新型コロナウィルスによる感染者が、国内外問わず再度増加傾向にあります。
結果として、企業の人員配置転換が予定通りに進んでいない企業が多く、特に海外出向等も絡むケースは、その人員配置調整に大変苦労されていると伺っております。
今回は、予定通り出国・入国出来なかったことに伴う税務上の留意点について、国税庁Q&Aを活用しながら確認していきたいと思います。
【前提】
・外国法人に転職(現地で1年以上勤務予定だった)
・新型コロナウイルス感染症の影響で日本から出国できず、当分の間、国内で外国法人の業務に従事(国内在宅勤務)
・外国法人は日本に事務所等を持っていないため、外国法人から支給される給与は源泉徴収されていない
【疑問】
日本での税務申告は必要なのか?
【答え】
日本での税務申告が必要
【解説】
・国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人は、居住者に該当(所得税法2条1項3号)
・居住者が勤務先から受け取る給与、賞与などは給与所得(所得税法28条)に該当し、所得税の課税対象
よって、本来の勤務地(外国)に関わらず、外国法人から得た給与について日本で居住者として確定申告の上、所得税を納める必要があります。
【前提】
・内国法人(日本法人)が外国法人から従業員と役員を受け入れた
・新型コロナウイルス感染症の影響で日本に入国できず、当分の間、海外で日本法人の業務に従事(海外在宅勤務)
【疑問】
(1)従業員について、日本法人は支払給与に係る源泉徴収義務があるのか?
(2)役員について、日本法人は支払報酬に係る源泉徴収義務があるのか?
【答え】
(1)従業員として受け入れた方については源泉徴収義務なし
(2)役員として受け入れた方については源泉徴収義務あり
【解説】
・国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人は、居住者に該当(所得税法2条1項3号)
・非居住者とは、居住者以外の個人をいう(所得税法2条1項5号)
・非居住者が日本国内において行う勤務に基因する給与は、国内源泉所得として所得税の課税対象(所得税法161条1項12号イ)
・非居住者に対して国内において国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際に所得税(及び復興特別所得税)の源泉徴収をする必要あり(所得税法212条1項等)
・非居住者である役員に対して支払う報酬については、一定の場合を除き(勤務地を問わず)国内源泉所得として所得税の課税対象となり、その支払の際に20.42%の税率により源泉徴収する必要あり(所得税法161条1項12号イ、213条1項1号等)
よって、外国法人から受け入れる者が従業員であれば源泉徴収の必要はなく、役員として受け入れる場合は20.42%の源泉徴収が必要となります。
【前提】
・内国法人(日本法人)は従業員を3カ月の予定で外国法人に派遣
・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、派遣期間終了後もしばらく、従業員を日本に帰国させずに引き続き現地において内国法人の業務に従事させた
・当該従業員には内国法人から給与を支給
・当該従業員は、通常は日本国内で家族と暮らしており、帰国後も同様
【疑問】
(1)派遣期間中に支払った給与について源泉徴収義務はあるのか?
(2)当該従業員は日本で税務申告が必要なのか?
【答え】
(1)源泉徴収義務あり
(2)当該従業員は日本で税務申告をする必要あり
【解説】
・当該従業員は、一時的に海外に滞在していますが、国内に住所を有していると認められるため、居住者に該当すると考えられる(実務的には総合勘案が必要)
・居住者である従業員に対して支払う給与については、出国前と同様に所得税を源泉徴収する必要あり(所得税法183条)
海外で勤務する居住者に対して、日本で支給する給与については、所得税の源泉徴収が必要となります。また当該従業員は内国法人が行う年末調整を通して日本で税務申告を行うこととなります。
また、当該海外勤務に伴い現地でも税金が発生した場合は、二重課税を避けるため確定申告(外国税額控除)を行う必要があります。
なお、滞在する国と日本が租税条約を締結している場合、「短期滞在者免税」規定により現地税金が免除となるケースもあります(下記4、を参照してください)。
【前提】
・外国法人に従業員を1年以上出向させていた
・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、従業員を一時帰国させており、現在当該従業員は日本で海外現地法人の業務に従事している
・当該従業員には海外現地法人からの給与のほか、内国法人から留守宅手当を支給
・海外現地法人は日本国内に支店等を有していない
【疑問】
(1)内国法人が支給する留守宅手当について源泉徴収は必要か?
(2)当該従業員は日本で税務申告が必要なのか?
【答え】
(1)20.42%で源泉徴収義務あり
(2)当該従業員は日本で税務申告をする必要無し
【解説】
・当該従業員は、1年以上海外に居住かつ日本に一時帰国なので原則的に非居住者に該当
・非居住者に対して国内において国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際に所得税(及び復興特別所得税)の源泉徴収をする必要あり(所得税法212条1項等)
・非居住者に対する給与については、その支払の際に20.42%の税率により源泉徴収が必要(所得税法213条1項1号等)
・租税条約に定める下記「短期滞在者免税要件」を満たす場合は、所定の手続きを行うことにより日本での源泉徴収が不要
①滞在期間が課税年度又は継続する12か月を通じて合計183日を超えないこと。
②報酬を支払う雇用者等は、勤務が行われた締約国(日本)の居住者でないこと。
③給与等の報酬が、役務提供地にある雇用者の支店その他の恒久的施設によって負担されないこと。
※上記「短期滞在者免税要件」は一般的な例なので実際の租税条約をご確認ください
今回のケースは、留守宅手当支給者が日本の居住者(内国法人)であるため、上記要件の②を満たさないこととなり、短期滞在者免税の規定が使えないため、20.42%の源泉徴収が必要となります。
なお、現地法人から支給される給与のうち、日本一時帰国期間相当額については、日本国内源泉所得として当該従業員が申告納税義務を負いますが、上記短期滞在者免税要件を満たす場合(留守宅手当と異なり、②も満たします)は日本での申告納税が免除され得ます。
如何でしたでしょうか。
更に影響が長期化すると、課税判断が変わってくることも想定されます。
実務処理される際の法律や租税条約の確認を確実に行うことをお勧めいたします。
税務当局が各国の所得をどのように把握するのか、気になる方はこちらのBlog(海外出向者の日本支給給与の申告義務)をご参照くださいませ。
あすか税理士法人
【国際税務担当】高田和俊
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