわらず、従業員の弁当代負担額を毎月定額としている場合には注意が必要です。
②制服等の支給
職務の性質上、制服を着用しなければならない従業員に対して支給または貸与する制服その他身の回りの品、事務服、作業服等については課税されません。
③社宅等の貸与
従業員等に対して社宅や寮等を貸与することにより従業員等が受ける経済的利益については、固定資産税の課税標準額等を基に一定の算式により求めた社宅等について通常支払うべき賃貸料の額以上の賃貸料を従業員等から徴収していれば課税されませんが、従業員等から徴収している賃貸料が、その社宅等について通常支払うべき賃貸料の額を下回っている場合には、その差額が給与所得とされます。
ただし、従業員から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は給与として課税されません。
例)会社が賃貸料相当額30,000円の社宅を従業員に貸与している場合
Ⓐ 従業員から20,000円の家賃を受け取っているとき
賃貸料相当額30,000円×50%=15,000円≦20,000円
∴非課税
Ⓑ 従業員から10,000円の家賃を受け取っているとき
賃貸料相当額30,000円×50%=15,000円>10,000円
∴賃貸料相当額差額30,000円-10,000円=20,000円が給与として課税
Ⓒ 従業員から家賃を受け取らず、無償で貸与しているとき
∴賃貸料相当額30,000円がすべて給与として課税
④レクリエーションの費用の負担
レクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を会社が負担することにより、その行事に参加した人が受ける経済的利益については、自己の都合でその行事に参加しなかった人に対してその参加に代えて金銭を支給する場合や役員だけを対象としてその行事の費用を負担する場合を除き、課税されません。
なお、レクリエーション旅行については、旅行期間が4泊5日以内(海外の場合には外国での滞在日数を指す)、旅行に参加した人数が全体の人数(工場や支店毎に行うものについてはそれぞれの職場毎の人数)の50%以上が参加すること等の要件があります。
⑤永年継続記念品等の支給
永年にわたり勤務した人の表彰に当たり、その記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品を支給することによる経済的利益で、その表彰が、おおむね10年以上勤務した人を対象としたものであるなど一定の要件を満たすものについては課税されません。
ただし、現金や商品券等を支給する場合にはその全額が、従業員本人が自由に記念品を選択できる場合にはその記念品の価額が給与として課税されます。
なお、旅行の招待ではなく、旅行券を支給した場合、一般的に旅行券は有効期限がなく、換金性があるため実質的に金銭を支給したことと同様であり、原則、給与として課税されます。しかし、次の要件を満たしているなど実質的に金銭を支給したことと認められない場合には課税しなくてもよいこととされています。
・旅行の実施が、旅行券の支給後1年以内であること
・旅行の範囲が、支給した旅行券の額からみて相当なものであること(海外旅行を含む)
・旅行券の支給を受けた者が当該旅行券を使用し、旅行を実施した場合に、所定の報告書に必要事項を記載し、旅行先等を確認できる資料を添付して会社に提出すること
・旅行券の支給を受けた者が当該旅行券の支給後1年以内に旅行券の全部又は一部を使用しなかった場合に、当該使用しなかった旅行券を会社に返還すること
⑥創業記念品等の支給
創業記念、増資記念、工事完成記念等に際し、その記念として支給する記念品で、その支給する記念品が、社会通念上記念品としてふさわしいものであって、その処分見込価額により評価した価額が10,000円(税抜)以下のものである等、一定の要件を満たすものについては課税されません。
なお、建築業者や造船業者等が請負工事又は造船の完成等に際して支給するものについては課税されます。また、⑤同様、現金や商品券等を支給する場合にはその全額が、従業員本人が自由に記念品を選択できる場合にはその記念品の価額が給与として課税されます。
⑦商品、製品等の値引販売
会社が取り扱う商品、製品等(有価証券、食事を除く)の値引販売をすることによる経済的利益については、値引販売の価額が会社の取得価額以上であり、通常他に販売する価額のおおむね70%以上であるなど一定の要件を満たす場合には、課税されません。
⑧金銭の無利息貸付け等
会社が金銭を無利息又は低い金利で貸し付けたことによる経済的利益については、災害、疾病等により一時的に多額な生活資金を要することとなった人に対してその資金に充てるための貸付けにより供与されるものである場合や、会社における借入金の平均調達金利等合理的と認められる貸付利率により利息を徴収している場合、又はその経済的利益の合計額が5,000円以下の場合には課税されません。
⑨福利厚生施設の利用
福利厚生施設の運営費などを会社が負担することにより利用者が受ける経済的利益については、その額が著しく多額である場合や役員だけを対象としてその経済的利益が供与される場合を除き、課税されません。
なお、福利厚生施設とは、社宅、寮、宿泊所、集会所、診療所、保養所、体育館その他のスポーツ施設、食堂その他これらに類する施設をいいます。
上記に挙げた特定の現物給与については、従業員の勤労意欲を高めるといった、従業員が働きやすい環境作りに直結するものが多く、会計上、給与ではなく福利厚生費等の科目で処理をされている場合が多いのではないでしょうか?
一見、福利厚生費と処理をしても何ら問題ないようですが、思いもよらず従業員が給与課税を受けてしまう可能性があるので慎重な判断が必要です。
給与課税されない現物給与に広く共通する点としては、
・供与されるものが現金や換金性の高いものでないこと
・特定の人ではなく、従業員全員を対象としていること
・支出の内容や金額が社会通念上妥当なものであること
これらのことが挙げられます。
これを機に、自社の給与規程、福利厚生規程を見直してみてはいかがでしょうか?
あすか税理士法人
【スタッフ】今西麻侑子