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国際税務2022.01.12 【国際税務】新国際課税ルール~2021年10月最終合意 Pillar One ~

国際的な租税回避行為に対する問題意識から、OECDが2013年7月に発表したBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)行動計画。
 

その行動計画1として挙げられていたのが「電子経済の課税上の課題への対処」です。デジタル経済下において課税上の問題に取り組むべきことが盛り込まれ、その後議論を重ねられた結果、2021年10月8日にOECD/G20 Inclusive Framework on BEPS(以下「IF」とします)において、新国際課税ルールについて実に136ヵ国・地域の合意が得られるに至りました。
 

この136ヵ国・地域は世界のGDPの90%以上を占める国と地域で構成されているので、かなり効果が望まれる合意だと言えます。
ちなみにIFに属する国と地域は140で、IFに属しているが本合意に参加しなかったのは、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカの4ヵ国となります。

 

今回は、2021年10月に合意に至った新国際課税ルール(Two-Pillar:二本の柱)のうち第一の柱(Pillar One)について、内容を確認したいと思います。
 

 

1.第一の柱


 

(1)Scope(対象会社)

課税対象となるのは、「全世界の売上高が200億ユーロ超」かつ「利益率10%超」の多国籍企業(MNEs:multinational enterprises)となります。

利益率は税前利益で計算します。

なお、利益A(Amount A)の各国への配分を含む制度の成功を条件に、施行後7年後にレビューを行った上で、上記課税対象基準の200億ユーロを100億ユーロに引き下げることが予定されています。

利益Aとは、通常の利益を超える利益額((3)Quantum参照)のうち、その利益の源泉となる市場がある国に配分((4)Revenue sourcing参照)される利益を指します。

従来は「PE無ければ課税無し」でしたので、新しい考え方が創設されたとご理解下さい。

 

(2)Nexus(どこで納税すべきか)

対象会社となる多国籍企業が、100万ユーロ以上の売上がある国に利益Aを配分することとなります。

なお、GDPが400億ユーロ未満の国では、上記100万ユーロ基準が25万ユーロに引き下げられます。経済的に大きくない国へより多く配分されるイメージですね。
 

(3)Quantum(どのくらい配分すべきか)

残余利益(収益の10%を超える利益として定義)のうち25%部分が配分原資で、売上に応じて配分されることとなります。
 

(4)Revenue sourcing(売上の場所)

売上は商品又はサービスが使用・消費される最終国において発生したと考えます。詳細なルールは今後検討されます。
 

(5)Tax base determination(課税基準の決定)

対象多国籍企業の利益や損失の計算は、原則財務上の所得とイコールとなる(微調整有り)。また損失は繰り越されます。
 

(6)Marketing and distribution profits safe harbour(配分調整)

対象多国籍企業の残余利益について既に課税されている国については、上記により配分される利益Aについて、一定の調整を加える。利益Aを市場国に配賦することで、逆に市場国での課税権が大きくなりすぎる場合には調整が入ることになります。
 

(7)Elimination of double taxation(二重課税排除)

国への残余利益再配分により生じる二重課税リスクは、所得免除(exemption)方式か外国税額控除(credit)方式により回避出来ます。
 

(8)Amount B(利益B

利益Bは新たな課税制度の創設では無く、シンプルな販売・広告宣伝活動を行う企業に対する「独立企業間原則」の適用簡素化を図るもので、基本的な販売・広告宣伝活動に基づく最低利益を配分するイメージです。

通常の利益に一定率を乗じたものをその市場国に配賦することとなります。一定率を乗じる、という方法がシンプルですし、国際間の紛争逓減にも効果がありそうです。2022年中施行を目指しています。

 

(9)Administration(運営・管理)

申告義務を含めた税務コンプライアンス手続きは、多国籍企業であっても一つの会社が行うことが出来るようにする。

 

(10)Unilateral measures(一方的な処置)

利益Aの配賦を実施するための多国間条約(MLC:Multilateral Convention)は、この制度以外のデジタルサービス税及びその他類似課税を排除し、又将来にわたっても同様の別途課税を実施しないよう求めています。

また、MLC発行前に導入される新たなデジタルサービス税は、2021年10月8日から2023年12月31日(又は同日よりもMLC発効が早ければMLC発行日)までの間は、その課税を行わないこととされています。

 

(11)Implementation(実施)

利益Aの配賦を実施するためのMLC(多国間条約)は2022年中に策定・署名され、2023年に発効予定です。
 
 

2.まとめ


 

第一の柱では大きく分けて二つの話がありました。
 

(1)利益A(市場国に対して利益(課税権)を配賦する新ルール)

今までは「PE(恒久的施設)」が無ければ課税されない、という国際課税ルールがありました。

2023年移行に発効されるMLCでは、PEではなく「Nexus(ネクサス=繋がり・関係)」がある国に課税権を配賦しよう(利益A)、という新しい考え方です。

 

利益Aの配賦は当面巨大企業にのみ適用されることになりますが、長い目で見えるともっと大部分の企業がその対象になることもあり得ます。

 

(2)利益B(シンプルな取引を行う企業間での移転価格ルールの簡素化)

利益Bについては通常の移転価格税制の範疇で行われる改訂で、その影響がある納税者は多くなる見込です。

利益に固定率を乗じた金額を、各市場国へ配賦します。

利益Aに比べて、利益Bの影響を受ける企業は多くなりますので、今後の動きに注意が必要です。

 

次回は第二の柱について確認したいと思います。

 

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】高田和俊

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