東京証券取引所は、英文開示の拡充に向けたコンテンツを提供することを発表しました。今回は、この内容について整理してみたいと思います。
1.英文開示の拡充とは?
東京証券取引所は、プライム市場をグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場と位置付けた上で、海外投資家からは、日本語と英語の情報量や開示のタイミングの差といった情報の非対称性が投資の制約になっており、改善の必要性が指摘されているとしています。
そこで、プライム市場上場会社への更なる海外投資家の投資を呼び込み、対話を通じた企業価値向上を促していく観点から、英文開示の拡充に向けた上場制度の見直しを行いました。
具体的には、プライム市場の上場会社は、重要な会社情報について、可能な限り、日本語と同時に、英語で同一の内容の開示を行うように努める旨の努力義務が新設されました。その上で、上場会社における実務上の負荷も鑑みつつ、具体的な義務化の内容を以下のように定めています。
英文開示が義務化される事項
✔ 決算情報・・・決算短信、四半期決算短信(決算補足説明資料を含む)
✔ 適時開示情報
開示のタイミング
日本語と同時
ただし、英語による同時開示を行おうとすると、日本語による開示の遅延が生じるときは、同時でなくても可(日本語を優先して開示)
留意事項
全ての書類・全文について同時開示することが望まれるが、日本語における開示の内容の一部または概要を英語により開示することでも可
適用時期
2025年4月1日以後に開示するものから適用(事業年度ではないことにご留意ください)
先にも述べた通り、英文開示は日本語の開示の参考訳として位置付けられているため、英文開示の内容の正確性については規則違反に対する措置の対象外とされていますが、英文開示自体を行っていない場合等は、規則違反に対する措置(公表措置など)の対象になるとされています。
※詳しくは、こちらのブログをご覧ください。
2.英文開示の拡充に向けたコンテンツ
今般公表されたコンテンツは、以下の内容となっています。
✔ 英文開示実践ハンドブック(改訂)
✔ 英文開示様式例(一部又は概要)
✔ プライム市場における英文開示の拡充に関して寄せられた主なご質問と回答(2024年10月更新版)
(1) 英文開示実践ハンドブック
英文開示実践ハンドブックは、文字通り英文開示の実務における対応方法が纏められたものとなっており、以下の内容で構成されています。
✔ 英文開示に関する上場規則の概要
✔ 英文開示実施に向けた計画の立案
✔ 翻訳の外注による英文資料の作成
✔ 機械翻訳の活用
✔ 英文開示に関する東京証券取引所の取り組み
これまで英文開示を実施していなかった企業の担当者の方は、これをバイブルにして取り組みを進められるのがよろしいのではないでしょうか。また、開示資料を英訳できる人材がいないと悩んでおられる企業の方にとっては、翻訳の外注(コストは発生しますが)や機械翻訳(コストを抑えられるかもしれません)についての記述もありますので、参考になるかと思います。
(2) 英文開示様式例(一部又は概要)
こちらも、文字通り英文開示の「ひな型」が収録されています。実務担当者の方にとっては、すぐに飛びつきたいものかもしれませんが、あくまで「様式例」ですので、記載内容が日本文の内容と齟齬がないか等十分に確認しておく必要があると思われます。なお、以下の様式例が収録されています。
✔ 決算短信(サマリー情報)・・・会計基準別
✔ 四半期決算短信(サマリー情報)・・・会計基準別
✔ 適時開示項目
・上場会社の決定事実・・・自己株式の取得(買い付け)、剰余金の配当、他の会社との業務提携、他の会社の株式の取得(子会社化)、固定資産の取得、代表取締役の異動、公認会計士等の異動 など
・上場会社の発生事実・・・損失の計上、商品の自主回収、有価証券評価損の発生、主要株主の異動、債権の取立不能、有価証券報告書(半期報告書)の提出遅延 など
・その他の事項・・・業績予想の修正、配当予想の修正、開示資料の訂正 など
✔ コーポレート・ガバナンスに関する報告書・・・会社の機関別
✔ 株主総会招集通知
✔ 英文資料に記載するディスクレイマー(断り書き)
(3) プライム市場における英文開示の拡充に関して寄せられた主なご質問と回答(2024年10月更新版)
こちらは、いわゆるFAQとなっています。英文開示の準備を進める中で、疑問に思われたことがあった時は、まずこちらを参照されるのがよろしいのではないでしょうか。こちらのブログでも一部その内容をご紹介していますので、ご参照ください。
東証が公表しているプライム市場上場会社の英文開示実施状況によると、決算短信や決算説明会資料については実施済の企業が多い一方、適時開示資料については半数近くの会社がまだ実施していない模様です。
決算情報はある程度スケジュールを立てることが可能であると考えられますが、適時開示情報は突発的な対応が求められると考えられるため、今回公表されたコンテンツも参考にしながら、英文開示体制の整備について十分に検討しておく必要があると考えられます。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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