日本から海外の子会社へ出向する、あるいは駐在員として派遣される。
こういったことは日常的になってきました。
海外で勤務し、現地法人から支給される給与については当然ながら、現地で日本でいう所得税を納めていると思います。
では日本と海外の給与水準の差から、一部は日本で給与が支給される場合、この日本支給分は勤務地国ではどのように課税されるのでしょうか。
ほとんどの国での正しい処理は日本支給分と現地法人からの支給分とを合算して、勤務地国で確定申告をすることです。
日本では役員を除き、国外源泉所得という取り扱いとなるため申告義務はありません。
問題となるのはこの場合、日本支給分は海外では補足されない、バレないでしょうとおっしゃる方が一定数いらっしゃることです。ですが気をつけてください。
日本では脱税についてはMAXで納付すべき税額の40%の重加算税や年利8.9%延滞税(令和2年10月現在)、最悪のケースでは刑事罰として懲役刑となります。
海外でも同様あるいはさらに重い罰則が科せられる可能性があります。
ではどのようにして、税務当局に日本の所得が把握される可能性があるのでしょうか。
主に以下の点から補足される可能性があります。
1.CSRにより補足
2.租税条約の情報交換規定により補足
3.日本と海外現地法人との送金から補足
日本はCRS(共通報告基準)に基づき、金融機関の口座情報を諸外国と自動的に交換しています。
現状の加盟国一覧はこちらからご確認ください。
この制度により、金融機関は非居住者の保有する口座につき、口座保有者の氏名、住所、居住地国、外国の納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等の情報を容易に取得することが可能となっています。
つまり、加盟国へ出向した場合、加盟国の税務当局は出向者の日本の口座情報を取得していると考えられます。
給与やその他の所得が日本の口座へ入金されている場合は、この制度により補足される可能性があるとお考えください。
日本企業が多く進出している東南アジアのタイやベトナムはCRS制度2020年10月時点で加盟していません。この制度に加盟していない国への出向であれば見つからないのでは?というお話を耳にすることがあります。
CRSという制度に加盟していない場合でも、各国と日本との租税条約には情報交換協定が定められています。
例えば、日ベトナム租税条約25条では、「両締約国の権限のある当局は、この協定若しくはこの協定が適用される租税に関する両締約国の法令を実施し又はこれらの租税に関する脱税を防止するため必要な情報を交換する」と規定され、
日タイ租税条約24条では、「両締約国の権限のある当局は、この条約の規定の実施、租税に関する詐欺の防止又は脱税に対処するための法規の実施に必要な情報で、両締約国のそれぞれの税法に基づいて行政の通常の運営において入手することのできるものを交換することができる。」と規定されています。
これらの規定からわかるように、各国の税務当局は必要に応じて日本の税務当局へ所得の捕捉に必要な情報を請求することが可能となっています。
特に東南アジアは日本企業の進出が多いことから、日本人出向者の所得水準は把握されていると考えるべきだと思います。
出向国の給与のみを申告している場合は、海外現地の税務調査で指摘され、補足される可能性は否定できません。
上記の情報交換に基づかなくとも、日々の資金のやりとりから補足されるケースもあります。
日本法人から海外現地法人へ給与、経費の立替金等の名目で送金している場合、日本法人から出向者の海外現地の口座へ直接送金している場合、あるいは出向や駐在に関する現地法人との出向契約が存在しない場合などは特に注意が必要です。
これは現地法人からの送金の場合も同様です。各国の税務当局は諸外国への送金から関係性を把握し、親子や兄弟会社という事実がわかると注視する傾向にあるとお考えください。
いかがでしょうか。
国際税務の世界では租税回避の防止が世界的な潮流となっています。日本を含む各国の税務当局は国外財産、国外所得の把握、課税を強化していっています。正しい申告をし、合法的な節税を模索することをお勧めいたします。
あすか税理士法人(大阪)
【国際税務担当】街 有帆
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