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国際税務2021.05.18 新型コロナウイルスで課税強化?!

5月17日の日本経済新聞朝刊に「東南アが課税強化 企業警戒 コロナで財政難、調査活発に 移転価格など日系も標的」という記事がありました。
今回は、この記事の内容をもとに、今後東南アジアをはじめ海外に進出されている企業の皆様がどのような点に気を付ける必要があるのか考えてみたいと思います。

 

 

1.記事で指摘されていたこと

 

新型コロナウイルスの対応に伴う財政支出の増加から東南アジア各国の財政状態が悪化しており、課税強化の方向に動いているというものです。

 

例えば、大手会計事務所であるデロイトシンガポール事務所の五十嵐潤パートナーは「新型コロナによる財政悪化を受け、各国は東南アジア子会社と日本本社などとの取引価格に注目した移転価格税制の調査を活発にしている」とコメントしており、具体的には、以下のような事案が確認されているようです。

 

・今年に入って、マレーシアやタイに進出している日系企業で現地の税務当局から過去の複数年にわたる取引に関する文書の提出要請が相次いでいる

・2020年以降、ベトナムやマレーシアでは、企業が税務当局に提出する移転価格の関連資料の提出期限が短縮できるようになった

インドネシアに進出する複数の日系企業が、最近の税務調査で「本社へのマネジメント費用の支払に対価性がない」との指摘を受けた

 

また、タイでは、2019年に紙以外の電子データの契約書にも印紙税を納付することを義務化しており、今後印紙税の調査が厳しくとなるとの懸念が出ているとのことです。バンコク日本人商工会議所の石井信行専務理事は「当局はコロナによる税収減を受け、移転価格など様々な分野で積極的な課税に動いているようだ」とコメントしています。

 

 

2.新興国における課税事案の現状

 

少し古いデータになりますが、経済産業省は2015年に「新興国における税務人材の現状と課税事案の対応に関する調査」を公表しています。この中で、海外進出企業に対するアンケート調査を実施した結果、現地当局から税務上の指摘を受け、日本と現地の双方で税金を納める状況となった事案(いわゆる二重課税の事案)内容は、移転価格税制に関するもの(46.2%)、PE(恒久的施設)の認定に関するもの(20.7%)、現地から日本親会社等に支払われるロイヤルティに関するもの(16.6%)の順となっており、この3つで大半を占めていることが分かります。

 

また、新興国では、税務に精通した職員の不足、法制度の不明瞭さ、税務調査官の裁量の大きさ等からグローバルスタンダードから乖離した独自の課税根拠から追徴課税を課すケースが少なくなく対応する現地子会社側においても、税務に詳しい人材や現地の税制等に関する知識が不足していることや日本親会社とのコミュニケーションの不足等により、十分な対応策を講じることができていないとの指摘がなされています。(私見ですが、このような状況は現在も続いているものと思われます。)

 

 

 

 

3.新興国における調査の指摘事例

 

前述の経済産業省の報告書では、グローバルスタンダードから乖離した追徴課税等の事例が多数紹介されています。

 

移転価格税制に関するもの

・独立企業間価格を算出するにあたり、調査対象企業と異なる機能・リスクを有する比較対象企業を選定する

・企業の果たす機能や付随するリスクを考慮すべきところ、企業の利益率のみを重視し追徴課税を行う

・企業が継続して赤字であることのみを理由として移転価格課税を受ける

安価な人件費を利用することにより創出された利益(ロケーションセービング)や活況な市場における販売量の増加により生じた利益(マーケットプレミアム)は、当該活動を行っている所在国に帰属すべき無形資産であると主張される

損失が生じている受託研究開発企業や受託生産企業に対して、その果たすべき機能と負担するリスクが限定的であることを理由として、常に一定の利益を稼得すべきであると主張して追徴課税を行う

・企業独自の状況及び市場の動向を考慮せず、機械的に画一的な利益率を適用し課税を行う

・グループ内の役務提供取引の実質性や必要性、その対価の合理性が立証されないとして、現地子会社が支払った役務提供取引に関する費用を損金不算入として取り扱う

 

PE(恒久的施設)に関するもの

・親会社が現地子会社に対して高頻度で出張者を派遣している場合に、当該出張者が親会社のPEとして認定され、現地で課税が行われる

・親会社が現地子会社に派遣した出向者(駐在員)について、給与を一時的に立て替えていることを理由に、当該出向者(駐在員)が親会社のPEとして認定され、現地で課税がが行われる

機能が限定的な現地子会社は、独立した意思決定能力を有さず親会社の指示に基づいて活動を行っているに過ぎないとして、親会社のPEに認定され現地で課税が行われる

駐在員事務所が営業活動に携わっていない場合であっても、「人数が多い」という理由で親会社のPEとして認定され、現地で課税が行われる

※PE(恒久的施設)に関する事例は中国やインドにおいて多く確認されています。

 

ロイヤルティに関するもの

・関係会社間におけるロイヤルティの支払について、国内法により契約書の提出やロイヤリティ料率の登録を義務付けている場合がある

・「ロイヤルティの算出根拠が不十分である」「現地にノウハウが十分にあるため技術提供を受ける必要がない」等の理由により、支払ロイヤルティの損金性を否認される

現地子会社が赤字の場合に、「提供を受けている技術が企業の収益に貢献していない」と結論付けられ、支払ロイヤルティの損金性を否認される

・ブランドの所有者が他社からブランドを購入している場合などで直接的に当該ブランドの価値の創造や向上に貢献していない場合に、「たとえ法的には所有権があったとしても、経済的にはブランドから生じる利益に何ら貢献していない」との理由で、ブランド使用料の損金性を否認される

他の役務提供等の対価としての支払をロイヤルティの支払であると認識され、源泉徴収義務を指摘される

 

 

4.これから注意したい点は?

 

皆様の現地子会社に、今後どのような指摘が行われるかは分かりませんが、グローバルスタンダードから乖離した指摘があった場合には、堂々とこちらの考え方を主張すべきであると考えます。そのためには、事前の準備が非常に重要です。冒頭にご紹介した新聞記事の中でも、事前に準備していた取引の根拠資料等を用いて反論することによって、税務当局が主張を取り下げた例もあるとされています。

 

また、移転価格やロイヤルティの問題は、現地で問題がないように対応しても親会社(日本)側で問題となる、いわば「綱引き」の状態となることが少なくありません。

 

このため、子会社側の問題と任せきりにするのではなく、親会社と子会社(双方の税務専門家も交えて)が国際税務の課題についてコミュニケーションを取り、どちらか一方の国で税務リスクを引き取るのか、あるいは、どこか落としどころを見出すのかといった方針を決めて対応することが重要になってくると考えられます。

 

既に、現地の税務当局も動き出しているようですので、親会社側からはまず現地の状況を確認するところから始められてはいかがでしょうか。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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