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国際税務2025.04.16 外国法人の日本人役員又は従業員の報酬源泉の取扱い

 

1.はじめに


 

近年、リモートワーク等が増加しているため、働き方は様々です。そこで今回は、外国法人の役員又は従業員に対する役員報酬又は給与の源泉の取扱いについて解説していきます。

 

 

《日本人の場合》

 

2.事例


 
・日本人Xは、アメリカの法人(A社)の役員です。
・Xは、日本の居住者(永住者)です。
・Xが、A社から受け取った役員報酬は、日本での役務提供に対するものである。
・アメリカにおいて、役員報酬に所得税が課税されています。

 

 

3.日本の基本的な考え方の整理


 

日本の所得税法上、居住者は、国内外問わず、すべての所得に課税される全世界所得課税となります。つまり、海外に勤務していて、海外で仕事をしていたとしても課税所得が生じることとなります。

今回の事例の場合、Xは、日本の居住者であるため、日本での役務提供に対する役員報酬は国内源泉所得となり、日本で、その役員報酬に対して課税されます。
 

 

4.租税条約の確認


 

日米租税条約を確認します。
第15条

一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の取締役会の構成員の資格で取得する報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締結国において租税を課することができる。

 

と、役員報酬の取扱いについて規定されています。
 
日本の居住者が、アメリカの居住者である法人の役員の資格で取得する報酬(=役員報酬)に対しては、アメリカにおいて租税を課することができる。
ということになります。
 
このように、アメリカでも、役員報酬に対して課税されます。
つまり、役員報酬に対して、日本でもアメリカでも課税されることとなり、二重課税が生じてしまうことになります。
 

 

5.外国税額控除の適用有無


 

国際的な二重課税を排除する方式として、外国税額控除制度があります。
これは、居住者が、外国で納付することとなる外国税額を、国外所得金額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「控除限度額」という。)を限度とし日本の所得税から控除することで、二重課税を排除します。
 
つまり、今回のケースでは、この役員報酬が国外源泉所得に該当するのであれば、外国税額控除が適用されます。しかし、日本での役務提供に対しての役員報酬であるため、一見、この役員報酬は国内源泉所得に該当すると考えられますので、このままでは、外国税額控除が適用されず二重課税のままなのか??と不安になってしまう所ですが、規定を確認していきたいと思います。
 
国外源泉所得については、所得税法95条4項に挙げられています。
 
所得税法(外国税額控除)
第95条4項16号

第2条第1項第8号の4ただし書に規定する条約(以下この号及び第6項から第8項までにおいて「租税条約」という。)の規定により当該租税条約の我が国以外の締約国又は締約者(第7項及び第8項において「相手国等」という。)において租税を課することができることとされる所得のうち政令で定めるもの

 

所得税法施行令
(相手国等において租税を課することができることとされる所得)
第225条の13

第225条の13
法第95条第4項第16号(外国税額控除)に規定する政令で定めるものは、同号に規定する相手国等において外国所得税が課される所得とする。

 

→租税条約により相手国であるアメリカで租税を課することができる所得のうち、アメリカにおいて外国所得税が課される所得は国外源泉所得に該当するという内容が記載されています。
 

→つまり、今回の役員報酬は国外源泉所得に該当するため、控除限度額までの外国税額控除が適用されることになります。

 

 

6.従業員の場合


 

5.までは、役員報酬について解説してきました。
それでは、役員ではなく従業員が受け取った給料についての取り扱いはどうなるのでしょうか。確認していきたいと思います。(前提条件は1.と同様)
 
(1)国内法の取扱い

役員と同様、日本での役務提供に対して支払われたお給料であるため、国内源泉所得に該当しますので、日本で所得税が課税されます。
 
(2)租税条約の取扱い

日米租税条約 第14条

1 次条、第十七条及び第十八条の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約国の居住者がその勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が他方の締約国内において行われない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。勤務が他方の締約国内において行われる場合には、当該勤務から生ずる報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

 

と、給料の取扱いについて規定されています。
 
勤務がアメリカ国内で行われない限り、日本においてのみ租税を課することができる。勤務がアメリカにおいて行われる場合には、当該勤務から生ずる報酬に対しては、アメリカにおいて租税を課することができる。
ということになります。
 
(3)まとめ
アメリカ法人から支払われるお給料に関しては、そもそも課税されていないため、二重課税の問題は生じないため、日本で給与所得の確定申告をして所得税を納付すれば問題ありません。
 
しかし、仮にアメリカで誤って課税されてしまっている場合は、どうでしょう。
そのケースでは、日本とアメリカで二重課税になってしまっていることになります。この場合役員と同様、外国税額控除を適用すればいいのでは?と思うかもしれませんが、4.で紹介した所得税の規定により、相手国で外国所得税が課される所得である場合にのみ、国外源泉所得に該当することになりますので、今回の場合は、外国税額控除は適用できないことになります。
そのため、アメリカ(相手国)側で手続きを行って頂く必要があります。
 
 

《アメリカ人の場合》
 

7.役員・従業員の場合


 

 
アメリカ人又はアメリカのグリーンカード保有者はアメリカの市民権課税の仕組みによりどこの国に居住していたとしても全世界所得についてアメリカで申告が必要となります。租税条約において、租税条約がアメリカの市民権課税に影響は及ぼさないと規定されていることからもアメリカで課税されることが読み取れます。
このことを前提に考えた場合、役員報酬については日本人の場合と同様です。
一方で従業員の場合、日本人については租税条約によりアメリカでは課税されないと規定されていましたが、アメリカ人の場合は居住地に関わらずアメリカで課税される(非居住者の非課税枠はありますが)こととなります。
従って、役員報酬の場合と同様に日本勤務分の給与についてアメリカで課税された部分については国外源泉所得として取り扱ってよいと考えられます。
 
いかがでしたでしょうか。
まずは、日本人の場合、国内法での取扱いを確認した上で、租税条約で所得の取扱い(課税される所得か、されない所得か)を確認する必要があります。
国内勤務に対する報酬であっても、役員報酬の場合は、国外源泉所得に該当するため、外国税額控除が適用され、二重課税が排除されるという流れになります。

 

あすか税理士法人

【スタッフ】渋谷優果