今日は、アップル社に対してアイルランドが130億ユーロ、日本円で約1.5兆円の優遇税制を与えたとしてEUが指摘している件についてお話ししたいと思います。
まず最初にアイルランドについて簡単に説明します。
アイルランドはグレートブリテン島の西側に位置する島国です(アイルランド島の北側約6分の1は英国領)。
気温は5度~20度と穏やかで、2005年のイギリス誌「エコノミスト」の調査では最も住みやすい国に選出されているそうです。
産業面においては、外資企業は多国籍企業を積極手に誘致しているところに特徴があります。
法人税の実効税率が12.5%と低く、日本ではいわゆるタックスヘイブン課税の対象となる「軽課税国」に該当します。
税率を下げることにより外国の有力企業を積極的に誘致しているアイルランドですから、今回のApple社に対するEUの指摘には当然反対しており、数週間以内に提訴するようです(2016年9月27日、日経新聞朝刊より)。
今回の件に関しては米国でも議論が巻き起こっているのですが、何故、直接課税を指示されたわけでは無い米国でなのでしょうか。
米国では海外で得た利益も米国で稼いだものと考えて課税(全世界所得課税)する制度を導入しており、米国連邦税は30%と高税率です(日本も全世界所得課税である点は一緒です)。
しかし、海外に留保したまま還流していない(つまり米国に送金していない)部分については還流されるまで米国での課税が猶予される制度があります。
「納税猶予」であるので米国がいずれ課税できると考えていた部分に、欧州が先に課税してしまうと、国際的二重課税を排除する「外国税額控除」によって米国が徴収できる税額が減少する可能性があります。
この点について米国国内で議論が起こり、EUの判断を好ましく思っていないわけです。
ちなみに、米国企業が海外にプールしている所得は2兆ドルもあると言われていますので大きな影響がある問題です。
ちなみに米国大統領選では、クリントン候補が海外利益の課税猶予を廃止派、トランプ候補が海外利益に10%強制課税派です。
今回、Apple社はアイルランドと諸外国「居住者」に対する考え方の違いを利用し、『アイルランド子会社が全世界どこの国の居住者にも該当しない形』で税務申告するなどの手法により、実質税負担が1~2%、特に2014年度に限っては実質税負担が0.05%だったとのことなので驚くべき低税率です。(一般的に居住者の税負担が大きく、非居住者の税負担が軽くなります)
まさに各国税制の『穴』をぬったグローバルタックスメリットを享受したといえるかもしれません。
このような報道を見ると、「違法ではないが行き過ぎたと感じられる節税策」を全世界的に排除する動きは確実に進んでいると感じます。しかし、税制優遇を政策にしている国・地域がある中では思惑が絡み合い一筋縄では解決しないだろうなと思います。
今回のスキームについて、違法でない以上、指摘が入ることに正直違和感を感じます。
必要があるならば法改正し、法改正後の取引について課税すべきだと思います。
今回、Apple社のアイルランド子会社はペーパーカンパニーではなく、1980年代から会社を置き、従業員数は6,000名を超え雇用面でも大いに貢献している点から考えても、疑問符がつくところです。
同様のケースをApple社だけでなく、他の巨大企業にも目を向けているようなので、今後の動きに注目ですし、アイルランドがEUを提訴した場合の決着も気になるところです。