令和6度税制改正大綱に掲載された「定額減税」制度についてご説明致します。
今まで無かった新制度で、実務担当者の負担は結構大きいと言えます。まだ法律として確定するのは令和6年3月末頃の予定ですが、現時点での情報を整理したいと思います。
参考にしたのは、国税庁の「令和6年分所得税の定額減税のしかた」及び、「令和6年分所得税の定額減税Q&A(令和6年3月改訂版)」、そして総務省の「個人住民税の定額減税(案)に係るQ&A集(第1版)」となりますので、気になる方は現物の確認をお願いします。
また定額減税については弊社スタッフの西浦がよりコンパクトに説明したBlogがあるため、こちらも併せて御確認頂ければ幸いです。
今回の制度は「所得税」と「住民税」の減税制度です。
まず結論ですが、
「所得税」:納税者本人・配偶者・扶養親族のそれぞれ一人につき@30,000円減税
「住民税」:納税者本人・配偶者・扶養親族のそれぞれ一人につき@10,000円減税
されます。
ポイントは「対象者」「定額減税額」「減税方法」です。
そもそもですが、なぜ今回の定額減税が導入されるのでしょうか?
総務省資料によれば「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和するため、デフレ脱却のための一時的な措置として減税を実施する」とされています。
物価の上昇による国民負担増を減税からサポートする制度と言えます。
居住者のうち、令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下の人となります。
「合計所得」は少し分かりづらいですが、給与以外の所得が無い方は、給与年収(税引前)が2,000万円以下の方が対象です。
「居住者」に限定されているのもポイントです。
居住者のみを対象としているのは、定額減税が国内におけるデフレ脱却のための一時措置であるためです。
(1)所得税
減税額は、次の金額の合計額(所得税額が上限)です。
①本人(居住者に限る):30,000円
②同一生計配偶者(※1)及び扶養親族(※2)(いずれも居住者に限る):30,000円(一人につき)
(※1)同一生計配偶者:納税義務者本人と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除く)のうち合計所得が48万円以下(給与所得のみなら年収103万円以下)の人
似て非なる用語に「源泉控除対象配偶者」がありますが、これは給与所得者(合計所得が900万円(給与収入のみの方は年収1,120万円)以下と生計を一にする配偶者で合計所得金額が85万円(給与所得のみの方は年収150万円)以下の人を指します。
定額減税における「配偶者」は源泉控除対象配偶者と異なるため、本人の給与収入が1,120万円を超えていても対象となる可能性があり、また逆に配偶者の給与収入が103万円超150万円以下だと対象から外れる点にご留意ください。
(※2)所得税法上の控除対象扶養親族とは異なり、16歳未満の扶養親族も含む
なお、減税額>所得税額となったため、控除しきれない減税額がある場合、源泉徴収票に当該額を記載しますが、令和7年に繰越す処置はありません。
(2)住民税
減税額は、次の金額の合計額です。
①本人(居住者に限る):10,000円
②控除対象配偶者(※3)及び扶養親族(いずれも居住者に限る):10,000円(一人につき)
(※3)控除対象配偶者以外の同一生計配偶者については、令和7年分の個人住民税額から控除
住民税において配偶者分の減税が一年遅れるのは、「控除対象配偶者以外の同一生計配偶者」の情報が納税義務者からの申告が無い限り補足できないためとされています。
(1)所得税
定額減税が行われるタイミングは大きく分けて「令和6年6月以降の給与等支給時」「令和6年の年末調整・確定申告時」となります。
①令和6年6月給与支給時(月次減税事務)
令和6年6月1日以後最初に支払う給与(又は賞与)に対する源泉徴収税額から月次減税額を控除します。控除しきれない残額は、以後の給与等に対する源泉徴収税額から順次控除することとなります。
月次減税事務の対象者は「令和6年6月1日現在、甲欄適用の居住者」です(「基準日在職者」といいます)。乙欄・丙欄適用者や、6月2日以後に就職した人、5月31日以前に退職・非居住者となった方は対象外です。
この時点においては合計所得金額(見積額)を勘案しないため、合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれる基準日在職者に対しても、月次減税事務を行う必要があります。
対象となる配偶者や扶養親族は「扶養控除当申告書等」により把握しますが、所得税計算をする際の範囲と、定額減税の際の対象者範囲にズレがあるため、扶養控除等申告書に記載していない方が同一生計配偶者等に該当する場合は、別途「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受ける必要があります。
計算結果により生じた定額減税額は、給与明細書に源泉徴収税額とは別個に「定額減税額(所得税)×××円」又は「定額減税××円」と表示します。
源泉所得税の納付書への記載については、「税額」欄に定額減税控除後の税額を直接記載すればOKです(摘要欄等に特別な記載は不要)。
②年末調整(年調減税事務)
対象者は令和6年の合計所得が1,805万円以下の居住者となります。月次減税事務で対象者として減税措置を受けた場合でも、年間トータルの所得が出た結果適用対象外となれば、年末調整を通じて調整されます(減税措置の適用が無くなります)。
ローン控除(住宅借入金等特別控除)がある場合は、ローン控除後の税額から定額減税計算を行い、その後の税額に102.1%を乗じて年調年税額を計算します。
源泉徴収票には、その摘要欄に実際に控除した年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額×××円」と記載し、更に控除出来なかった金額があるときは「控除外額××円」と、全額控除出来た場合は「控除外額0円」とも記載します。
また、合計所得金額が1,000万円超である居住者の同一生計配偶者(非控除対象配偶者)を年調減税額計算に含めた場合は「非控除対象配偶者減税有」とも源泉徴収票摘要欄に記載が必要です。
摘要欄が文字だらけになりそうですね。。。
(2)住民税
①特別徴収
令和6年6月分は徴収せず、定額減税後の年税額を11ヶ月で均した税額を令和6年7月~令和7年5月に徴収となります。
②普通徴収
定額減税前の年税額を基に算出した第1期分(令和6年6月分)の税額から控除し、第1期分から控除しきれない場合は、第2期分(令和6年8月分)以降の税額から順次控除し徴収となります。
以下、Q&Aより気になった部分を抜粋致します。
(1)給与所得以外の所得に係る定額減税措置(給与所得が無い場合)
①公的年金による所得:年金計算時に減税額の控除が実施されるが、最終的な定額減税精算は確定申告書を提出して精算する
②退職所得:確定申告書を提出して適用を受ける
③事業所得や不動産所得:令和6年の予定納税額からの控除、確定申告における年税額からの控除
(2)令和6年5月31日以前に死亡により退職した人及び年の中途で海外の支店等への転勤などにより非居住者となった人
準確定申告書や更正の請求書等の提出により定額減税の適用を受けることになる。
(3)令和6年6月1日退職者は基準日在職者に該当するか(定額減税の対象となるか)
令和6年6月1日まではその給与支給者のもとに勤務しているので、同日現在において扶養控除等申告書を提出していれば、基準日在職者に該当。
(4)控除しきれなかった人が死亡退職した場合
死亡退職した場合は、源泉徴収義務者のもとで年末調整を行い、その人の年調所得税額から年調減税額を控除することにより定額減税額の精算を行う。
(5)控除しきれなかった人が出国した場合
通常出国時に源泉徴収義務者のもとで年末調整を行い、その人の年調所得税額から年調減税額を控除することにより定額減税額の精算を行う。
(6)令和6年5月31日以前に死亡した扶養親族は月次減税の計算に含めるのか?
その親族の死亡の日の現況で扶養親族であると判定されるのであれば、月次減税額の計算に含まれる。
(7)令和6年7月以降に扶養親族の数が変わる場合は、月次減税額も変わるのか?
月次減税額は6月1日の現況判断なので以後は変わらず、年末調整又は確定申告にて精算される。
如何でしょうか。
実際に法律が成立し6月が近づくと更に詳細な情報が提供されることが予想されます。随時情報をキャッチアップして4月後半頃から準備をスタートする方が良いと思います。
あすか税理士法人
【国際税務・国内税務担当】高田和俊
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