諸外国にLLCやLPSを作り、不動産投資、株式投資等を行うケースはよくあります。
米国のLLCを通じて行った不動産投資の損失をパススルー課税により個人の所得と損益通算し、否認された判例は有名です。
最近LLCやLPSを軽課税国に作り、投資を行うといった相談が増加しつつあります。
今回は改めてLLCやLPSが日本の税制上どういった場合に法人格があるとみなされるか、個人投資家にどのような影響があるかについて、過去の判例を元に解説したいと思います。
大前提として、諸外国で組成したLLCやLPSが法人格ありと判断された場合、所得税の取扱がどのように変わるのでしょうか。
法人格があると判断された場合、LLCやLPSから個人へ支払われた金銭等は利益の払い戻しとして取り扱われ「配当所得」として課税されることとなります。
またこれらのLLCやLPSが軽課税国に所在し、出資者の50%超が日本居住者である場合で、実質的に実態がない法人の場合はタックスヘイブン対策税制の適用を受けることとなります。
タックスヘイブン対策税制の適用がある場合はLLCやLPSの利益が出資者の持分割合に応じて「雑所得」として課税されます。
有名なニューヨーク州のLLCに係る判例(東京高裁平成19年10月10日判決)において、法人格の該当性判断基準が次のように明示されています。
①商行為を行う目的で現地の法律に準拠して設立された事業体であるか
②事業体の設立に伴いその商品等の登録(登記)が行われているか
③事業体が訴訟の当事者となれるか
④事業体名において契約、財産の取得・処分することができるか
⑤事業体と構成員(出資者)の権利能力が別個のものであるとされているか
これらの要素からニューヨーク州のLLCは、自然人とは異なる人格があると判断され、法人に該当すると結論づけられています。
一方で国税庁の質疑応答事例では米国のLLC法は各州で規定が異なることから、個別に判断する必要があるとされています。
このことから、各国のLLCの法規制について上記の判断基準に照らして法人格の有無を判断する必要があると考えられます。
こちらも米国のデラウェア州のLPSに係る判例が参考となります(最高裁平成27年7月17日判決)。
本判決のポイントはデラウェア州の法制度から日本の税制上の法人に相当する地位があるか否かの判断が困難と示されている点です。
上記2のLLCの判決とは異なり、州法から法人としての地位が明確でないため、LPS法の規定の内容や趣旨から権利義務の帰属主体がLPSであるか否かを基準に法人格の判断を行うと示されています。
主に以下の内容から権利義務の帰属がLPSにあると判断され、法人格あると結論づけられています。
①LPSに付与される権利(権限)がLPS自体に付与されていると解することが可能か
(デラウェア州のLPS法において、いかなる合法的な事業、目的又は活動を実施できると定められており、LPS名にて法律行為を行う権利が付与されていると判断された)
②パートナーシップ(出資者)持分の性格がLPSの個別財産に及ぶか否か
(本件においては、LPSが保有する不動産について出資割合に応じた持分が設定されたわけではなく、その他のLPSの財産債務全体に係る権利を有しているものと判断が可能であった)
③LPS法並びにLPS契約における管理・運営の規定におけるLPSの権限が明確となっているか
(各契約において、LPSは財産の購入、開発、保有、賃貸、管理、売却等のために設立されたものであり、そのために必要な範囲で処分する権限を有すると定められていた)
いかがでしょうか。
LLCの判例もLPSの判例も内容を見る限り当然法人に付される権利のように感じます。
諸外国にてパススルー課税が認められる場合であっても、上記のように権利義務の主体となれることが規定されている場合は日本側で法人とみなされる可能性があります。
所得税についてはその出資が外国法人に対するものなのか、それとも財産そのものへの出資なのかで所得区分が大きく異なります。
設立前に現地の法規制だけでなく日本における取扱についても確認することをお勧めいたします。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
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