国内での事業が順調に伸びて来たので実施した海外子会社設立。
海外子会社を有する場合に特に税務調査官が敏感に反応する三項目があります。
✔ 海外子会社設立時費用
✔ 給与・旅費の負担割合
✔ 海外子会社貸付金の放棄(貸倒損失)
海外子会社設立時費用については、先のブログをご参照下さい。
今日は三つ目の「海外子会社貸付金の貸倒損失(放棄損)」についてフォーカスしたいと思います。
どのような「貸付金放棄」がいけないのか、具体的な話をする前に、そもそも何故「貸付金放棄」について税務当局が敏感なのかを説明します。
日本の法人税法には「国外関連者に対する寄附金」という論点があります。
「国外関連者」とは、ざっくり言うと、一方の法人(例えば日本法人)が他方の法人(例えばベトナム法人)株式の50%以上を保有する場合の外国法人(ベトナム法人)などを指します。親子関係が逆のパターンもあります。
これらの「国外関連者」に対して、国外関連者の為だけの支援を行うと、その支援額について『寄附金』と認定され、全額損金不算入となります。
つまり、会計で経費処理(貸倒損失計上)が出来ても、法人税計算時にはその経費が認められず(所得をプラスさせられ)、結果として多額の法人税等を納めなければならなくなります。
一般的に、海外子会社に対する貸倒損失は数千万円~数億など大きな金額になるケースが多く、税務調査時に指摘を受けると、思わぬ税務負担を負うことになりかねません。
税務調査で否認した金額の100%がそのまま課税所得にプラスされ、税金が発生するので税務調査官もシビアにチェックすることになります。
では、海外子会社に対する貸付金を放棄した場合、何でもかんでも寄附金認定を受けるのでしょうか??
流石に、そんなことはありません!
先ほど申し上げましたが、国外関連者の為だけの支援をしている場合は寄附金認定リスクがありますが、「貸倒損失について、経済合理性が存する場合には、その貸倒損失は寄附金の額に該当しないものとして取り扱う」旨が国税庁の質疑応答事例等に掲載されています(抜粋&編集済)。
ではこの経済合理性判定はどのように行うのでしょうか?
経済合理性は次のような点について総合的に見当することとなります。
1)損失負担等を受ける者は、「子会社等」に該当するか。
2)子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機にあるか)。
3)損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)。
4)損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)。
5)整理・再建管理はなされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)。
6)損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっていないなど恣意性がないか)。
7)損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけ不当に負担を重くし又は免れていないか)。
これらの項目のうち、特に重要と思われる2)~4)について掘り下げます。
2)で挙げられた「経営危機」とは、子会社等が債務超過の状態にあることから資金繰りが逼迫している場合等が想定されます。
債務超過等でも子会社が自力で再建することが可能であると認められる場合は、経済合理性が無いと判断され得るので注意が必要です。
なお、「債務超過が絶対条件」ではありません。
例えば次のようなケースは貸倒損失の経済合理性が認められる可能性があります。
・許認可の関係等で赤字決算では当該許認可等の維持が出来ず倒産を待つ状態になる場合において、これを回避するために財務体質の改善が必要である場合等
・営業譲渡等による子会社等の整理等に際して、譲受者側等から赤字の圧縮を強く求められた場合
ここからは私見ですが、例えば金融機関や主要取引先から強く求められて、やむを得ず赤字圧縮をしたケースなども経済合理性が認められる可能性があるように思います。
つまり、「なんとかしてやらな、しゃーない状態」にあるイメージです。
3)で挙げられた「支援者にとって損失負担等を行う相当な理由」があるか否かは、例えば次の効用が期待されるようなケースとなります。
・損失負担等を行い子会社等を整理することにより、今後被るであろう大きな損失を回避することが出来る場合
・子会社等を再建することにより、残債権の弁済可能性が高まり、倒産した場合に比べ損失が軽減される場合若しくは支援者の信用が維持される場合
つまり、「損失負担する会社にとってメリットがあるからする負担」でないといけないイメージです。「子会社のためにする負担」だけではダメです。
次に、4)で挙げられた「損失負担額の合理性」については、次のような点から検討することとなります。
・損失負担(支援)額が、子会社等の整理・経営危機回避・再建のための「必要最低限」の金額か否か
・子会社等の財務内容、営業状況の見通し等及び自己努力を加味したものとなっているか否か
つまり、「経営危機等を回避するための最小限の支援」であり、かつ「子会社等も努力した結果の苦肉の策」でないといけないイメージです。
いかがでしたでしょうか?
海外子会社に対する貸付金について損金処理で債権放棄(海外子会社から見ると債務免除)をする際は、かなり入念な分析と準備が必要です。
「今期は日本親会社の業績が良く、かつ、海外子会社が苦しんでいるので、日本サイドの節税も考慮して思い切って債権放棄しよう!」と単純に処理してしまうと、後からやってくる税務調査でかなり厳しく追及を受けることになります。
また、本当に「経済合理性がある」債権放棄が実態だとしても、それを証明する証拠資料をキチッと作成保存していないと、残念ながら税務当局より指摘を受け、訴訟に発展する可能性すらあります。
貸倒損失について税務当局から指摘を受ける場合は、貸倒損失額の全額が加算されるだけでなく、「そのような処理をしている会社は国際税務に関する対処が出来ていない」と税務調査官に心証づけることにもなりかねません。
海外関連者に対する貸倒処理に際して準備しておくべき書類は非常に多岐にわたりますので、国際税務の専門家へ御相談されることをお勧め致します。