2022年4月1日以後開始事業年度からスタートしたグループ通算制度。
過去にあった連結納税制度同様、法人住民税・法人事業税にはグループ通算制度がありません。
ただし、法人住民税のうち法人税割の課税標準は法人税額であり、その法人税額はグループ通算制度による損益・欠損金の通算反映後の数値です。また法人事業税は法人税の課税所得を課税標準としますが、損益・欠損金通算を行う前の所得金額が課税標準となります。
従って、法人住民税・法人事業税の課税標準計算では、その影響を排除する調整が必要となるなど、結果としてグループ通算制度下における独特な調整計算が入ることになります。
本日は、グループ通算制度下の地方税の取扱いについて確認したいと思います。
法人税法には、グループ通算制度特有のルールがいくつか存在します。まずはそれぞれについて地方税に与える影響を確認したいと思います。
(1)通算制度と同様の効果が地方税で見込まれる制度
・みなし事業年度
法人地方税は法人税の申告義務のある者が申告納付するため、結果として法人税の「みなし事業年度」に沿って法人地方税を納税する必要があります。
・グループ通算制度開始、加入時の資産の時価評価
グループ通算制度と単体申告とは切り離して考えるため、原則として単体申告からグループ通算制度に移行する際は、各資産の含み損益を認識(つまり時価評価)する必要があります。この時価への置き換えについて地方税では追加の調整を行わないため、結果として地方税も時価評価を求められる事となります。
・グループ通算制度開始、加入に伴う特定資産譲渡等損失の損金算入制限
含み損がある資産を保有したままグループ通算制度を開始し、その後その損失を実現する事による損益通算メリット享受を排除するためにある特定資産譲渡等損失の損金算入制限ですが、地方税において追加調整がありませんので、地方税でも同様の制限がかかることになります。
(2)通算制度の影響を地方税では排除する制度(地方税で別途調整が必要な制度)
続きまして、法人税と地方税とで取扱いが異なるグループ通算制度特有の制度をご紹介します。
・通算グループ内での損益通算
地方税法はグループ通算制度の適用がありませんので、法人税におけるグループ通算制度最大の特徴である「通算グループ内での損益通算」制度もありません。
よって、一定の調整がはいります。具体的な調整内容については下で詳しく説明します。
・通算グループ内での繰越欠損金の通算
通算グループ内での損益通算をした後でなお生じる欠損金である「通算グループ内での繰越欠損金」も、通算グループ内での損益通算と同様、地方税にはその制度がありません。この調整についても下で詳しく説明します。
・開始(加入)時の繰越欠損金切り捨て
グループ通算制度開始=単体申告に一旦きりを付けるという考え方から、開始(加入)時に有していた繰越欠損金は切り捨てられますが、地方税には繰越欠損金切り捨て制度が無いため、調整が必要となります。
具体的には法人住民税計算について、「切捨欠損金額×法人税率」した金額を「控除対象通算適用前欠損調整額」として繰越控除していくこととなります。
法人事業税計算については、当該繰越欠損金の切捨が無かったものとして欠損金額をそのまま繰越控除していくこととなります。
法人税の計算において通算グループ内の法人間損益通算が行われた結果、他の通算法人の欠損 (赤字)が当該法人において損金算入された場合(つまり他法人の赤字を使って当該法人の課税所得が圧縮できた場合)には、法人住民税において下記調整が行われます。
(1)損金算入の場合(当該法人が黒字、他法人の赤字を利用できた場合)
課税標準額(法人税額)に「通算対象欠損金額(※)×法人税率23.2%」を加算して課税標準額を再計算
(※)通算対象欠損金額:グループ通算制度の損益通算の規定により損金算入された金額
(2)益金算入の場合(当該法人が赤字、他黒字法人に当該赤字を利用させた場合)
「通算対象所得金額(※2)×法人税率23.2%」した欠損金額を10年間繰越控除
(※2)通算対象所得金額:グループ通算制度の損益通算の規定により益金算入された金額
(1)他通算法人の繰越欠損金を損金算入した場合
課税標準額(法人税額)に「被配賦欠損金控除額(※3)×法人税率23.2%」を加算して課税標準額を再計算
(※3)被配賦欠損金控除額:グループ通算制度の繰越欠損金の通算規定により他通算法人から配賦を受けた非特定欠損金額×非特定損金算入割合
(2)当該法人の繰越欠損金を他通算法人で損金算入された場合(他通算法人にて繰越欠損金を利用させてあげた場合)
「配賦欠損金控除額×法人税率23.2%」した欠損金額を10年間繰越控除
事業税においてもグループ通算制度の適用は無いため、通算グループ内の法人間損益通算適用前(又はグループ通算繰越欠損金配賦前)の課税所得を課税標準として、法人事業税を計算することとなります。
グループ通算制度は法人税と地方税とで取扱いが同様のもの、異なるものとがありますので一点ずつ整理して管理、申告する必要があります。
グループ通算制度は始めると止められないなどデメリットもありますが、グループ間で黒字法人・赤字法人が混在するケースなどグループ全体で得られるタックスメリットが大きいケースもありますので、検討に値する制度だと思います。
あすか税理士法人
【国際税務・国内税務担当】高田和俊
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