以前のBlogで、国外転出時課税の基礎編をお伝えしました。
今回は、国税庁が公開しているQ&Aを参考に、注意を要する項目をピックアップして確認したいと思います。
対象資産を1億円以上保有し、かつ国外転出の日前10年以内において国内在住期間が5年を超える方が対象者ですが、その在住期間からは下記二つの期間が除かれます。
・出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格(外交、教授、芸術・経営管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、短期滞在、留学等)で在留していた期間
・平成27年6月30日までに出入国管理及び難民認定法別表第二の上欄の在留資格(永住者、永住者の配偶者、定住者等)で在留していた期間
前回のBlogでも説明していますが、もう少し掘り下げて内容を確認します。
対象資産は下記のとおりです。
・有価証券(株式や投資信託等)
・匿名組合契約の出資の持分
・未決済の信用取引
・未決済のデリバティブ取引(先物取引・オプション取引等)
なお、「RS リストリクテッドストック(特定譲渡制限付株式等)で譲渡制限が解除されていないもの」や「ストックオプション」で国内源泉所得が生じるもの、及び「暗号資産」は対象資産に含まれていません。
国外転出時課税における対象資産が1億円超あるかどうかの判定は、原則国外転出予定日から起算して3カ月前の日(納税管理人を選定する場合は国外転出時)となります。
例えば7月15日が海外転出予定日だとすると、判定日は4月15日となります。
では国外転出予定日の1か月前の日に購入した有価証券は対象外として良いのでしょうか。
国外転出予定日から起算して3カ月前の日から国外転出までに新たに有価証券等を取得、又は未決済信用取引・未決済デリバティブ取引の契約締結をした場合は、その有価証券等の取得時又は未決済信用取引・未決済デリバティブ取引の契約締結時の価額で対象資産の価額を算定することとなります。
「3カ月前の日」に気を取られないようにご留意ください。
ここが本Blogの一番重要な部分となります。
1億円判定する際の評価額について各資産ごとに個別に確認しましょう。
(1)株式等
・金融商品取引所に上場されているもの:最終価格
・売買実例があるもの:最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額(総合勘案が必要なケースもあるということですね)
・類似会社の株式の価額があるもの:類似会社株価に比準した価額(実務的には難しいパターンです)
・上記以外の株式等:一株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額(相続や贈与を計算するときの株価ではなく、所得税を計算するときの株価なので、常に小会社扱い・不動産等は時価評価、法人税等控除不可などの調整が必要です)
(2)公社債
・金融商品取引所に上場されているもの:最終価格+既経過利息-源泉所得税
・売買参考統計値公表銘柄:売買参考統計値平均値+既経過利息-源泉所得税
・上記以外:発行価額+既経過利息-源泉所得税
(3)匿名組合契約の出資持ち分
・売買実例のあるもの:最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額
・上記以外:匿名組合契約を終了した場合に分配を受けることが出来る精算金の額
(4)未決済信用取引等
①有価証券の売付けをしているケース
売付けた有価証券の売付価額から、「その有価証券の下記区分に応じた金額×有価証券数」を控除した金額
・取引上売買有価証券:国外転出日等における最終売買価格
・店頭売買有価証券及び取扱有価証券:公表された国外転出日等における最終売買価格
・その他価格公表有価証券:価格公表者によって公表された国外転出日等における最終売買価格
②有価証券の買付けをしているケース
「買付けをした有価証券時価評価額×有価証券数」から有価証券のその買付価額を控除した金額
(5)未決済デリバティブ取引
・市場デリバティブ取引:金融商品取引所又は外国金融市場における国外転出日等における最終価格により決済したものとした場合に授受される差金に基づく金額又はこれに準ずるものとして合理的な方法により算出した金額
・先渡取引:先渡取引につき、当事者間で授受することを約した金額を、国外転出時等まで合理的に割り引いた金額
・金融商品オプション取引:金融商品オプション取引の権利行使により当事者間で授受することを約した金額、国外転出時等の権利行使の指標数値及び指標の予想される変動率を用いた合理的な方法により算出した金額
・上記以外のデリバティブ取引:上記に準ずる金額として合理的な方法により算出した金額
※外貨建ての有価証券
外貨建ての有価証券に係る円換算については、所得税法基本通達57の3‐2に準じて、TTBとTTSの仲値であるTTMにより円換算します
国外転出時課税の適用を受けた後で、一定の要件を満たせば下記のような減額措置等の適用を受けることが出来ます。
(1)国内転出の日から5年以内に帰国
→帰国時まで引き続き有する対象資産について、国外転出時課税により課された税額を取り消すことが出来る
(2)納税猶予期間中に対象資産を譲渡し、その譲渡価額が国外転出時の価額よりも下落
→譲渡等した対象資産について、国外転出時課税により課された税額を、その譲渡価額ベースの税額まで減額できる
(3)納税猶予期間満了日の対象資産の価額が、国外転出時の価額よりも下落
→国外転出時課税により課された税額を、納税猶予期間満了日時点の価額ベースの税額まで減額できる
(4)納税猶予期間中に対象資産を譲渡したことにより外国所得税との二重課税が生じた
→外国税額控除の適用可能
※国外転出時課税適用後に対象資産を譲渡した際の取得価額
国外転出時課税の適用により国外転出日の属する年分の所得税につき確定申告書を提出した後に、国外転出時課税の適用を受けた対象資産を譲渡等した場合、その対象資産の取得費は、国外転出時の価額となります。
国外転出時課税は、移住を検討中だけどご存じない方が一定数いらっしゃる印象です。
転出時前に有価証券を精算していれば課税を防ぐことも出来るかもしれません。
しっかり内容を理解して準備することが何より重要だと感じます。
あすか税理士法人
【国際税務担当】高田和俊
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