インボイス制度が施行され、半年以上が経過しています。
今回は特定課税仕入れであるデジタルサービスを受けたときのインボイス制度による変更点や注意点について、またそもそも特定課税仕入れとは?リバースチャージとは?を簡単に確認していきたいと思いますm(__)m
消費税法では、事業者向け電気通信利用役務の提供と特定役務の提供を特定資産の譲渡等(特定資産の譲渡等を受けた場合、特定課税仕入れ)として規定しています。
事業者向け電気通信利用役務の提供とは、外国事業者から受けるデジタルサービスのうち、事業者しか受けないと想定されるもの(一般消費者が受けないようなサービス)を言います。代表的なものとして、広告の掲載があります。一般消費者はネット上に広告を掲載しませんよね。
これに対して、いわゆる消費者向け電気通信利用役務の提供というものがあります。
事業者だけでなく、一般消費者も受けることが想定されるデジタルサービスのことです。例えば、電子書籍やゲーム、動画コンテンツの配信などです。これは事業者だけではなく一般消費者もサービスを受けますよね。
一方、特定役務の提供とは、日本国内のイベント会社が企画運営しているコンサートやイベントなどに、外国の芸能事務所などの事業者が所属の俳優・ミュージシャンやアスリートの出演させるようなサービスをいいます。
近年はサービスのデジタル化が顕著です。ネットを経由して音楽、ゲームや動画をダウンロードしクレカや電子決済で支払った経験を皆さんもお持ちだと思います。
消費税では、このようなデジタルサービスに対してどのように課税するのか?という問題が出てきます。
それではデジタルサービス課税の何が問題なのでしょうか?
もし仮に、デジタルサービスが全て国内で完結している場合は比較的簡単な話なのです。
その場合、通常通り国内事業者が国内の消費者に向けてサービスを行っているので、サービス提供側の国内事業者に消費税を申告・納税させればOKということになります。
ただ問題なのは、日本で事業をしていない外国事業者が日本国内にいる人に対してデジタルサービスを提供した場合にどのように消費税を課税するのか?という問題が生じます。
単純にその外国事業者に消費税を申告・納税させれば良いだけでは?と思うのですが、外国事業者からすると事業所やPEも置いていない日本でわざわざ消費税を納税しなければならなくなります。
このような形ではきちんと日本で申告・納税をしてもらえないかもしれません。
さらに外国事業者は外国にあるので、日本国政府のお役所である国税庁は外国では税務調査などをすることが出来ません。
この結果、本来日本で申告・納税されるべき消費税がうまく徴収できないという事態になる可能性があるのです。
このように、国境を超えた取引が容易にできるというデジタルサービスの性質上、消費税の課税が困難になっているのです。
そこで、日本の消費税法では特定課税仕入れに関して「リバースチャージ方式」という課税の仕組みが採られています。
このリバースチャージ方式は、言わば消費税の源泉徴収のような方法です。
(すこし難しいですね、、)
一体どうするのかというと、「ネット広告掲載などの事業者向けデジタルサービスを受けた側(仕入れた側)が消費税を納めなさい」ということなのです。
これにより特定課税仕入れであるデジタルサービスを受けた事業者はその支払金額に対して消費税を納める義務を負いますが、同時に、特定課税仕入れは課税仕入れであるため、その消費税は仕入税額控除の対象となります。
※なお課税売上割合が95%以上である場合は、納税が生じる税額と仕入税額控除対象となる税額が同額となると考えられるため、当分の間、特例課税仕入れはなかったものとして申告を行わなくともOKという経過措置があります。
(簡易課税制度・インボイスの2割特例を使うときも同様。)
このように、いわば特例的な考え方により国内事業者の消費税申告において売上と仕入を両建処理することで、外国事業者を介在させずに適切に消費税を徴収できることとなります。
一方、消費者向け電気通信利用役務の提供が特定課税仕入れに含まれないのは、サービスを受ける側である一般消費者は消費税の申告・納付を行わないので、このリバースチャージ方式が使えないからということになりますね。
ちなみに消費者向け電気通信利用役務の提供の場合は「登録国外事業者制度」が採用されていました。
これは日本で消費税を申告・納付してくれそうな外国事業者は登録国外事業者として登録しておき、登録国外事業者からの消費者向け電気通信利用役務の提供に関しては仕入税額控除を認めるというものです。
そのため、登録国外事業者ではない国外事業者からの消費者向け電気通信利用役務の提供に関しては仕入税額控除が認められませんでした。
しかし後にも述べますが、インボイス制度によりこの登録国外事業者制度は廃止されることとなりました。
ここまで述べたような方法で日本の消費税法は外国事業者から受けたデジタルサービスに対して課税を行ってきました。
2023年10月より施行されたインボイス制度によりデジタルサービス課税はどのような影響を受けたのか?
事業者向け電気通信利用役務の提供と消費者向け電気通信利用役務の提供のそれぞれの場合で確認したいと思います。
①事業者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合
リバースチャージ方式により、この分の消費税の納税義務があるのは「サービスを受けた側」です。
よって仕入れの相手側である外国事業者がインボイス番号を登録していようがしていまいが、リバースチャージ方式による消費税申告が必要となります。
すなわちデジタルサービスの支払対価に応じた金額について納税義務が生じると同時に、仕入税額控除を受けることが可能です。
②消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合
外国事業者からいわゆる消費者向けのデジタルサービスを受けた場合は、リバースチャージ方式による申告が適用されないため、デジタルサービスの支払対価に応じた金額について納税義務は生じず申告は不要です。
また「登録国外事業者制度」は廃止されたため、相手側の外国事業者がインボイス番号を登録していれば仕入税額控除が可能です。
この点、通常の課税仕入れと同じように仕入税額控除の申告を行えばOKということですね。
なおかつての登録国外事業者には自動的にインボイス番号が付与される経過措置がありますので、特別な手続きを踏んでいない場合は登録国外事業者=適格インボイス事業者と考えてよさそうです。
また、相手側の外国事業者が免税事業者であったり、インボイス事業者の登録を受けていない場合は80%控除の経過措置を受けることが出来ず、仕入税額控除は完全にできない点に注意が必要です。
※なおデジタルサービスが1万円未満である場合は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能な少額特例を受けることが出来ます。
少額特例を適用することで、適格インボイスのない外国事業者から受けるデジタルサービスも仕入税額控除が可能です。
・消費税は外国事業者が日本の消費者に対して行うデジタルサービスに対する課税の方法が問題になる
・リバースチャージ方式が採用される事業者向けのデジタルサービスは、適格請求書の有無に関わらず、今まで通りに申告を行う
・消費者向けのデジタルサービスは、登録国外事業者制度が廃止されたため適格請求書があるかどうかを確認し、通常の課税仕入れと同様に仕入税額控除の適用可否を判定する必要がある
・適格インボイス発行事業者でない事業者から受けた消費者向けのデジタルサービスは、インボイス制度の80%の仕入税額控除の経過措置を受けることができない
・適格請求書のない消費者向け電気通信利用役務の提供は、1万円未満であれば少額特例が使える
あすか税理士法人
スタッフ 西浦 翔太