2023年10月、日本監査役協会(関西支部・監査役スタッフ研究会)は「グループ監査における親会社監査役会の役割と責務」(以下、報告書)を公表しました。グループガバナンスやグループ内部統制の重要性が指摘される中で、親会社の監査役会はどのような役割を果たすべきなのか、考えてみたいと思います。
1.概要
既にご承知の方も多いと思いますが、グループガバナンスの必要性については、会社法や金融商品取引法のような法律だけでなく、証券取引所や経済産業省等が定める指針等においても触れられており、その中で監査役等の活動についても様々な提言等がなされているところです。
しかし、その一方で、子会社を舞台とする不祥事は後を絶つことがありません。そこで、以下のような視点から、報告書は取り纏められています。
・グループガバナンスとは
・グループ監査の実態
・グループ企業(子会社)における不祥事の事例分析
・グループ監査の監査体制強化に向けた意見
2.グループガバナンスとは?
報告書では、グループガバナンスを「企業グループ全体の価値を最大化することを目指した仕組み」と定義し、法律上の規制対応だけでなく、企業価値の最大化という株主からの期待に応えるという側面を指摘しています。
その上で、会社法、金融商品取引法(J-SOX)、証券取引所の上場規則(コーポレートガバナンス・コード)、 経済産業省(グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針)、日本監査役協会(監査役監査基準・新任監査役ガイド)におけるグループガバナンスの考え方が紹介されています。
このうち、経済産業省のグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針では、実効的なグループガバナンスの在り方として、企業グループとしての中長期的な企業価値の向上と持続的成長を図るために、「守り」と「攻め」の両面でいかにガバナンスを機能させるかがポイントとなり、監査役等はこの「守り」のガバナンスにおいて重要な役割を担っているとされています。
中でも、具体的に重要な役割とされているのが、グループ全体の内部統制システムの有効性に関する監査です。しかし、親会社の監査役等が適切かつ十分な監査を行うためのリソースは、必ずしも確保されていないケースが多いため、以下の点を積極的に検討することが必要であるとされています。
・親会社監査役等と子会社監査役等の連携強化
・内部監査部門の活用
・内部監査部門も含めた3線ディフェンスによる内部統制
このような考え方は、日本監査役協会の監査役監査基準においても示されています。
また、日本監査役協会の新任監査役ガイドにおいては、企業グループの内部統制に関する監査の具体的なポイントが示されています(Q43)が、ここで重要なのは、「子会社の内部統制は、認識不足や陣容・予算不足から、往々にして立ち遅れている」という点です。このため、親会社の監査役等が子会社の監査役等と十分なコミュニケーションを取りながら各子会社の適切な監査のポイントを十分に理解する必要があるとともに、親会社は、各子会社に合わせた内部統制システムの調整が求められていることを認識しておく必要があることが指摘されています。
3.グループ企業(子会社)における不祥事
このブログでも、国内・海外を問わず、子会社における不祥事の事例が一定程度存在することに触れてきました。
(参考)JICPA「上場会社等における会計不正の動向(2023年版)」を公表
報告書では、動機・機会・正当化の3つの要素が揃った時に不正が発生するという「不正のトライアングル」の考え方に基づき、組織として不正を防止する最大のポイントとなる「機会」に注目して、2つの不祥事事例を以下のように分析しています。
(1) 内部統制システム上の問題点
・コンプライアンスやマネジメントに関わる規程等の不備
・会議体の機能不全
・コンプライアンス教育の形骸化
・海外子会社のマネジメント不足
(2) 内部監査の問題点
・現場往査が行われていない
・内部監査担当者のスキル不足
・リスクのある項目の監査が抜けていた
(3) 監査役等監査の問題点
・現地往査をしていなかった あるいは 形骸的であった
・監査役等を補助するスタッフがいなかった
・情報収集ができていなかった(不足していた)
(4) その他の問題点
・グループ子会社の管理主体が明確でなかった
・異常値があった際に、外部監査(会計監査)において客観的事実の確認が行われていなかった
このように、不祥事が行った企業の状況を振り返ると、様々な機会(ガバナンスや内部統制上の弱点)があったことが分かります。報告書では、監査役等は自身の監査の課題に取り組むだけでなく、業務執行部門に対して上記のような問題点の改善を働きかけることも必要であると指摘されています。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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