2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を公表しました。各企業にとって大きなインパクトがあると考えられるこの新リース会計基準ですが、本ブログでは借手側の会計処理の概要を中心にご説明したいと思います。
1.リース会計基準改正の背景
ご存知の方も多いと思いますが、現行の日本のリース会計基準は2007年に完成し、当時の国際会計基準(IFRS)や米国会計基準のリース会計基準とも整合的なものとなっていました。
しかし、2016年に国際会計基準(IFRS第16号「リース」)や米国会計基準(Topic842「リース」)が公表され、リース会計の中に新たな考え方が取り入れられるようになり、日本のリース会計基準はこれらの基準と整合しないものとなってしまいました。そこで、企業会計基準委員会は、2019年から新しいリース会計基準の開発に着手し、約5年の期間を経て、今回会計基準等が公表されました。
このようなことから、新しいリース会計基準は、国際会計基準や米国会計基準におけるリース会計基準の基本的な考え方を採用して開発された一方で、国際的な比較可能性を大きく損なわない程度に代替的な取扱いや経過的な措置を定めて、実務に配慮した方策を検討することとされました。
2.会計処理の概要(借手の会計処理)
※文中の項数は、「リースに関する会計基準」の項数を指します。
(1)リースの識別
企業は、契約の締結時において、その契約の中にリースが含まれるかどうかを判断することが求められます(第25項)。ここで、リースとは「原資産(リースの対象となる資産のこと)を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約(または契約の一部分)」と定義されており(第6項)、企業が締結する様々な契約において、リースの要素が含まれていないかどうかを検討する必要があります。
(2)リース期間
借手のリース期間については、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、以下の期間を加えて決定する必要があります(第31項)。
・借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
・借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
(3) リース開始日における使用権資産及びリース負債の計上
借手は、リース開始日(借手の原資産の使用が可能となった日)に「リース負債」を計上し、このリース負債にリース開始日までに支払ったリース料及び付随費用を加算した金額で「使用権資産」を計上することとされています(第33項)。
いわゆるオンバランス処理と呼ばれる会計処理ですが、現行のリース会計基準では、リース取引のうちファイナンス・リースに該当する取引のみに適用されています。しかし、新しいリース会計基準では、すべてのリース取引について、同じ会計処理が適用されることとなったのが、大きな変更点です。
リース負債は、原則として、リース開始日において未払であるリース料からこれらに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除して、現在価値に割り引いて算出します(第34項)。
(4) 利息相当額の各期への配分
このため、リース負債に対しては、期間の経過に応じて利息(相当額)が発生することとなります。この利息相当額については、借手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分することとされています(第36項)。
つまり、リース料の支払は、会計的にはリース負債の返済と利息相当額の支払として取り扱われることとなりますが、この支払った利息相当額が各期の費用になる訳ではなく、別途利息相当額を発生主義で計上する必要があるということになります。
(5) 使用権資産の償却
資産として計上された使用権資産は、その後、期間の経過に応じて減価償却を行う必要がありますが、その取扱いは、以下の通りとなっています。
<原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース(第37項)>
減価償却費は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法によって算定し、耐用年数は経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とします。
<原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリース(第38項)>
減価償却費は、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用して算定し、耐用年数は借手のリース期間とし、残存価額はゼロとします。
(6)リースの契約条件の変更
リースの契約条件の変更が生じた場合には、以下のいずれかを行うこととされていますが、契約条件の変更に複数の要素がある場合は、両方を行うこともあるとされています(第39項)。
・変更前のリースとは独立したリースとして会計処理を行う
・リース負債の計上額の見直しを行う
(7)リースの契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し
また、リースの契約条件に変更が生じていない場合でも、次のいずれかに該当する場合には、リース負債の計上額の見直し行う必要があります(第40項)。
・借手のリース期間に変更がある場合
・借手のリース期間に変更がなく、借手のリース料に変更がある場合
3.財務諸表における表示及び注記事項(借手の場合)
※文中の項数は、「リースに関する会計基準」の項数を指します。
(1)財務諸表等における表示
<使用権資産>
以下のいずれかの方法により、貸借対照表に表示します(第49項)。
・対応する原資産を自らが所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法
・対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産または投資その他の資産)において使用権資産として区分する方法
<リース負債>
貸借対照表において区分して表示するか、リース負債が含まれている科目及びその金額を注記することとされています。また、リース負債の支払期限(1年以内か1年超か)によって、流動負債と固定負債に区分することも求められています(第48項)。
また、リース負債に係る利息費用については、損益計算書において区分して表示するか、リース負債に係る利息費用が含まれている科目及びその金額を注記することとされています(第50項)。
(2)財務諸表等における注記事項
収益認識基準と同様に、開示目的が定められており(第54項)、企業はこの開示目的を達成するために必要な注記を行うことが求められています。
<注記事項(第55項)>
① 会計方針に関する情報
② リース特有の取引に関する情報
③ 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報
4.適用時期等
公開草案の段階では、この会計基準の確定版の公表から2年程度が経過した日を想定しているとされており、具体的な適用日については、まだ示されていませんでした。確定版の公表にあたり、連結・単体ともに2027年4月1日以後開始する年度(3月決算会社であれば2028年3月期)の期首から適用することとされ、2025年4月1日以後開始する年度からの早期適用も認められています。
また、上記の通り、いわゆる連単分離(連結財務諸表と個別財務諸表とで異なる取扱いとする)の考え方は採用されていないため、個別財務諸表の作成段階から新しいリース会計基準を適用するための対応(内部管理体制等も含めて)が必要になると考えられます。
また、今回は、詳細について触れていませんが、同時に公表された「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)では、短期リースや少額リースに関する簡便的な取扱いも定められており、これらの適用を含めた新リース会計基準の影響度の評価が必要となります。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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