企業会計基準委員会は、収益認識に関する会計基準等を公表し、平成33年4月1日以降開始する事業年度(平成34年3月期)から適用されることとなりました。
これまで、収益認識に関する会計基準等の基本的な流れと特定の状況・取引おける取扱いの概要をご説明してきましたが、皆さんもお気付きの通り、新しい会計基準等が導入されることに伴って、これまで行われてきた実務が適用できなくなり実務上の負担が大きくなるのではないかという懸念が早くから示されていました。
そこで、これまで行われてきた実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、個別項目に対する代替的な取扱いが定められることとなりました。今回はその主な内容についてご説明したいと思います。
1.履行義務の識別に関する代替的な取扱い
顧客に約束した財・サービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しいと認められる場合には、それが履行義務かどうかの評価を省略することができるとされています。
また、顧客が商品等に対する支配を獲得した後に行う出荷・配送活動については、履行義務として識別しない(商品等を移転する約束を履行するための活動とする)ことができるとされていています。
2.期間がごく短い工事契約及び受注製作のソフトウェアに関する取扱い
一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができるとされています。
3.出荷基準等の取扱い
商品等の国内の販売において、出荷時からその商品等の支配が顧客に移転されるまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時からその商品等の支配が顧客移転されるまでの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができるとされています。
出荷時からその商品等の支配が顧客に移転されるまでの期間が通常の期間である場合とは、「その期間が国内における出荷・配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合」とされています。
4.原価回収基準の取扱い
一定の期間にわたり収益を認識する場合で、その進捗度を合理的に見積もれない場合は、合理的に見積ることが可能となるまで、原価回収基準(発生原価=収益として収益認識を行う)ことが求められています。
しかし、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には、収益を認識せず、進捗度を合理的に見積ることができる時点から収益を認識することも認められています。
5.重要性が乏しい財・サービスに対する残余アプローチの使用
取引価格を識別された履行義務に配分するにあたっては、各履行義務の基礎となる財・サービスの独立販売価格を基礎として配分することが求められています。
しかし、履行義務の基礎となる財・サービスの独立販売価格を直接観察できない場合で、その財・サービスが他の財・サービスに付随的なものであり、重要性が乏しいと認められる場合には、その財・サービスの独立販売価格の見積方法として、残余アプローチ(取引価格から観察可能な財・サービスの独立販売価格を控除して見積もる方法)を使用することが認められています。
6.契約の結合に関する取扱い
会計基準では、同一の顧客と同時(ほぼ同時の場合も含む)に締結した複数の契約が、以下のいずれかに該当する場合は、当該複数の契約を単一の契約とみなして会計処理を行うことが求められています。(契約の結合といいます。)
○同一の商業的目的を有するものとして交渉された場合
○1つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格や履行に影響を受ける場合
○約束した財・サービスが単一の履行義務であると判断される場合
しかし、以下の2つの条件を満たす場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約において定められている顧客に移転する財・サービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約において定められている財・サービスの金額に従って収益を認識することが認められています。
○顧客との個々の契約が当事者間で合理された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること
○顧客との個々の契約における財・サービスの金額が合理的に定められており、その金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められること
7.有償支給取引に関する取扱い
いわゆる有償支給取引の会計処理について、その取扱いが以下の通り示されています。
○企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合
支給品の消滅は認識するが、収益は認識しない。(在庫を減少させ、未収入金等の債権を計上することになると考えられます。)
○企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合
支給品の消滅も収益も認識しない。ただし、個別財務諸表においては、支給品の消滅のみ認識することができる。