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会計・ファイナンス・監査2020.10.21 JICPA 監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用事例分析レポートを公表

日本公認会計士協会(JICPA)は、監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用事例分析レポートを公表しました。

 

監査上の主要な検討事項(KAM)については、以前にこのブログでも取り上げましたが、2021年3月期決算の有価証券報告書に添付される監査報告書から強制適用されます。今回のレポートは、2020年3月期決算ににおいて、KAMの記載を行った会社を対象にして様々な角度から分析が行われたものであり、今後の実務の参考になると考えられます。

 

 

 

1.早期適用事例の全体像

 

早期適用を行った会社は48社でした。以前にこのブログでも取り上げた通り、新型コロナウイルス感染症の影響から、監査の現場も大きな影響を受けており、新しい制度を進んで取り入れられる状況になかったことは想像できるところです。逆に、そんな中でKAMの早期適用に踏み切った会社があったことは、個人的には意外な印象を持ちました。ただ、この事例が、今後の実務の参考になることは間違いなく、担当監査チームの皆さんのご努力に敬意を表したいと思います。

 

連結財務諸表ベースで、102のKAMが記載されました。そのうち、「固定資産の評価」と「のれんの評価」が約3分の1を占めており、この傾向は強制適用になっても変わらないのではないかと考えられます。次に多かったのが、「貸倒引当金の見積り」と「収益認識」でしたが、前者は金融機関の早期適用が多かったこと、後者は国際会計基準(IFRS)の適用会社において、新しい収益認識基準の適用に関するものが多かったことが理由として挙げられます。

 

1社あたりのKAMの個数は、全体平均で2.2個となっており、先行して実施されているヨーロッパ等の事例と比較すると、少し少なめだということです。これも個人的な意見ですが、KAMの選定プロセスでは、いくつもの段階を経て相当な絞り込みが行われることとなっており、多いのがいいというものでもないのかなという印象は持っています。

 

 

 

 

2.KAMの記載内容について

 

KAMが導入されるにあたっての懸念事項の1つに、未公開情報(有価証券報告書等で開示されていない情報)が突然KAMとして記載されるのではないか?というものがあります。今回の早期適用事例では、未公開情報がKAMとして記載された事例はほとんどなかったということです。しかし、KAMの記載を検討するプロセスにおいて、会社と監査人との間で追加的な開示に関する協議が行われ、有価証券報告書の開示が追加されていたという点は留意すべきでしょう。

 

KAMとして選ばれた理由を大きく分けると、「(会計上の見積りに関連する等)監査上のリスクが高い」ケースと「事象や取引の金額が多額であったため、より慎重に監査を行った」ケースに分類されるようです。

 

また、KAMに対する監査上の対応を記載することとなっていますが、実施した監査手続に関する記載は多くの会社で見受けられたものの、「手続の結果に関する記述」や「当該事項に関する主要な見解」の記載がなされた事例はなかったとのことです。これも、個人的な意見になりますが、個別の事象に対する結果や意見を記載することが、財務諸表全体に対する意見に影響する(意見の一部と捉えられてしまう)懸念があったのではないかと推測します。

 

 

 

3.監査人が留意した事項・認識した課題

 

多くの会社で、監査の早い段階から会社と十分なコミュニケーションを行い、KAMの草案を具体的に提示することに留意されたようです。その結果、当初の想定よりも多くの時間が必要になったということも指摘されています。

 

私も、監査役等の立場でKAMに関わらせて頂いていますが、予めどのようなことが記載されるのかが分かることによって、会社としてはリスクを再認識し、追加的な開示の必要性を検討することができると考えられますので、ある程度の方向性は早めに共有されるのがいいのではないかと考えます。

 

また、KAMが記載されることによって、対象項目に関する事業上のリスクが高いという誤解を心配される会社が多かったようです。KAM=リスクアラートではないという話は若干専門的でもあるので、どのように理解を求めていくのかという点は会社にとっては頭の痛いところかもしれません。

 

 

 

 

4.会社側の認識

 

このレポートが作成されるにあたって、会社の監査役等や経理責任者の方へのアンケートも実施されています。

 

KAMの早期適用に踏み切った目的としては、制度導入の目的である「監査の透明性の向上」「コーポレート・ガバナンスの強化」が挙げられています。特に、後者については、経営者・監査役等・監査人のコミュニケーションの深度が増したという意見があり、一定の効果があったと言えそうです。

 

また、株主総会前に有価証券報告書を提出した会社では、株主総会参加者に対して充実した情報提供ができたという意見もあったようです。会社法では、KAMの適用は強制されていないおらず(任意適用は可能)、株主総会対応をどのように考えるかということも重要な検討課題となりそうです。

 

 

 

 

 

3月決算会社においては、この進行期から適用が開始されるため、そろそろKAMに関するコミュニケーションも始まっているのではないかと思います。いくつかポイントとなりそうな点をまとめてみましたが、何かのお役に立てれば幸いです。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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