2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により日本経済・世界経済は大きな影響を受けました。休業を余儀なくされ、数多くの企業が厳しい状況に直面しました。そんな中、特に中小企業や個人事業主に関しては多くの給付金や補助金、無利子・無担保での融資が行われるなど何とか事業継続のため様々な施策が打ち出されました。
そしてコロナ禍での施策も終わりを迎えた現在、無利子・無担保での融資の返済に追われ資金繰りが厳しい状況にあるなど、事業継続が難しい企業も少なくありません。
「取引先からの入金が遅れていたが遂に止まってしまった」、「突然破産申立の通知が届いた」といった事が増えている様に感じます。
今回は不良債権が生じてしまった場合、どのように対処する必要があるのか解説したいと思います。
取引先毎の通常の支払サイクルから外れて遅れて入金があり、その回収が困難なものを不良債権といいます。
取引先から、「○日にまとまった入金があるのでそれまで待って欲しい」というような交渉がある場合には資金繰りが厳しい状況である可能性があるため今後の対応を考える必要があります。
通常の支払サイクルでの入金が続けられていたにもかかわらず突然翌月から入金がなくなる、といった事も考えられます。
取引先の財務状況が良くないと判断される場合、会社法の規定により債権者であれば会社の決算書の開示を求める事が出来ます。
不良債権が生じた場合にはまず決算書を入手した上で、取引先と支払スケジュールと今後の取引についてきちんと道筋を立てる事が大切と考えます。
【会社法第442条3項】
株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求
二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
個別評価金銭債権に該当しない通常の債権(売掛金、貸付金、未収入金、立替金等の金銭債権)は一括評価金銭債権として、決算においては実績繰入率もしくは法定繰入率(一定の中小企業者等のみ)に基づいた計算によって税務上の貸倒引当金の繰入限度額計算を行います。
一方、不良債権と判断される次の債権については、一括評価金銭債権と異なり個別評価金銭債権として貸倒引当金の繰入限度額がより広く認められる事になります。
個別評価金銭債権に該当する事実が生じており、損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、その金額のうち事業年度終了の時において取立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として計算した金額まで損金に算入することが出来ます。
つまり、まずは会計において貸倒引当金を計上し、その額を上限として、それぞれ回収見込がないと認められる額のみ税務においても損が認められるということです。決算書上で貸倒引当金が計上されていない場合にはそもそも税務でも認めないという規定になっています。
では、どのような事実が生じた場合に、いくらを貸倒引当金に計上できるのか、実務に当てはめてご紹介します。
①更生計画認可等の決定
具体的には下記の事実をいいます。
イ,更生計画認可の決定
ロ,再生計画認可の決定
ハ,特別清算にかかる協定の認可の決定
ニ,再生計画認可の決定に準ずる事実等に規定する事実が生じたこと
ホ,イからハまでに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由
上記通知書が弁護士等の代理人を通して郵送で届くことが一般的だと考えられます。
これらの通知書によって弁済の猶予や賦払(分割)による弁済が行われる事が確認出来た場合には、個別評価金銭債権として次の計算により貸倒引当金の繰入限度額を算出します。
繰入限度額=金銭債権の額△上記事実の生じた日の属する事業年度の翌日から5年を経過する日までに弁済されることになっている金額
【例:3月決算法人Aの処理】
×1年1月末に700万円の債権が残っている取引先Bに関して更生計画認可決定
×2年4月1日~×7年3月31日迄に回収出来る金額は250万円
繰入限度額=700万円△250万円=450万円
②相当期間の債務超過
・債務超過の状態が相当期間継続
かつ
・事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じた等、当該金銭債権の一部の金額につき取立て等の見込みがないと認められること
繰入限度額=取立て等の見込みがない金額に相当する金額
ここでの「相当期間」とは法人税法基本通達11-2-6からもおおむね1年以上と考えられています。また、取立て等の見込みがないと認められる金額とは、他の者により債務保証が付されている場合の保証部分や担保権を設定している場合の担保物の処分による回収可能額を控除した金額を言います。
③更生手続き開始等の申立て
具体的には下記の事実をいいます。
イ,更生手続開始の申立て
ロ,再生手続開始の申立て
ハ,破産手続開始の申立て
ニ,特別清算開始の申立て
ホ,イからニまでに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由
①と似た内容に感じられますが、上記の場合は裁判所から手続き開始の通知が届きます。
繰入限度額=金銭債権の額(※)×50%
※当該債務者(取引先)から受け入れた金額(実質的に債権と見られない部分の金額)及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除きます。
【例:3月決算法人Cの処理】
×1年12月末に500万円の売掛金が未入金である取引先Dの破産手続開始決定通知が裁判所から届いた。なお、CはDに対する買掛金200万円を有している。
繰入限度額=(500万円△200万円)×50%=150万円
④公的債務者の長期履行遅延
外国政府・中央銀行又は地方公共団体の長期にわたる債務の履行遅延が生じている場合を言います。
金銭債権の経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難であると認められる場合には上記③と同じ方法により繰入限度額の計算を行います。
繰入限度額=金銭債権の額(※)×50%
※当該債務者(取引先)から受け入れた金額(実質的に債権と見られない部分の金額)及び保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除きます。
なお、会社の有する金銭債権の判定はその債務者ごとに判定を行います。
また貸倒引当金の計上は消費税の不課税取引であり、その個別評価金銭債権の貸倒引当金計上時点において回収が出来ない可能性が高い金銭債権であってもその債権に関する消費税の処理を行うことはできません。売掛金その他の債権が貸倒れとなったときに初めて、貸倒れとなった金額に対応する消費税額を貸倒れの発生した課税期間の売上げに対する消費税額から控除することができます。
いかがでしたでしょうか。
不良債権の兆候に気が付いた段階で全額回収できるよう取引先への連絡・訪問、実行可能な返済表の作成等できる限りのアプローチが大切です。また、新しい取引先の場合には有料にはなりますが、企業の信用情報を取得し事前に財政状態が健全か検討することも大切です。
ただ、日々の取引の中で突然そういった事態に直面することもあります。その場合には、回収可能なのか、いくらなら回収可能と見込めるのかを明確にする必要があります。
特に②相当期間の債務超過については、①や③の様な客観的な証明がない中での判断となるため、債務超過や取立ての見込みがないことについて事実確認が必要です。
実態が反映されておらず(多額の不良債権・不良在庫が計上されている等)、決算書上は債務超過になっていない場合もあります。その場合には何故適切なサイクルで支払が行えないのか、実態純資産の状況はどうなっているのか確認する必要があります。
また、不良債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には「貸倒損失」の処理をすることになります。これは次回のブログで紹介したいと思います。
あすか税理士法人
【スタッフ】中村麻侑子