前回は配当、貸付金の利子について解説いたしました。
今回は国内源泉所得のうち「工業所有権の使用料等」について解説して致します。
使用料については源泉徴収漏れが多い項目です。対象となる取引の有無はしっかり確認することをお勧めいたします。
所得税法第161条1項第11号において、国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るものは国内源泉所得に該当するとされ、所得税法212条1項においてこれらの所得は源泉徴収の対象となることが規定されています。
イ 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価
ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
ハ 機械、装置,車両及び運搬具,工具並びに器具及び備品の使用料
権利のみならず、ハのような有形資産の使用料が含まれる点がポイントです。
なお、器具及び備品には,美術工芸品,古代の遺物等のほか,観賞用,興行用その他これらに準ずる用に供される生物が含まれます。
ロやハに該当する資産で、船舶や航空機において使用されるものの使用料は、居住者又は内国法人の業務に供されるものは国内源泉所得に該当し、非居住者又は外国法人の業務の用に供されるものは上記の国内源泉所得に該当しない点に注意が必要です。
イ 工業所有権等とは
工業所有権等については、所得税法基本通達161-34にて次のように規定されています。
「特許権、実用新案権、意匠権、商標権の工業所有権及びその実施権等のほか、これらの権利の目的にはなっていないが、生産その他業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作、すなわち、特別の原料、処方、機械、器具、工程によるなど独自の考案又は方法を用いた生産についての方式、これに準ずる秘けつ、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等をいう。したがって、ノーハウはもちろん、機械、設備等の設計及び図面等に化体された生産方式、デザインもこれに含まれるが、海外における技術の動向、製品の販路、特定の品目の生産高等の情報又は機械、装置、原材料等の材質等の鑑定若しくは性能の調査、検査等は、これに該当しない。」
ロ 使用料とは
使用料の範囲については、所得税法基本通達161-35にて次のように規定されています。
「工業所有権等の実施、使用、採用、提供若しくは伝授又は工業所有権等に係る実施権若しくは使用権の設定、許諾若しくはその譲渡の承諾につき支払を受ける対価の一切をいい、著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号((定義))に規定する著作物をいう。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれることに留意する。」
上記規定より、使用料はその支払いが一時的か継続的かを問いません。
「伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるもの」として、例えば技術提供を受ける者が支払う、派遣技術者の給料、旅費等に相当する金額も含まれるとされています。
ハ 業務に係るものとは
国内源泉所得とされる工業所有権等の使用料又は対価は,国内において業務を行う者が支払うその使用料等で,その使用料等の支払の基因となつた資産等のうち,その者の国内で行う業務の用に供されている部分に対応するものをいいます。
例えば親会社が外国法人等から工業所有権の提供を受け、サブライセンスとして国外の子会社等の業務の用に提供して使用料を受け取る場合、親会社が外国法人等に支払う使用料のうち、当該サブライセンスに係る部分は国内源泉所得に該当しないこととなります。
同様に、外国法人等から提供を受けた機械等の使用料についても、当該機械等が国外で使用される場合は国内源泉所得に該当しないこととなります。
所得税法基本通達161-35において、人的役務提供かそれとも使用料に該当するかの判断について、次のように規定されています。
「工業所有権等を提供し又は伝授するために図面、型紙、見本等の物又は人的役務を提供し、かつ、当該工業所有権等の提供又は伝授の対価の全てを当該提供した物又は人的役務の対価として支払を受ける場合には、当該対価として支払を受けるもののうち、次のいずれかに該当するものは使用料に該当するものとし、その他のものは当該物又は人的役務の提供の対価に該当するものとする。」
イ の対価として支払を受ける金額が,当該提供し又は伝授した工業所有権等を使用した回数,期間,生産高又はその使用による利益の額に応じて算定されるもの
ロ その対価として支払を受ける金額が,その図面その他の物の作成又は当該人的役務の提供のために要した経費の額に通常の利潤の額を加算した金額に相当する金額を超えるもの
判断は難しいですが、対価の算定根拠が上記イやロのように客観的な指標に基づいて算定されるものは使用料、例えば伝授する者の専門的知識や技術を活用して行う役務提供の対価は図面等の対価を含む場合でも人的役務提供に該当します。
なお、所得税法基本通達161-37において、使用料と派遣技術者や図面等の費用が明確に区分されている場合は区分されている使用料以外の費用は使用料に該当しないと規定されています。
どの金額が使用料に該当するかの判断は非常にデリケートになるケースが多いので、源泉徴収の対象となる金額については慎重に検討してください。
国内源泉所得に該当する使用料の判断が難しい事に加え、租税条約における使用料の判断も難しいことから源泉徴収漏れが発生しているケースがよく見受けられます。
1)所得の源泉地
使用料の所得源泉地に関する規定について,所得税法では使用地主義を採用していますが,日本の締結した租税条約をみると,①債務者主義をとっているもの(事例はこちら)と,②特に規定を置かないもの(国内法による使用地主義)に分類することができます。
多くの国は債務者主義を取っているので日本の法律と齟齬が生じます。
特に規定を置いていない国として、アメリカやイギリス(免税)、アイルランドやオーストラリア(使用地主義)があります。
2)使用料の範囲
OECDモデル租税条約では、工業所有権等並びに著作権の使用料は以下のように定義されています。
工業所有権:「特許権,商標権,意匠,模型,図面,秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として,又は産業上・商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領される全ての種類の支払金」
著作権:「文学上,美術上若しくは学術上の著作物(映画フィルムを含む。)の著作権」
過去のブログにて、インドの判例でソフトウェアの対価が著作権の使用料に該当するかどうかについて解説しています。
3)譲渡対価の範囲
工業所有権等の譲渡益については,国内法では使用料と同様に取り扱われていますが,租税条約では,(イ)使用料と譲渡収益を区分して取り扱うもの及び(ロ)譲渡収益を使用料と同様に取り扱うものに区分できます。
いかがでしょうか。
海外取引においては、債務者主義を採用している国が多いことから、日本の企業が外国法人等に使用料を支払った場合、使用地が外国であったとしても源泉徴収の対象となることがよくあります。
工業所有権等の権利については、多くの企業の方が注意するのですが、機械や器具備品、車両などの使用料についても対象となることを知らず、源泉徴収漏れを税務当局から指摘されるケースが散見されるため注意が必要です。
海外へ支払う使用料については、源泉徴収が必要か否かを以下の手順で確認してください。
①その支払が国内法に規定する使用料に該当するか
②使用料に該当した場合、租税条約においても使用料に該当するか
(例えば日本では国内法で車両も使用料の対象だが、租税条約の資産の定義で車両が含まれていないケースもある)
③使用料に該当した場合、その租税条約は債務者主義か使用地主義か
④債務者主義の場合で、日本法人が外国の事業者等へ使用料を支払っている場合は源泉徴収の可否を調べること。
(海外の支店などのPEから支払っている場合は源泉不要であったり、租税条約で使用料が免税となっている場合もある)
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
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