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Others2024.06.12 「経営者保証に関するガイドライン」~保証債務の整理~

 

1.はじめに


 

「経営者保証に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」とします)」を利用し、経営者保証なしでの融資や、事業を引き継ぐ際の経営者保証の見直しについて、前回のブログで解説しました。

 

前回のブログはこちら↓

「経営者保証に関するガイドライン」とは?~事業継続・展開のための借入に対する支援策~

 

経営者が連帯保証人になっている会社の借入が返済できなくなった時、経営者はどのような責任を負い、どのような対応をしなければならないのでしょうか。

今回は、有事の場合におけるガイドラインの利用について解説したいと思います。

また、本ブログでは本来のガイドラインの表記から「主たる債権者」を「会社」、「保証人」を「経営者」、「対象債権者」を「金融機関等」と表記して説明します。

 

 

2.保証債務整理の要件


 

前回ブログで取り上げた、保証契約の要件に加え、有事の場合には次の要件を満たす必要があります。

 

(1)会社が次の申立てをガイドラインの利用と同時に行い、又は手続きが係属(訴訟法上の用語で、訴訟が特定の裁判所で取扱い中であることを指します)し、もしくは既に終結していること

【法的債務整理手続】

・破産手続

・民事再生手続

・会社更生手続

・特別清算手続

 

【準則型私的整理手続】※

・中小企業活性化協議会による再生支援手続

・事業再生ADR

・私的整理に関するガイドライン

・中小企業の事業再生等に関するガイドライン

・特定調停手続  など

 

※利害関係のない中立かつ公正な第三者が関与する私的整理手続及びこれに準ずる手続をいいます

 

(2)会社の資産及及び債務並びに経営者の資産及び保証債務の状況を総合的に考慮して、主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、金融機関等にとっても経済的合理性が期待できること

 

【例】

a)会社及び経営者が破産手続きを行ったときの債権者への配当額・・・3,000万円(破産の場合)

b)会社の借入金及び保証債務の弁済計画に基づく回収見込額・・・7,000万円(再生の場合)

 

破産手続を採るよりも会社が事業を再生させた方が回収額が4,000万円多い結果となるため金融機関等の債権者にとって自らの資金を保全することができる、つまり経済的合理性が期待されることになります。

 

(3)経営者に免責不許可事由(破産法第252条第1項(第10号を除く。))が生じておらず、そのおそれもないこと

【免責不許可事由の例】

・不当に財産を減少させる(価値のある資産を親族に低価で売却など)

・不当に債務を負担する(高金利の借入など)

・債権者を平等に扱わない(特定の者にだけ先に借入を返済など)

・収入に見合わない浪費やギャンブルなどにより借金をする

 

上記全ての条件を満たすことで、経営者は、保証債務の整理を金融機関等に対して申し出ることができます。

そしてその申し出を受けた債権者は当該ガイドラインに基づいて誠実に対応することとなります。

 

 

3.保証債務の整理手続


 

保証債務の整理には次の二つの手続きがあります。

・主たる債務と保証債務の一体整理

・主たる債務は法的債務手続が申し立てられ、主たる債務と保証債務の一体整理が困難など、保証債務のみの整理

 

いずれの整理においても、準則的私的整理手続を利用することが前提とされています。

 

 

4.保証債務整理の流れ


 

保証債務の整理にあたり、金融機関等は合理的な不同意事由がない限り、当該債務手続の成立に向けて誠実に対応することとなっています。

(合理的な不同意事由は上述した要件を充足しない、下記の一時停止要請後に無断で財産を処分、必要な情報開示を行わない等の事由により、債務整理手続の円滑な実施が困難な場合をいいます。)

 

保証債務の整理を図る場合には、会社・経営者・金融機関等は次の定めに従うものとされています。

 

①保証債務に関する一時停止等の要請

金融機関等に対して、保証債務の弁済の一時停止又は返済猶予(以下、「一時停止等」といいます)を要請することになります。この一時停止等を行った時が財産評定の基準時となり、それ以降の収入は弁済原資に含まれません。

一時停止等の要請は全ての金融機関等に対して、同時に、①会社②経営者③支援専門家の連名した書面により行います。

 

なお、一時停止等の要請後に経営者が資産の処分や新たな債務の負担を行った場合には、金融機関等が経営者に対して説明を求めた上で当該資産の処分代金を弁済原資に含めることを求めることや、上述した合意的な不同意事由として当該資産の処分等を行った経営者に関する債務整理に同意しない等の対応が考えられるため注意が必要です。

 

②経営者責任の在り方

主たる債務と保証債務を一体で整理する場合、金融機関等は経営者の経営責任について、結果的に私的整理に至った事実のみをもって一律かつ形式的に経営者の交代を求めないこととされています。

・借入返済が困難になった会社及び経営者の帰責性

・経営者及び後継予定者の経営資質、信頼性

・経営者の交代が主たる債務者の事業の再生計画等に与える影響

・準則型指摘整理手続における金融機関等による金融支援の内容

 

なお、準則型私的整理手続申立て時の経営者が引き続き経営に携わる場合の経営者責任については、上記帰責事項等を踏まえた総合的な判断の中で下記等の方法により明確を図ることになります。

・保証債務の全部又は一部の履行

・役員報酬の減額

・株主権の全部又は一部の放棄

・代表者からの退任

 

つまり、ここでの経営者責任とは「経営者の交代」は求めないということを指すのであって、個人支弁なしに免責されることを指すのではありません。

保証債務を全部又は一部の履行を求められることをはじめ、一定の責任を負わなければならないという点には注意が必要です。

 

③保証債務の履行基準(残存資産の範囲)

金融機関等は保証債務の履行にあたり、経営者の手元に残すことの出来る残存資産の範囲について、必要に応じ支援専門家とも連携しながら、以下のような点を総合的に勘案して決定します。

なお、経営者は金融機関等に対して、経営者の資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証を行います。支援専門家は、これを金融機関等からの求めに応じて適正性を確認した上で金融機関等に報告、金融機関等は履行請求額の経済合理性について、主たる債務と保証債務を一体として判断することが前提とされています。

 

イ)経営者の保証履行能力や保証債務の従前の履行状況

ロ)主たる債務が不履行に至った経緯等に対する経営者の帰責性

ハ)経営者の経営資質、信頼性

ニ)経営者が主たる債権者の事業再生、事業清算に着手した時期等が事業の再生計画等に与える影響

ホ)破産手続における自由財産(つまり、自己破産の手続き後も手元に残すことができる財産)の考え方や民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費の考え方との整合性

 

 

 

5.まとめ


 

有事の場合、ガイドラインの利用によって自己破産ではなく一定の要件の基で保証債務の整理ができる可能性があるという点、お分かりいただけたでしょうか。

このガイドラインに法的拘束力がないが故に、会社・経営者と金融機関等の双方の関係性が大事だと考えます。一方で、こういった状況は会社や経営者側にとっては非常事態であるため、金融機関等とはガイドラインについて情報の格差があり、内容を正確に理解した上で保証債務の整理を依頼することは難しいと感じます。

特に最後に取り上げた残存財産の範囲は会社の将来や経営者の生活に直結します。

この部分を経営者が理解して金融機関等との協議を進めるということが、望むべきガイドラインの利用方法だと思います。

次回は「経営者保証に関するガイドライン」のQ&Aを基に残存資産の範囲を中心に取り上げます。

 

あすか税理士法人

【スタッフ】中村麻侑子