結婚相手がアメリカ人で口座を保有している、アメリカ在住中に口座を開設した、ネット経由で口座を開設したなど、理由はなんであれ米国の証券口座をお持ちの日本居住者の方は多いと思います。
外国の証券口座で得た配当や株式の譲渡については日本居住者であれば日本で確定申告が必要となります。
一方で、日本と同じようにアメリカの配当などについてはアメリカで源泉徴収がされます。
よくある質問として、以下の2点があります。
1.源泉徴収された税率が商品によって違うのはなぜ?
2.源泉徴収された税額は日本で控除できる?
今回は1についてアメリカの源泉徴収の仕組みを解説し、次回は日本における所得の取扱いと外国税額控除の対象となる金額について解説いたします。
米国では大きく5種類の株式が流通しています。
①米国企業の上場株式
②American Depositary Receipt(ADR)
③Master Limited Partnership
④Real Estate Investment Trust(REIT)
⑤OTC(店頭株)
②は米国預託証券と呼ばれ、米国以外の国の企業が発行した株式を裏づけとして米国で発行される有価証券のことです。
新興国の株式を直接現地で購入することは基本的に不可能ですが、このADRの仕組みを利用すると日本にいながら新興国の株式を実質的に保有することができるようになります。
③は米国における共同投資事業の形態の1つであるリミテッド・パートナーシップ(LP)のうち、総所得の90%以上を米国歳入法によって定められたエネルギー、天然資源関連、不動産などの特定の事業から得ており、かつ、その出資持ち分がニューヨーク証券取引所(NYSE)やNASDAQなどの金融商品取引所に上場されているものをいいます。
④は投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、マンションなどの不動産を購入、運用し、そこから発生する賃貸料収入や不動産譲渡益を分配する投資をいいます。
⑤はOver the Counter Bulletin Board(OTCBB)またはPink Sheetsで取引が可能です。
OTCBBはとPink SheetsはいずれもNYSEやNASDAQへ上場していない銘柄が取引の対象となりますが、前者が監査済みの財務諸表の登録を行っている銘柄が対象となるのに対し、後者はマーケット・メーカーによる申請のみで登録が可能な銘柄が対象となり、証券の発行者が法令上要求される以上の情報開示が必要ないという違いがあります。
後者の方がリスクは高いと考えられます。
②のADRなども基礎となる会社が厳しい交換要件を望んでいない、または満たすことができない場合はOTCで取引されることがよくあります。
また、②ADRや⑤OTCについては株式としての取扱が難しいということから、配当を再投資することができないことが多いようです。
上記1①の米国企業の上場株式の配当については日米租税条約に基づいて10%源泉徴収が基本となります。
上記1②のADRの配当はその株式を発行した企業の国の税率によります。米国の税率ではないことに注意が必要です。
例えばカナダやフランスの企業であれば15%、イギリスやロシアは10%です。ただし、英国など株式保有者の収入額によって税率が変わる国もありますが、納税情報がない外国人についてはその国の最高税率で源泉徴収するようです。
また、ADRは米国では源泉徴収が行われず、母国で源泉徴収された後の金額が入金されます。これだけ聞くと米国証券会社は慈善事業のように見えますが、保管料という名目で別途費用を徴収しています。
上記1③MLPと④REITは特定の事業に投資し、9割などの一定以上の利益を投資家に配分することで法人税が免除されます。
米国居住者への分配であれば源泉徴収はされませんが、米国非居住者は米国で申告をしないことから米国証券会社は連邦所得税の最高税率(37%)で源泉徴収して支払います。
日本の場合はLPは法人格があるものとして、分配金は配当として取り扱う判例が多いことから、日本の投資家は配当所得として申告することが原則です。
⑤のOTCは取引銘柄によって①~④のいずれかの取扱になります。
いかがでしょうか、日本の証券税制もかなり複雑ですが、米国も非常に複雑だと感じます。
次回は米国証券会社経由で分配された配当が日本でどのように課税されるのか、また、源泉徴収された税額は日本で全額控除が可能か。という点について解説したいと思います。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆