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国内税務2024.09.25 【伝家の宝刀】令和4年・令和6年判決からみる総則6項の適用

相続税の伝家の宝刀である総則6項の適用に関しては、不透明性が高く不明瞭であるとされてきましたが、令和4年4月19日判決で最高裁が初の判断を下して国が勝訴し話題となりました。

 

しかし同じく総則6項の適用が争われた令和6年8月28日の高裁判決では逆に国が敗訴し、そのまま上告せずに判決が確定しました。

 

今回のブログではそれぞれの裁判例の簡単な紹介と総則6項に関して注意するべき事項を紹介したいと思います。

 

 

 

総則6項とは?

 


 

相続税の財産の価額は、その財産の相続時の時価とされています。しかしこの場合「時価」とはどんな価額?となりますので、具体的には「財産評価基本通達(通達)」と呼ばれる一定のルール(法的拘束力は持たない)を設けて国税庁の評価方法を公開しています。

 

この通達の6、いわゆる「総則6項」では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁⾧官の指示を受けて評価する。」と述べられています。

 

総則6項の意義は、それぞれ個別的な事情のある財産に対して通達を形式的に適用することが課税の公平性の観点から適当でない場合があるためと考えられています。

 

 

しかし総則6項の文言にある「著しく」「不適当」のラインが明確でないために、総則6項の適用について裁判となっているケースがみられます。

 

 

 

 

総則6項の適用を巡る裁判例


 

令和4年4月19日最高裁判決

 

相続の直前に被相続人が多額の借入金で不動産を購入、相続開始後に売却し、相続税額を減額したという事例です。

 

最高裁は総則6項の適用は妥当とし、納税者側の敗訴が確定しました。

 

最高裁により総則6項の適用を認める判決がされたのは初であり、この裁判は国税当局の総則6項の運用指針にも影響を与えています。

 

 

令和6年8月28日東京高裁判決

 

法人のM&Aに際して株式売却に係る基本合意を締結した後に相続が発生。基本合意の売却金額(約105,000円/株)と類似業種批准価額により算出した通達評価額(約8,000円/株)に乖離がみられたことなどで総則6項の適用が争われた事例です。

 

東京高裁は総則6項の適用を認めず、国側が敗訴

 

国は最高裁への上告を行わず、国の敗訴が確定しました。

しかし、令和6年8月28日東京高裁判決では総則6項の適用が認められず、国の敗訴が確定しました。

 

 

 

 

税務当局の総則6項の運用指針


 

令和6年判決の敗訴を受けても令和4年の最高裁判決を踏まえた運用方針に変更は無いとみられています。

 

令和4年の最高裁判決を受けて全国の税務当局に指示された総則6項の運用指針は下記の通りで、それぞれの適用基準を総合的に判断して総則6項の適用を検討することになります。

 

① 評価通達に定められた評価方法以外に、他の合理的な評価方法が存在するか

② 評価通達に定められた評価方法による評価価額と他の合理的な評価方法による評価額との間に著しい乖離が存在するか

③ 課税価格に算入される財産の価額が、客観的交換価値としての時価を上回らないとしても、評価通達の定めによって評価した価額と異なる価額とすることについて合理的な理由があるか

 

 

 

裁判例を踏まえてどんなことに注意すべきか


 

裁判例より総則6項の適用は租税回避行為があったからではなく、あくまでも他の納税者との公平性の観点から「特段の事情」があった場合に適用されることとなります。

 

総則6項の適用に関しては個別の事実関係を総合的に勘案して判断されることとなります。

 

 

総則6項の適用については被相続人が意図的に「相続税の負担を減じ又は免れさせる行為」を行ったかどうか=相続税の公平性に反しないかどうかという点が重要になるかと思います。

 

そのため、そのような「行為」と認定されるようなものには注意をするべきであります。

 

そのうえで下記のような点に注意するべきかと思われます。

 

① 通達評価額と実際の価額に大きな乖離がないか

 被相続人が高齢など近い将来の相続の発生が想定できる状況であるかどうか

 財産購入のため借入金が発生していないか

④ 相続後にすぐに財産を売却していないか

 

 

令和4年判決では上記のような要件から意図的に「相続税の負担を減じ又は免れさせる行為」を行ったと判断され、総則6項が適用されました。

 

令和6年判決では相続発生前に法人のM&Aに際して基本合意が行われていました。

そのうえで非上場株式の評価には専門的計算が必要なことや、もし相続が発生せず通常通り株式の売却が行われていた場合むしろ相続税額は増額することなどから、「特段の事情」は無いとされ、総則6項は適用されませんでした。

 

 

 

 

 

まとめ


 

総則6項についてはその適用関係の不透明さと納税者に与えるインパクトの強さから相続税の財産評価において重要な要素として存在しています。

 

近年の裁判例から総則6項の適用に関しては少し見えてきた部分もあるかと思いますが、紹介した裁判例はそれぞれ不動産と非上場株式の事例であり総則6項の適用に関しては引き続き留意していく必要があるかと思います。

 

 

あすか税理士法人

【スタッフ】西浦 翔太