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国際税務2024.09.04 【国際税務】ソフトウェアの源泉徴収に関する判例(インド)

以前記載したインドにおけるソフトウェアの取扱いについて、裁判において争点となった点を元に実務において参考なる点をご紹介したいと思います。(参考書籍:月刊税務事例)

 

1.インドの判例の要旨


 

〈概要〉
・インド企業のA社は外国企業のB社よりパッケージソフトウェアを購入し、対価を支払った
・買い切りのため、購入代金以外に使用料の支払いはなかった
・インドの税務当局はこの対価の支払いはロイヤリティに該当するとして課税を行った
・納税者はこれについて不服申し立てを行った。

 

〈A社(納税者)の主張〉
・本件はパッケージソフトウェアの購入、つまり商品の購入であり、そのまま販売するものであることから対価はロイヤリティには該当しない。
OECDモデル条約コメンタリーにおいては、当該対価についてはロイヤリティとはされていない
・インドの国内法において、当該支払についてロイヤリティに該当するという国内法が制定されたのは本件事案の後であることから遡及適用は許されない

 

〈税務署の主張〉
・インド国内法が制定されたのは本件事案よりはるかに前であり、納税者の主張する制定は当初の規定を改定したものにすぎない
・OECDモデル租税条約は、インド国内法とは別物である
・本件事案より前の判例では非居住者への支払は源泉徴収の対象となっている
・コピーライトの権限を購入したオーナーが放棄することもあることから、購入のみをもって著作権の使用料ではないという主張は受け入れられない

 

 

2.裁判所の結論


 

下記のような理由より、納税者の主張の通り源泉徴収は不要と判断している。

・税務署の当初の国内法によるコンピュータープログラムとは、「文学作品」の相応の使用料受領を条件として、その権利を他社に付与する権限を有するものとしている
国内法と租税条約双方の規定が適用可能な場合及びそれらが競合する場合には納税者により有利な規定が適用される
租税条約とOECDモデル租税条約の使用料の定義が同じ場合、OECDモデル条約コメンタリーのガイダンスを参考とすべきであり、それに照らすと本件はロイヤリティには該当しない。
・使用目的で配布後になされるコピーやバックアップコピーの作成は著作権侵害にはならない。

 

(参考)使用料に該当するかの判断基準として、OECDモデル条約のコメンタリーはソフトウェアの対価の取扱を下記の3区分のように示しています。
1)著作権の権利の一部を取得する場合は「使用料」
2)プログラムの複製物に対する権利を取得する場合には事業所得
3)著作権の権利のすべてを取得する場合は著作権の譲渡として事業所得又は譲渡所得

 

 

 

3.日本において参考となる事項


 

日本における国内法では国内源泉所得となる使用料は3つの区分があります。
①工業所有権等の使用料又はその譲渡による対価(所得税法161条①10イ、法基通161-34)
②著作権等の使用料又はその譲渡による対価(所得税法161条①10ロ、法基通161-35)
③機械、措置その他政令で定める用具の使用料(所得税法161条①10ハ、所令284)

 

パッケージ型ソフトについては、利用者側に著作権の使用が認められておらず、かつ、著作物の複製権等が認められていない場合は書籍の購入と同様に扱い、源泉徴収の対象とならないとされています。

また、日本では使用料については使用地主義が採用されていますが、租税条約においては支払者の居住地を源泉とする債務者主義が採用されています。

 

上記より、ソフトウェアについて「使用料」に該当するかについて税務当局と見解の相違が生まれた場合、以下のような点について検討してください。
・国内法上の「使用料」に該当するか
・租税条約上の「使用料」に該当するか
・租税条約上の「使用料」はOECDモデル条約における「使用料」と違いはないか
・国内法と租税条約で取扱いが異なる場合、どちらの適用が納税者に有利か
(原則租税条約が優先されるが、国内法が有利な場合は国内法が優先されます(プリザべーションクローズ))

 

いかがでしょうか。
ソフトウェアを含む使用料の源泉についてはたびたび問題となります。
インドの判例は考え方としては非常に参考になるものだと感じます。日本の税務調査などで見解の相違が生まれた場合は事実関係の整理に役立てて頂ければと思います。

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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