お問い合わせ

BLOGブログ

会計・ファイナンス・監査2024.07.17 循環取引について考える(その2)

日本監査役協会、日本内部監査協会、日本公認会計士協会は、「循環取引に対応する内部統制に関する共同研究報告」(以下、研究報告)を公表しました。今回は、この研究報告を参考に、内部統制による具体的な対応について、考えてみたいと思います。

※循環取引の特徴等については前回のブログを是非ご覧ください。

 

 

.全社的な内部統制


 

循環取引を行う動機は様々である一方、不正の規模の拡大が早く、いずれ行き詰まり、露見することが多い不正とされています。このため、循環取引が明るみになれば、企業は多額の損失を発生させ、その信用は失墜し、不正実行者の刑事責任が追及される場合もあります。

 

このため、循環取引に限られませんが、経営者はいかなる場合も不正は正当化できないこと、そして不正は許さないというメッセージを発信し、不正を容認しない企業組織と風土を構築することが重要であると指摘されています。すなわち、すべての内部統制の基礎となる全社的な内部統制の整備・運用を改めて見直してみることが必要であると考えられます。

 

研究報告では、全社的な内部統制についてのポイントとして、以下の項目を取り上げていますが、この内容は、循環取引だけでなく、不正リスク対応の観点から内部統制を整備・運用するにあたって、参考になるものと思われます。

①内部通報制度の整備・運用

 

②教育研修の実施

一般的なコンプライアンス研修だけでなく、循環取引に関する知識を習得することで、循環取引の端緒に気が付けるようにする

 

③人事制度(人事ローテーションの実施や連続休暇制度の採用)

 

④適切な業務分掌

直送取引、専門性の高い取引、秘匿性があるとされる取引、業界慣行による特殊な取引は業務分掌に関する内部統制を形骸化させる(担当者しか分からない取引になりやすい)ため、循環取引の機会となる可能性が高まる

 

⑤リスクベースの内部監査の実施

 

⑥監査役等による取締役の業務監査の実施

 

⑦社外役員による取締役の監督

 

 

 

2.防止的(予防的)内部統制


 

循環取引の特徴のところでも述べましたが、循環取引は一度始まってしまうと、通常の取引に紛れ込んでしまうため、発見が困難になる可能性が高くなります。このため、研究報告では、循環取引の実行を阻止するための防止的(予防的)内部統制を適切に整備・運用することが重要であるとされています。

 

その1つとして、受注予定の取引の事業上の合理性の審査が考えられます。具体的な審査項目は次の通りです。

①自社が取引に参加することの合理性または当該取引における自社の役割に関する審査

 

②受注を予定している取引の業務内容・納期・納入場所・エンドユーザー等を把握した上で、業務を提供する期間・人員数・調達する機器・外注する業務等の整合性に関する審査

 

同業他社と取引をする場合のその理由の審査

 

④自社があらかじめ指定している取引業者以外に発注する場合のその合理性の審査

 

 

循環取引においては、不正実行者に協力的な取引先が新規の取引先として取引に関わってきたり、循環取引に巻き込まれていた企業がそれに気付き、取引関係を解消していた事例もあることから、取引先の選定や変化についても留意する必要があるとされています。

 

 

3.発見的内部統制


 

先にも述べた通り、循環取引は一度始まってしまうと、通常の取引に紛れ込んでしまうため、発見が困難になる可能性が高くなりますが、その影響を最小限に抑えるという観点からも発見的内部統制の整備が必要と考えられます。

 

(1) 会社のビジネスに照らした循環取引リスクの検討

 

あらかじめ自社のビジネスにおける循環取引の発生可能性に係るシナリオ分析を行い、循環取引発生のリスクが高いと判断された場合は、該当する業務プロセスに関連する内部統制の状況が十分かどうかを確認することが有用であるとされています。

 

シナリオ分析を実施するにあたっての考慮事項として、以下のものが挙げられています。

・企業の置かれた業界慣行(例.業界特有の慣行によって取引の全体像が把握できないようなケースはないか)

 

・新規の取引や通例でない取引を実施する場合、その取引の事業上の合理性が十分に検討できているか

 

取引先に対する過度の信頼がないか

 

職務分離や担当者のローテーションは適切に行われているか(人員の配置が固定的でないか)

 

 

(2) 業務プロセス

 

商流の全体像や事業上の合理性の把握とその対応

 

循環取引においては、商流の全体像が把握できていないケースや取引の事業上の合理性が説明できないケースがあることから、取引開始前にこれらをチェックするだけでなく、事後的にリスクの取引を識別し、対応できる内部統制を構築することが効果的であると指摘されています。

 

例えば、短期間で取引規模が急拡大している商流ビジネス環境に照らして不自然に取引金額が継続して増加している商流は、循環取引が発生しているリスクがあると考えられるため、その取引内容を確認する(その原因を分析する)というような内部統制の構築が考えられるとされています。

 

また、分析の手法についても、直近のデータだけでなく、過去複数年の推移分析が有用となるケースや売上データと仕入データの紐付けから商流の全体像を把握する方法等も取り上げられています。

 

循環取引のリスクが高い取引への対応

 

循環取引のリスクが高い取引の形態の1つに直送取引がありますが、直送取引においては、発注書や納品書だけでなく、物品の移動を裏付ける証憑(例.物流会社の伝票等)も確認することや、一定の規模で直送取引を行っている場合は、その取引された商品を得意先が実際に受領しているかどうかを現物確認することも取り上げられています。

 

一方で、ソフトウェア等の無形資産で現物の確認がしづらいケースや、専門性が高くその価値を評価しづらいもののケースでは、専門知識を有する者への問い合わせを行うことも考えられるとされています。

 

資金決済等に係るリスクとその対応

 

循環取引では資金決済も仮装されるケースが多いため、通常はその発見は困難になりますが、胴元企業の資金繰りの関係から、業界慣行等と照らして不自然な決済条件が提示されたり、急に決済条件が変更されたり、入金遅延や継続的な一部入金等、通常の取引とは異なる場合があり、これが循環取引発見の端緒となる場合があるとされています。

 

また、胴元企業が協力企業に資金江援助を行うケースもあり、このようなケースでは、通常の仕入先以外との不自然な取引や通常の仕入先との取引における仕入以外の不透明な多額の経費取引(例.コンサルティング費用やアドバイザリー費用)について留意する必要があるとされています。

 

このような資金決済における異常なケースにおいても、その理由や合理性を確かめることが重要であるとされています。

 

 

ここまで、循環取引の特徴とそれに対応する内部統制のあり方を見てきました。循環取引はその発見が困難であるという特徴を有するため、防止的(予防的)統制の構築が非常に重要であること、一方で、過去の事例から不正発見のヒントとなる事象もいくつも識別されていることから、これらを活用した発見的統制を構築し、万が一の場合にも早期発見ができることが重要であると考えられます。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

プロフィールはこちらをご覧くださいませ!