2024年2月21日、事前確定届出給与の該当性が争われた裁判で、事前確定届出給与の届出内容と異なる金額の役員賞与が損金不算入とされる判決がでました。
(東京地裁令和6年2月21日判決(令和4年(行ウ)第566号))
この裁判を題材に、今回は事前確定届出給与の手続きについて確認したいと思います。
裁判の概要を以下箇条書きで示します。
・原告X社(6月決算)は令和元年9月30日に開催された定時株主総会で代表取締役2名に対する賞与について決議し、同年10月16日に「支給時期:令和2年6月30日、支給額:2,800万円」と記載した事前確定届出給与に関する届出書を提出した。
・X社は、令和2年6月30日に事前確定届出給与の記載と異なる金額である2,500万円を支給し、令和2年6月期の法人税において本件各支給額の合計5,000万円を損金算入して確定申告を行った。
・国は、本件5,000万円は事前確定届出給与に該当しないとして法人税の更正処分を行ったことで争いとなった。
東京地裁は、事前確定届出給与の趣旨を鑑みると、本件支給額5,000万円は損金算入することはできないと判断しました。
今回の裁判では、裁判所が事前確定届出給与の届出額と支給額と異なる場合(今回のケースでは減額支給)に支給額の「全額」が事前確定届出給与に該当しないと判断したことがポイントといえるでしょう。
他にも、これまで事前確定届出給与の該当性に関する税務訴訟は少なく、今回は裁判所が事前確定届出給与の趣旨について述べたことは重要だと思います。
今回東京地裁が示した「事前確定届出給与」制度の趣旨と判決の考え方について、参考として以下箇条書きで示します。
・役員給与は、会計上は費用とされるが、法人と役員との関係性を考慮すると、役員給与の額を無制限に損金の額に算入することとすれば、法人が役員給与の額をほしいままに決定することにより、法人所得の金額を調整することが可能になってしまう。
・よって法人税を回避するなどの弊害が生じ課税の公平性を害することから、役員給与のうち損金算入できるものには一定の要件が存在している。
・そのうち「事前確定届出給与」は、事前に支給時期と支給額が株主総会において確定的に定められ、事前確定届出給与の届出を提出した給与については、役員給与の支給額をほしいままに操作し法人税の課税を回避する弊害がないため、これを損金に算入することを認めたものと解釈することができる。
・今回のケースを認めてしまうと、例えば支給額を高額に定めて事前確定届出給与を提出して予め枠取りをしておき、その後に届出金額よりも減額した金額で支給して損金算入額を操作し法人税課税を回避することが可能となってしまう。これは事前確定届出給与制度の趣旨を没却するものであり、課税の公平性を害する危険性があるものである。
・したがって事前確定届出給与は、株主総会等の決議で役員給与が確定的に定められ、その決議に基づいて事前確定届出給与の届出がされた場合、それに従って届出がされた通りに支給する給与のみと考えるのが相当である。
・よって、事前確定届出給与の届出と異なる金額の役員給与が支給された時は要件を満たさず、実際に支給された役員給与額の損金算入は認められない。
裁判例を踏まえて、事前確定届出給与の支給に際して必要な手続きを確認していきます。
事前確定届出給与が高額になった場合、法人税への影響が大きくなります。
手続きに関しては余裕をもって慎重に行うようにしましょう。
①対象の役員・支給日・支給額を決める
裁判例で確認したように、事前確定届出給与として進めるためにはいつ・いくら・誰に支給するか?を確定的に決めることが必要となります。
②株主総会で決議する
①で決定した内容を株主総会で決議します。
なおこの決議方法は一般的には下記のような方法で行われます。
A.株主総会で役員給与の総額を決議→役員別の支給額は取締役会に一任する方法
B.株主総会で役員別の給与額まで決議してしまう方法
株主総会や取締役会は必ず議事録を作成・保管するようにしましょう。
③事前確定届出給与を提出する
事前確定届出給与の提出期限は、
・株主総会等の日または職務を開始する日から1か月以内
・事業年度開始の日から4か月以内
のいずれか早い日が提出期限です。
提出方法はe-taxによる提出もしくは所轄税務署への書面提出です。
期限を確認しておき、提出が遅れないようにしましょう。
④事前確定届出給与を支給する
裁判例でも確認したように、事前確定届出給与の内容通りに支給することが求められます。
支給日・支給額が届出内容とズレないようにしましょう。
今回の裁判では、事前確定届出額と実際支給額に相違があった場合にその全額について損金算入が認められませんでした。
本件では原告が東京高裁に控訴しており、続報に注目です。
それでは今回のまとめです。
・支給時期や支給額に届出額と相違があった場合は実際支給額の全額が損金不算入となる恐れがあるため、届出と実際支給にズレが無いようにすることが重要。
・役員給与は高額になることが多く、法人税に大きな影響を及ぼすため、提出期限の確認と書類の作成は慎重に。
・疑問点や不明点は税理士などの専門家に相談が〇
あすか税理士法人
スタッフ 西浦翔太