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会計・ファイナンス・監査2019.10.16 不正会計について考える(2)【経営者による内部統制の無効化】

今回からは「なぜ、不正会計が起きてしまったのか?」を考えてみたいと思います。今日は「経営者による内部統制の無効化」を取り上げたいと思います。

 

 

【事例】電子部品組立装置メーカーのA社のケース

 

装置の売上計上基準は「検収基準」が採用されていたが、A社ではまだ検収のための作業が残っているケースでも、決算日以降も作業を行うことを約束した上で作業報告書に先方の署名(サイン)をもらうことによって、売上を計上することが慣行的に行われていた。

 

ある年、検収の判定を行う品質保証部門や内部監査室が、多数の工事について十分な作業が行われずに売上が計上されようとしていることやそのことを隠すために関連する書類の改ざんが行われていることに気が付いた。

 

しかし、当時の取締役は品質保証部門に対して作業報告書を承認するように強く指示をしたり、内部監査室長にプレッシャーをかけるなどして、これらの売上計上を強行した。最終的には、当時の監査法人に内部告発文書が届き、不正会計が発覚した。

 

 

A社のケースでは、そもそも作業が終わっていないにもかかわらず、作業報告書の形式を整えれば売上計上は認められるという会計基準に対する誤った理解が不正会計を招いた面は否定できません。

 

しかし、品質保証部門や内部監査室が不正会計の兆候に気が付いていたにもかかわらず、取締役がそれらを封じ込めてしまったことがよくお分かり頂けるかと思います。これが経営者による内部統制の無効化です。

 

経営者による内部統制の無効化は、経営者が自身の都合が悪くなることを避けるために行われることが多いと考えられます。A社のケースでは、「営業出身の社長が連続赤字を回避するために売上の確保にこだわった」とか「売上の急増に伴い装置の生産が追い付かず、その結果現地での調整作業が多くなり、未検収の案件が増加した(→品質保証部門に駆け込んだ取締役は生産担当取締役だったそうです)」という背景が確認されています。

 

もちろん、なんとか業績をよくしようとする経営努力は必要なことですが、それらはあくまでルールの範囲内で認められることです。そこを逸脱するかどうかは、経営者のモラルが問われているということになります。

 

経営者のモラルという点では、最近注目されているコーポレートガバナンスの問題とも関係します。取締役会(役員会)は、取締役が誠実に会社経営にあたっているか(モラルに問題はないか)をきちんと監視することが求められているのです。

 

取締役会の監視機能を高めるという観点から、社外取締役の数を増やしたり、監査役等の機能を強化する(財務・会計に関する知見のある監査役等や補助スタッフの充実など)動きが盛んになってきています。しかし、社内の情報が社外取締役や監査役等にきちんと与えられているか、また、自ら情報収集する努力を行っているかという点も非常に重要であると考えられます。