前回、私のブログでは、有価証券報告書の記載内容について取り上げました。その有価証券報告書には、必ず独立監査人(公認会計士や監査法人)の監査報告書が添付されていますが、今後この監査報告書に「監査上の主要な検討事項」が記載されるというお話です。
1.「監査上の主要な検討事項」が導入される背景
財務諸表の監査は、財務諸表の信頼性を担保し、適切な企業内容の開示を確保するという点において、資本市場において非常に重要な役割を果たしています。
その一方で、不正会計の事案等がなくならず、監査の信頼性が問われている状況にあります。そこで、監査の信頼性を確保するための取組みが様々な角度から検討されてきたわけですが、その1つとして、財務諸表の利用者に対して監査に関する情報提供を充実させることの重要性が指摘されていました。
従来の監査報告書は、記載する文言を標準化して監査人の意見を簡潔明瞭に記載する短文式の監査報告書が採用されていました(世界的にそうでした)。
しかし、この方式では、どのような会社の監査報告書も基本的には同じ文言となってしまい、監査の内容(中身)は全く分からないという問題点がありました。
そこで、従来の基本的な枠組みは維持しながらも、「監査上の主要な検討事項」を監査報告書に記載して監査のプロセス(過程)の透明性を向上させようという流れが国際的に高まるようになり、日本でも導入されることとなりました。
2.「監査上の主要な事項」とは?
「監査上の主要な検討事項」は「KAM」とも呼ばれます。これは、Key Audit Matterの頭文字を取ったものです(米国では「CAM=Critical Audit Matter」と呼ばれるそうです)。
監査基準によると、「監査上の主要な事項」とは、
当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項
とされています。
財務諸表の監査の過程において、監査人はその企業の事業環境や経営戦略等から監査上のリスク(監査が失敗するリスク)が顕在化しないように監査を実施していきます。そのため、会社の監査役等ともディスカッションを重ね、様々な観点から監査上のリスクについて検討を加えていきます。
その結果、虚偽表示のリスクが高いと判断されたもの、見積りや経営者の判断の要素が強い(高い)もの、会社固有の重要な事象や取引などは、「特に注意を払うべき事項」となっていきます。さらに、その中から「特に重要である」と判断したものが「監査上の主要な検討事項」となり、監査報告書に記載されることになります。
「監査上の主要な検討事項」として監査報告書に記載がなされる場合は、①その内容、②監査上の主要な検討事項として選ばれた理由、③監査における監査人の対応状況 が記載されることになるため、リスクの内容やそれに対して監査人がどのような監査手続(作業)を実施したのかまで、明らかにされることとなります。
3.「監査上の主要な検討事項」に期待される効果
「監査上の主要な検討事項」が監査報告書によって、以下の効果が期待されていると言われています。
・監査のプロセスに関する情報が提供されることにより、監査の品質を評価する新たな検討材料が提供され、監査の信頼性向上につながる。
・財務諸表の利用者にとって、財務諸表そのものや監査に対する理解が深まる。
・監査人と経営者や監査役等との対話が促進され、コーポレート・ガバナンスの強化やリスク認識の共有による効果的な監査の実施につながる。
監査の透明化が進むことで理解や対話が促進されるという前向きな効果も期待される一方で、監査チームにとっては、監査の品質(レベル感)を見極められる可能性があるという点では、何を「監査上の主要な検討事項」とするのか慎重に検討する必要があると言えそうですね。
「監査上の主要な検討事項」が記載された監査報告書は、2021年3月期から強制適用されることとなっていますが、2020年3月期からの早期適用が認められており、特に東証1部上場会社は早期適用することが期待されています。
来年の今頃には「監査上の主要な検討事項」が記載された監査報告書が登場することになります。実務の世界にどのような影響を与えていくのか、注目ですね。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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