各国と締結する租税条約において配当、利子、使用料などは課税される限度税率が設定されているケースがほとんどです。
例えば日本居住者や日本法人が外国法人から配当を受け取る場合、現地の国内法では源泉徴収税率が20%であっても、租税条約において10%の税率を限度とする旨が規定されていれば源泉徴収は10%のみされることが基本です。
ですが国によっては国内法の源泉税率にて一旦徴収し、後で手続きすることで還付が行われる場合や現地の税務行政の未熟さから租税条約を無視して課税されるケースもあります。
今回は租税条約に定める限度税率を超えて課税された場合における、超えた部分の外国税額の取扱いについて解説いたします。
法人税では国税庁から取扱が公表されています。
通常、外国税額控除の適用を受ける場合、法人税額から控除する外国税額については法人税法41条の規定により損金の額には算入されません。
ですが、外国税額のうち、限度税率を超えて課された部分については外国税額控除に規定されている控除対象外国税額に含まれないこととなります。
つまり、法人税法41条の適用外となり、法人税法22条に規定する損金の規定で取扱を判断することとなります。
限度税率を超えた部分は法人税法22条3項3号の「当該事業年度の損失で資本等取引以外の取引に係るもの」に該当します。
従いまして、当該外国税額は支払日の属する事業年度において損金の額に算入します。
なお、後日限度税率を超えて課された外国税額が還付された場合は、還付された日の属する事業年度の益金の額に算入することとなります。
所得税では所得の区分が多いことから法人税のように明確な取扱が公表されておりません。
従いまして、法人税と同様の手順で判断することとなります。
1)外国税額控除の規定
所得税法95条1項において、「居住者が各年において外国所得税を納付することとなる場合は、一定の方法により計算した外国所得税額(~中略~その他政令で定める外国所得税の額を除く)をその年分の所得税額から控除する」と規定されています。
次に、所得税法施行令222条の2の4項4号において、95条1項で外国所得税額から除かれるものとして「租税条約の規定により条約相手国において課することとされる額を超える部分に相当する金額~以下省略~」が規定されています。
このことから、租税条約の限度税率を超える金額は外国税額控除に規定する外国所得税には該当しないと判断できます。
2)必要経費の規定
では限度税率を超えた外国所得税は必要経費に算入できるのでしょうか。
まず、所得税基本通達46-1において、「外国所得税の額について必要経費又は支出した金額に参入するか、又は外国税額控除をするかの選択は、各年ごとに、その年中に確定した外国所得税の額の全部について行わなければならない」と規定されています。
つまり、外国税額控除の対象となる外国所得税については、必要経費とするか外国税額控除を選択するかは自由に選択が可能だが、すべての所得区分において同様の取扱いをするよう規定されています。
例えば、配当所得の外国税額は外国税額控除を選択し、事業所得の外国税額は必要経費に算入とする、といったことはできません。
では限度税率を超えて課された外国所得税の取扱いも同様でしょうか。
租税条約の限度税率を超える税額はこの通達の対象とはなりません。
前提が外国税額控除の対象となる外国所得税となっていることから、限度税率を超える外国所得税は本通達でいう外国所得税には該当しないこととなります。
この場合の取扱いは法人税法と同様、必要経費の規定にて判断を行います。
所得税法37条において、「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、~中略~これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」と規定されています。
必要経費として参入可能な所得が不動産、事業、雑所得に限定されている点が重要です。
この規定から利子所得や配当所得など上記の所得以外の所得について限度税率を超えて課された外国所得税については経費として控除ができないという取扱いとなります。
いかがでしょうか。
法人税と所得税で取扱に若干の違いがあることが理解頂けたと思います。
特に所得税については経費算入可能な所得が限定的であることから、外国現地にて租税条約の適用を受けるための手続きは必ず確認してください。
やむなく限度税率を超えて課された税額が所得を構成するか否かは疑義が生じる所ですので、都度専門家にご相談することをお勧めいたします。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
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