法人の貸借対照表に「貸付金」や「借入金」の勘定科目が記載されているのを多くの方がご存じだと思います。
その「貸付金」や「借入金」がその法人の役員に対するものである時、またその役員が亡くなった後どのように取り扱われるか、その際に生じる問題点などを確認していきたいと思います。
① 役員貸付金の取扱い
役員個人の資金が不足しやむを得ず法人の資金をその役員へ貸し付けたり、役員の個人的な経費を会社の資金から支払ってしまった場合などに役員貸付金が発生します。
法人が役員へ金銭を貸し付けた場合、相当の利息を支払う必要があります。
相当の利息については次のような取扱いがあります。
(1) 会社が他から借り入れて貸し付けた場合:その借入金の利率
(2) その他の場合:貸付けを行った日の属する年に応じた次に掲げる利率
・平成30年から令和2年中に貸付けを行ったもの:1.6パーセント
・令和3年中に貸付けを行ったもの:1.0パーセント
平成30年以前に関しても、貸付を行った年度ごとに利率が設定されていますので、国税庁のHPをご参考下さい。因みに従業員へ金銭を貸し付けた場合も同様です。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2606.htm
役員側は借入利息を法人に支払い、法人側では受取利息として収益に計上することとなります。実際に利息を金銭で受け取っていない場合でも未収入金として収益を認識する必要があります。
② 貸付をしている役員が亡くなった場合
法人側から見ると貸付金は「資産」、役員側から見ると借入金として「負債」になり、亡くなった役員の相続人は財産から控除出来る「債務」となります。
相続人がこの「債務」を相続し引き継いだ場合は、法人へ返済する義務が生じます。
では、相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか?
相続放棄とは亡くなった方の「財産」「債務」を一切相続しないことをいいます。相続放棄をした場合、今回の役員貸付金である「債務」も引き継ぐ必要はありません。
ただ、相続放棄は「財産」も取得することは出来ませんので注意が必要です。
次に役員にお金を貸し付けていた法人側はどうなるでしょうか?
貸付を行っていた役員の全ての相続人に相続放棄をされた場合は、金銭債権の全額が回収不能となりますので、相続放棄が明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。
① 役員借入金の取扱い
法人の資金が業績不振などで不足し、やむを得ず役員の個人資金をその法人へ貸し付けた場合などに役員借入金が発生します。
役員借入金の利息については特に法令で定めはなく、計上しなくても税務調査などで指摘を受けることはほぼありません。しかしながら不当に高い金利で役員に利息を支払う場合は、「役員賞与」として指摘を受ける恐れがあります。
② 借入をしている役員が亡くなった場合
先程の役員貸付金とは逆で、法人側から見ると借入金は「負債」、役員側から見ると貸付金として「資産」になり、亡くなった役員の相続人にとっては「財産」となります。
この役員借入金である「財産」ですが、資金繰りが苦しい法人に貸し付けている場合は多く、すぐに借入金が返済されない可能性もあります。相続税の計算をするにあたっては「財産」として評価しないといけませんので、他の財産と合算すると相続税の負担が生じる場合もあります。また、借入金の返済がされず現金化が厳しい場合は相続税の納税資金を圧迫することにもなります。
①役員貸付金の解消方法
・役員報酬の増額
役員報酬を増額し手取りの一部を法人への返済に充てる方法です。ただし、役員個人の所得税や住民税、社会保険料の負担も増えることとなります。
・役員個人の保有財産を法人へ譲渡
役員個人が保有している不動産などを法人へ譲渡し、金銭を受け取る代わりに役員貸付金と相殺する方法です。譲渡する資産は基本譲渡時の時価で譲渡するため、譲渡益がでた場合は、役員個人の所得税や住民税の納税が生じます。
その他にも役員退職金と相殺する方法もあります。
②役員借入金の解消方法
・役員報酬の減額
役員報酬を減額し、減額分を役員借入金の返済に充てる方法です。ただ役員報酬が減額した分、法人の収益が増加し法人税の負担が生じることがあります。
・デット・エクイティ・スワップ(DES)の実行
DESとは「債務(Debt:デット)を株式(Equity:エクイティ)と交換(Swap:スワップ)すること」を、単語の頭文字をとってDES(デット・エクイティ・スワップ)と言います。債務の株式化とも呼ばれ、今回の場合、役員借入金を法人の株式へ交換します。
ただし、DESは会社の資産状況を鑑みて債権(役員からみた貸付金)の時価が低い場合、額面でDESを行うと、債務免除益が生じ、時価と額面との差額が法人の益金扱いとなる可能性があります。DESを実行される場合は、専門家に相談し検討されることをお勧めします。
役員貸付金・役員借入金いずれについても相続の際に「相続放棄」を選択せざるを得ない状況に置かれることもあります。
また、役員貸付金については個人的な経費を法人で支払ったまま放置されていたり不明瞭な取引である場合は、「役員賞与」として課税される恐れもあるので注意が必要です。
法人の貸借対照表に役員貸付金や役員借入金がある場合は早期に精算や解消されることをお勧め致します。
あすか税理士法人
スタッフ