国際税務を取り扱っていると当たり前のように使う「納税管理人」という言葉。
お問い合わせ頂く方からよく質問されるのにきちんとまとめていなかった項目です。
今回は令和3年度税制改正にも挙げられ、外国法人・外国人・非居住者である海外の事業者だけでなく日本から移住、海外出向する方なども対象となる「納税管理人制度」について解説したいと思います。
「個人である納税者が日本に住所及び居所を有せず、若しくは有しないこととなる場合又は本邦に本店若しくは主たる事務所等の恒久的施設を有せず又は有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項の処理をする必要があるときは納税管理人を定め、その旨を届出なければならない(国税通則法117条)」
つまり、「納税管理人」とは日本にPEがない個人や外国法人の上記ような税金に関する事項を処理させるために指定される者のことをいい、納税者はこれらの処理をさせる者を指定して税務署に届出なければなりません。
なお、税金に関する事項を処理することから「納税管理人」=「納税者」と思われる方が多いですがそうではありません。
「納税管理人」は租税の債務者ではない(納税者ではない)ので、税務調査や滞納処分の対象になることはありません。
あくまで租税に関する事務手続きを代行する者です(納税管理人には個人でも法人でもなることが可能です)。
税務当局は税務調査や照会を行う際には納税管理人を通じて納税者に接触を行うことになります。
しかし、納税管理人を定めていない(定めないといけないことを知らない)納税者が多く、これまではこういった場合に税務当局が取り得る措置がありませんでした。
そこでこの問題を解消するために、令和3年度税制改正において納税管理人制度について見直しが行われました。
① 税務当局から指定日(60日を超えない範囲内)を設定し、納税管理人の選定と届出を要請することができることとする
② 納税者が要請に応じない場合は税務当局は親族や子会社等の国内に所在する関連者を納税管理人として指定することができることとする
この規定は令和4年(2022年)1月1日以後に適用されます。
この改正は税務当局が納税管理人を指定できるという点で実務的には大きな影響があると考えられます。
上記②について、どのような国内の関連者が納税管理人として指定される可能性があるか、という点について次のように規定されています。
(納税者が個人の場合)
イ 生計を一にする配偶者その他親族で成年に達した者
ロ 納税者の国税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実について、納税者との契約により密接な関係を有する者(顧問税理士等)
ハ 電子情報処理組織を使用して行われる取引等を継続して行う場を提供する事業者
(納税者が法人の場合)
ニ その納税者との間に発行済株式等の50%以上の保有関係がある法人
ホ その納税者の役員又は役員と生計を一にする配偶者その他親族で成年に達した者
ヘ 上記ロ又はハと同様の者
上記の取り扱いは税務当局から一方的に書面通知が行われることから、納税者及び指定された者の両方に不服申し立て又は訴訟が可能とされています。
納税管理人の行う事務は国税通則法基本通達117-2において次のように定められています。
① 国税に関する法令に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の作成ならびに提出
② 税務署長等(その所属の職員を含む。)が発する書類の受領
③ 国税の納付および還付金等の受領
①は納税申告書の提出、納税猶予等の請求、還付に係る更正の請求等が含まれるとイメージして頂ければと思います。
いかがでしょうか。
移住や出向の場合は住民税の納税漏れが発生するケースに備えて納税管理人を定める場合もあります。
また、最近は海外へ移住し、インターネットを通じて日本で事業をされる方も増えています。
この場合は日本に拠点がないので納税義務はないと思われる方もいらっしゃいます。
法人税は免れても電気通信利用役務提供に該当し、消費税の納税義務が生じる可能性もあるのでご注意ください。
日本の個人や法人と取引した場合は送金履歴、サーバーの履歴、入出国の履歴など様々な方法で補足される可能性があります。
日本でビジネスをされる方は納税管理人を選定し、円滑にビジネスを展開してください。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
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