東京証券取引所は、「「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の施策について」(以下、今後の施策)を公表しました。今回は、この内容について、整理してみたいと思います。
1.「資本コストや株価を意識した経営」とは?
コーポレートガバナンス・コードにおいては、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値を実現するために、資本コストや資本収益性を十分に意識した経営資源の配分が重要であることが示されています。(原則5-2)
その一方で、プライム市場の約50%、スタンダード市場の約60%の上場会社が資本収益性(ROEが資本収益性の1つの目安とされている8%未満である)や成長性(PBRが1倍未満である)の観点で課題がある状況となっています。
そのような背景から、上場会社に対して、損益計算書上の売上や利益水準だけでなく、資本コストや資本収益性を意識した経営の実践を求めるため、東京証券取引所は、プライム市場・スタンダード市場のすべての上場会社を対象にして、以下のようなサイクルを回していくことを求めました。
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2.投資者の視点を踏まえたポイント
さらに、東京証券取引所は、国内外の多くの投資家との面談に基づき、前述の取組みについて、投資者が企業に期待している取組みのポイントやそれらのポイントが押さえられていると一定の評価がなされている取組みの事例、また、投資者目線とギャップのある事例を取りまとめて公表しました。
(1) 現状分析・評価
① 投資者の視点から資本コストを捉える
② 投資者の視点を踏まえて多面的に分析・評価する
③ バランスシートが効率的な状態となっているか点検する
(2) 取組みの検討・開示
① 経営資源の適切な配分を意識した抜本的な取組みを行う
② 資本コストを低減させるという意識を持つ
③ 中長期的な企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度の設計を行う
④ 中長期的に目指す姿と紐づけて取組みを説明する
(3) 株主・投資者との対話
① 経営陣・取締役会が主体的かつ積極的に関与する
② 株主・投資者の属性に応じたアプローチを行う
③ 対話の実施状況を開示し、更なる対話・エンゲージメントに繋げる
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3.今後はどうなるのか?
今回公表された今後の施策では、要請から1年間の振り返りと今後の方針について、以下のように示されています。(筆者により一部抜粋)
✔ 多くの企業で開示が始まっている一方、投資者との目線にズレがあるなど課題が存在している。また、開示が行われていない企業も一定数存在し、改革は始まったばかりである
✔ 上場企業が、資本コストや株価を意識して企業価値向上に取り組むことが当たり前となる市場を目指す
✔ 今後の取り組みを進めるにあたり、市場運営者の立場として、上場企業と投資者との建設的な対話を通じて企業価値向上が図られるための環境整備にさらに注力する
✔ その結果、上場維持コストが増加し、非公開化という経営判断が増加することも想定されるが、そうした判断も尊重する(日本市場の魅力向上に向けて、投資家の期待に応えた企業価値の向上が実現することを重視)
✔ 上場企業のみならず、機関投資家に対しても、中長期的な企業価値向上を支えるという視点で、上場企業との対話に臨むように働きかける
上記のような基本方針を踏まえ、上場企業の対応状況を①自律的に取り組みを進める企業、②今後の改善が期待される企業、③開示に至っていない企業に分類し、②及び③の企業に対しては、以下の取り組みを進めていくとされています。
今後の改善が期待される企業
投資者との目線にズレがあることや投資者とのコミュケーションを十分に行えていないことが課題
・投資家の視点を踏まえたポイント・事例集のアップデート
・開示状況による市場評価(株価)の変化の紹介
・経営者や担当者に対する啓発活動
・開示企業リスト(積極的に取り組む上場企業の支援ツール)の改良
開示に至っていない企業
上場企業として備えるべき投資者に向き合う姿勢・体制が確保されていない(その背景の1つとして支配株主等の存在により市場からのプレッシャーを感じにくいことがある)
・資本コストや株価を意識した経営の要請と並行して、IR機能の確保を促す
・少数株主保護に向けた取り組みのフォローアップ
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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