今回は2023年12月14日に与党より発表された「令和6年度税制改正大綱」について、その主たる内容を確認したいと思います。
実務的に気になる部分を抜粋してのご案内となります。あらかじめご了承下さい。
(1)賃上げ税制
①全企業向け(3年延長)
・原則税額控除率を10%に引き下げ(現行15%)
・税額控除率上乗せ措置改正
イ)継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上→税額控除率に5%上乗せ
(増加割合が5%以上ならば上乗せ率が10%に、増加割合が7%以上ならば上乗せ率が15%にUP)
ロ)教育訓練費額の比較教育訓練費額に対する増加割合が10%以上であり、かつ教育訓練費額が雇用者給与等支給額の0.05%以上→税額控除率に5%上乗せ
ハ)プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を受けている→税額控除率に5%上乗せ
「プラチナくるみん」はこちら
・「給与等の支給額の引上の方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項」を公表しなければいけない者に常時使用従業者数が2,000人を超えるものを加える(現状は資本金10億円以上かつ常時使用従業者数1,000人以上)
→「取引先」に「消費税の免税事業者が含まれること」を明確化
②中堅企業向け(新設)
常時使用従業者数が2,000人以下である青色申告法人が対象となる、下記新しい制度です(令和6年4月1日~令和9年3月31日に開始する事業年度)。
・継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が3%以上→控除対象雇用者給与等支給増加額の10%税額控除(①全企業向けと同様)
・継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上→税額控除率に15%上乗せ
・教育訓練費額の比較教育訓練費額に対する増加割合が10%以上であり、かつ教育訓練費額が雇用者給与等支給額の0.05%以上→税額控除率に5%上乗せ
・プラチナくるみん認定若しくはプラチナえるぼし認定又はえるぼし認定(3段階目)を受けている→税額控除率に5%上乗せ
※資本金10億円以上かつ常時使用従業者数1,000人以上の場合は「マルチステークホルダー方針の公表」が要件となる
③中小企業向け(3年延長)
・控除限度超過額を5年間繰り越し可能に(新設)→繰越税額控除をする事業年度において雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超える場合に限る
・給与等増加割合が1.5%以上で税額控除率15%、同増加割合が2.5以上で税額控除率30%なのは改正無し
・教育訓練費額の比較教育訓練費額に対する増加割合が5%以上であり、かつ教育訓練費額が雇用者給与等支給額の0.05%以上→税額控除率に10%上乗せ
・プラチナくるみん認定若しくはプラチナえるぼし認定又はえるぼし認定(2段階目以上)を受けている→税額控除率に5%上乗せ
④給与等支給額から控除する「他の者から支払を受ける金額」
看護職員処遇改善評価料及び介護職員処遇改善加算その他の役務の提供の対価の額が含まれないこととする。
(2)特定税額控除規定の適用除外規定(大企業向け)
下記の場合に試験研究税制その他生産性の向上に関連する税額控除の規定を適用除外とする。
①資本金10億円以上かつ常時使用従業者数が1,000人以上かつ前事業年度の所得金額が零を超える一定の場合(従来通り)
②常時使用従業者数が2,000人超かつ前事業年度の所得金額が零を超える一定の場合
※国内設備投資額に係る要件を国内設備投資額が当期償却費相当額の40%(現行30%)を超える場合に改訂
(3)イノベーションボックス税制(新設)
青色申告法人が令和7年4月1日~令和14年3月31日までの間に開始する事業年度において、居住者又は内国法人に対する特定特許権等の譲渡又は貸付けをおこなった場合、次の金額のいずれか少ない金額×30%相当額について損金処理可能となる。
・その特許譲渡等取引に係る所得の金額×当期以前において生じたその特定特許権等に直接関連する研究開発にかかる金額の合計額÷適格研究開発費合計額
・当期所得金額
(1)プラットフォーム課税(新設)
オンラインゲームやスマホゲームについて外国法人等がゲーム販売等を行った場合に、当該外国法人等が日本の消費税を納める義務を負うケースがありますが、納税義務者が外国法人等であるため日本の制度に関する理解不足等から納税が出来てないケースが散見されていたようです。これらを防ぎ日本企業との公平性を担保するために、これらのゲームを販売する窓口となる「プラットフォーマー」に消費税の納税義務を課そうという制度が創設されます。
具体的には下記の通りです。
①国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信役務の提供(BtoBビジネスを除く)のうち、②の指定を受けたプラットフォーム事業者(特定プラットフォーム事業者)を介してその対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなす
②国税庁長官は、プラットフォーム事業者のその課税期間において上記①の対象となるべき電気通信利用役務の提供の対価の額が50億円を超える場合には、当該プラットフォーム事業者を特定プラットフォーム事業者として指定する
③特定プラットフォーム事業者は、その課税期間に係る確定申告期限までに、その旨を国税庁長官に届け出なければならない
④国税庁長官は特定プラットフォーム事業者を指定したときはその旨を通知し、インターネット等で公表する
⑤特定プラットフォーム事業者は確定申告書に①の対象となる金額等を記載した明細書を添付する
※プラットフォーム課税は令和7年4月1日以後に行われる電気通信利用役務の提供について適用する
(2)事業者免税点制度の特例見直し
①特定期間の課税売上高が1,000万円以下であることによる納税義務免除の特例について、課税売上高に代わり適用可能とされている給与支払額による判定の対象から「国外事業者」を除外する
②資本金1,000万円未満の新設法人における納税義務免除の特例の適用上、日本進出した外国法人の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合においても、当該外国法人は、国内における事業開始時に資本金判定を実施する
(3)簡易化税制度の見直し
課税期間初日において法人税法上(又は所得税法上)の恒久的施設を有しない国外事業者については、簡易化税制度を認めないものとする
(1)減資対応
①外形標準課税の対象となるのは、期末資本金が1億円超の法人
②(当分の間)「前事業年度に外形標準課税の対象+当該事業年度の資本金1億円以下+資本金と資本剰余金の合計額が10億円超」も課税対象
③令和7年4月1日後に最初に開始する事業年度については②の適用がある
(2)100%子会社等への対応
①資本金と
資本剰余金の合計額が50億円超の法人又は相互会社、外国相互会社の100%子法人等のうち、当該事業年度末日の資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金(改正後に資本剰余金額を原資とした配当を行った場合には、当該配当額を加算した金額)の合計額が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする
②令和9年3月31日までに産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定を受けた認定特別事業再編事業者が、当該認定を受けた計画に従って他の法人の株式等の取得等をして買収し、継続して当該株式を保有している場合には、当該他の法人が行う事業に対する法人事業税については、買収日以後5年を経過する日の属する事業年度までの各事業年度においては外形標準課税の対象外とする
(1)BEPS関連
グローバル・ミニマム課税のうち「所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)」について若干改正が入ります。
なお、グローバル・ミニマム課税は連結総収入金額7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループに適用されるため、その影響は限定的と言えそうです。
具体的な改正内容のうち主なものは下記の通りです。
①(多国籍企業グループ)構成会社等がその所在地国において自国内最低課税額に係る税を課することとされている場合には、その所在地国に係るグループ国際最低課税額を零とする適用免除規定を設ける
②無国籍構成会社等が自国内最低課税額にかかる税を貸されている場合には、グループ国際最低課税額の計算においてその税額を控除する
③次に掲げる外国における税は外国税額控除の対象から除外する
・各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に相当する税
・外国を所在地国とする特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等に対して課される税又はこれに相当する税
(2)暗号試算等取引情報の自動的交換のための報告制度整備
令和8年1月1日以後に報告暗号資産交換業者等との間で、その営業所を通じて暗号資産等取引を行う者は、当該暗号資産等取引を行う際、その者の氏名又は名称、住所又は本店等の所在地、居住遅刻、居住地国が外国の場合にあっては当該居住地国における納税者番号その他必要な事項を記載した届出書を、当該報告暗号資産交換業者等の営業所等の長に提出しなければならない
如何でしたでしょうか。
「賃上げ税制」「外形標準課税」「プラットフォーム課税」が大きな改正点だと個人的には思いました。
来春以降に、通達等が出るとより制度内容がハッキリすると思いますので、今後も注視が必要です。
あすか税理士法人
【国際税務・国内税務担当】高田和俊
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