国際税務2021.08.11
居住者・非居住者の判定に関する判例
過去のブログで複数の国に滞在している場合の居住者判定(納税者勝訴)の事例を紹介しました。
複数の国に滞在している場合の居住者判定(東京地裁判例より)
今回のブログでは納税者が敗訴した(日本居住者と認定された)国税不服審判所の裁決例をご紹介します。
日本の居住者と認定されると世界のどこに財産があっても日本の所得税が課税されます。
国外に財産がある方への税務調査が増加傾向にあることから、居住者と認定される判断基準として参考となれば幸いです。
1.平成28年3月1日裁決(国税不服審判所名古屋支部)
〈納税者の主張〉
納税者は、調査対象年分において、請求人の日本の滞在日数は年の半数を大きく下回ること、納税者の業務内容等からするとシンガポールの居宅に継続して居住する必要があること、納税者はシンガポールを起点とする往復が突出して多いことなどから、納税者の住所は日本国内にあったといえないから、所得税法第2条《定義》第1項第3号に規定する「居住者」に該当しない旨を主張した。
〈不服審判所の判断〉
各人の住所(生活の本拠)の認定は、その者の国内外での滞在日数、生活場所及び同所での生活状況、職業及び業務の内容・従事状況、生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、資産の所在、生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当である。
納税者は、調査対象年分において、①日本に定期的に帰国し滞在していたこと、②日本滞在時には日本国内の居宅(本件日本居宅)において種々の消費活動や通院等をしていたこと、③国内・国外の関連法人の代表者として経営判断等の重要性の高い業務を行っていたこと、④本件日本居宅を居住地とする妻らと生計を一にしていたこと、⑤国外に比べ、日本に土地・建物等の主な資産を所有していること、⑥日本の公的機関等に対し、納税者の住所が日本にあるとする届出をしていること、などの客観的諸事情を総合的に勘案すると、調査対象期間における納税者の生活の本拠(全生活の中心)たる実体を具備していたのは、本件日本居宅が所在する住民登録地であると認められる。よって、納税者は「居住者」に該当する、と判断しました。
この裁決例では上記判断要素となる5項目のうち、滞在日数については国外(シンガポール)が年の半分以上を占めていましたが、その他4項目については国内の比重が高いと判断されました。
職業については日本において代表者として意思決定を行い、生計を一にする家族が日本に住んでおり、資産の大半が国内に所在し、その他項目として住民票を日本に登録しているという事実から日本居住者と認定されました。
これは私見ですが、以前のブログでご紹介した判例(納税者が非居住者として勝訴)との大きな違いは特に職業面において、経営に関する意思決定を日本で行う割合が高く、シンガポールに居住する合理的な理由が薄かったと想定されます。
2.平成29年1月23日裁決(国税不服審判所大阪支部)
〈納税者の主張〉
納税者は、国外に有する住居に年間250日以上滞在しており、国外に生活の本拠があることから、所得税法第2条《定義》第1項第3号に規定する居住者に該当しない旨主張した。
〈不服審判所の判断〉
居住者該当の判断は、国内に住所を有するか否かによるが、ここにいう住所とは生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであって、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきである。
納税者は、国内よりも国外における滞在期間が長いものの、①国内の肩書住所地を住民票上の住所として定めていること、②当該住所地所在の居宅(本件居宅)を所有していること、③国内滞在中は本件居宅において起居していたこと、④金融資産の大部分は国内の金融機関に保有している一方、国外資産はほとんど有していないこと、⑤当該住所地を自己の住所として国民健康保険に加入していること、⑥請求人と生計を一にする妻は国外に出国しておらず本件居宅に居住していたことなどの事情を総合的に考察すれば、客観的に生活の本拠たる実体を有していたのは本件居宅であると認めるのが相当である。
したがって、納税者の生活の本拠すなわち住所は国内の肩書住所地であり、納税者は所得税法上の居住者に該当する、と判断されました。
250日以上インドネシアに滞在したにも関わらず、日本居住者と認定された事例です。
主なポイントは滞在のためのビザがリタイアメントビザであったこと(インドネシアにて就労できないなどの制約あり)、滞在場所がホテルだったことや収入はほとんど国内の証券会社を通じた有価証券の売買等によるものであったことが大きく影響していると考えられます。
前回のブログから、日本に生計を一にする家族や日本の居宅、健康保険の加入のみをもって居住者とはされていないことを鑑みると、移住の目的や収入(就労)状況についてはかなり重要視されているように考えられます。
日本における金融資産の含み益課税などを避けるため一時的に海外へ生活拠点を移そうとする方が増えています。
節税目的ではない移住目的を明確化し、移住国で収入を得る状況を作るだけでなく、少なくとも家族や財産についても日本から移転させるという点についても検討すべきかと感じます。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
プロフィールはこちらをご覧下さいませ!