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会計・ファイナンス・監査2020.07.29 不正会計について考える(10)【内部統制評価の見直し②】

不正会計について考える(9)では、不正会計に対して内部統制が十分に機能していないのではないかという問題認識のもとに、内部統制の整備状況の十分性(不備)について、より深い検討がなされる必要があることを述べました。今回は、具体的にどのような検討の機会があるのか考えてみたいと思います。

 

 

1.全社的な内部統制の有効性評価

 

 

不正会計について考える(5)では、不正会計が起きた事案について、以下のような全社的な内部統制の問題点があったことを述べました。

 

取締役会は機能していなかったのではないか?

コンプライアンス意識が浸透していなかったのではないか?

内部通報制度が機能していなかったのではないか?

内部監査が機能していなかったのではないか?

業績管理は不正発見に役立っていなかったのではないか?

 

しかし、このような全社的な内部統制については、事前の評価ではなく、不正会計を含めた財務諸表の重要な虚偽表示が発生した場合に、結果的に重要な不備があったと認識されるケースが多いという指摘があります。

 

これは、全社的な内部統制に何らかの問題が認識されたとしても、その影響度合いを評価することが実務上困難であるという点に起因していると考えられます。このため、その問題点を内部統制上の不備(=改善すべき課題)として評価することが躊躇されているのではないかということです

 

内部統制報告上の評価の困難さはあるものの、全社的な内部統制に関する問題点を共有し、改善に向けた取組みを進めることは不正会計を予防するという観点からは非常に重要であると考えられます。形式的な対応に終始していないかどうかという観点から内部統制評価を見直す必要があると考えられます。

 

 

 

2.関係会社管理という視点での内部統制評価

 

 

内部統制報告におけるルールとの兼ね合いから、規模の小さな連結子会社や非連結子会社は、内部統制の評価範囲から外れているケースが多いとの指摘があります。しかし、不正会計について考える(3)でも述べた通り、重要性の低い子会社や主要な事業以外の事業(ノンコア事業)を営む子会社で不正会計の事案が増えている傾向があります。

 

また、全社的な内部統制の評価は、内部統制評価の実施基準の例示に基づいて行われているケースが多いと考えられますが、この例示は、一般的な整理がなされたものであるため、関係会社管理という視点が明確に意識されている訳ではないという指摘もあります。

 

このように、内部統制報告におけるルールを形式的に当てはめるのではなく、企業グループの必要な範囲に必要な内部統制が行き渡っているか(=関係会社管理に関する内部統制は十分か)という観点から内部統制評価を見直す必要があると考えられます。

 

この点については、子会社や関連会社にコントロールの仕組みを追加したり、様々な文書化を求めていくというよりも、親会社のモニタリング機能を充実させるという発想が重要なように思われます。詳しくは、不正会計について考える(6)をご覧ください。

 

 

 

3.主要な業務プロセスの内部統制評価

 

 

主要な業務プロセスの内部統制評価については、かなりの時間を割いて行われているケースが多いと思われます。しかし、以下のような点に当てはまることはないでしょうか?

 

整備状況の評価が軽視されていたり、単純に前年度の整備状況の評価を踏襲していないか?

これまで識別していなかったリスクを識別したり、業務プロセスの中に弱点(改善すべき課題)を発見した場合は、内部統制の整備状況を見直す必要があるはずです。ところが、内部統制評価においては所定のテンプレートの消込に終始している…こんな状況にはなっていないでしょうか?

 

棚卸資産(特に原価計算)プロセスを評価対象としているか?

不正会計について考える(4)で述べましたが、不正会計が生じる領域として、以前は売上・売掛金が注目されていましたが、最近では、棚卸資産の過大計上(水増し計上)によるものが増えてきています。棚卸資産に関する業務プロセスはチェックされていないことに気付いた担当者が…そのようなことがないようにしたいですね。

 

運用状況の評価を表面的な承認の有無だけの確認に終始していないか?

業務プロセスにおける内部統制評価においては、作業者とは別の者(通常は上席者)の承認というコントロールを評価対象にするケースが多いと思われます。しかし、不正会計について考える(7)でも述べましたが、内部統制の有効性を評価するには、承認者が作業者の成果物に対して、どのようなチェックを行ったのかという点が非常に重要です。「押印があるのでOK」では、内部統制の問題点をあぶり出すのは難しいということです。

 

 

内部統制によって不正会計を完全に予防することは困難ですが、一方で、不正会計の事案を振り返ると、内部統制の問題点を認識できていなかった、あるいは、認識していたけど改善ができていなかったというケースが多いのも事実です。

 

内部統制報告制度の意義が問われているだけに、皆さんの会社の内部統制評価は意味のあるものになっているか、一度問いかけてみてはいかがでしょうか。

 

 

【参考資料】

「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」

(監査・保証委員会研究報告第32号 2018年4月6日 日本公認会計士協会)

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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