企業会計基準委員会(ASBJ)は、「中間財務諸表に関する会計基準」及び「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、中間会計基準等)を公表しました。今回は、この内容について、確認したいと思います。
1.基準公表の背景と基本方針
既にこのブログでもお伝えしたとおり、四半期開示制度の見直しによって、上場会社については、第1・第3四半期の金融商品取引法上の四半期開示義務が廃止されることとなりました。
これにより、上場会社は、改正後の金融商品取引法に基づく半期報告書において中間(連結)財務諸表を開示することとなりますが、今回、この中間(連結)財務諸表に適用される会計基準が開発されたということになります。
会計基準の開発にあたっては、新しい中間(連結)財務諸表の内容が、従前の第2四半期報告書と同じ程度の記載内容となるように、従前の四半期財務諸表に関する会計基準及びその適用指針(以下、四半期会計基準等)の会計処理及び開示を引き継ぐこととされています。
ただし、期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い、第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる項目があり、これについては、会計処理の見直しによって、企業の実務負担が生じないように、従来の四半期決算での実務が継続して適用可能となる取扱いが定められています。
2.従来の四半期決算での実務が継続して適用可能となる取扱い
先にも述べた通り、期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い、第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる項目があります。具体的には、以下の項目について、個別に取扱いが示されています。
(1) 原価差異の繰延処理
標準原価計算等を採用している場合において、原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生するものであり、かつ、原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれる場合は、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産または流動負債として繰り延べることが認められています。(会計基準第17項)
非上場会社等が作成する中間財務諸表の作成基準においては、実績主義を基本的な考え方としたことから、原価差異の繰延処理の取扱いが削除されていました。その一方で、四半期会計基準等においては、3か月という短い会計期間であることが考慮され、一定の条件を満たし、かつ、継続適用を条件に、四半期特有の処理として原価差異の繰延処理が認められていました。
非上場会社向けの中間財務諸表の作成基準と同様に原価差異の繰延処理を廃止した場合には、一定の影響があり、基準開発の基本方針と整合しなくなると判断されたことから、四半期会計基準等の取扱いが踏襲されることとなりました。
(2) 子会社を取得(売却)した場合等のみなし取得日
みなし取得日(売却日)とは、中間連結財務諸表を作成するにあたり、支配獲得日や株式の取得日(売却日)等が子会社の中間会計期間の末日以外である場合に、当該前後いずれかの決算日等に支配獲得や株式の取得(売却)が行われたものとみなすことができる考え方です。
この当該前後いずれかの決算日等には、期首、中間会計期間の末日またはその他の適切に決算が行われた日が含まれることとされています。(会計基準第20項)
四半期決算日をみなし取得日(売却日)として認めないこととした場合には、四半期会計基準等に基づく会計処理と異なる結果となる可能性があり、基準開発の基本方針と整合しなくなること、また、支配獲得日等に近い特定の期日に決算が行われる場合は、当該決算日をみなし取得日(売却日)とすることが否定されるものではないと考えられることから、「その他の適切に決算が行われた日」がみなし取得日(売却日)として認められています。
(3) 有価証券の減損処理や棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法
中間会計期間末における有価証券の減損処理にあたっては、中間切放し法と中間洗替え法のいずれかを適用すること(いったん採用した方法は継続適用が必要)が認められています。(適用指針第4項)
一方、棚卸資産の簿価切下げについては、年度決算において洗替え法を適用している場合には、中間会計期間末においても洗替え法によることとされていますが、年度決算において、切放し法を適用している場合には、中間会計期間末において、洗替え法と切放し法のいずれかを適用すること(いったん採用した方法は継続適用が必要)が認められています。(適用指針第7項)
ここで、従前の四半期決算において、有価証券の減損処理や棚卸資産の簿価切下げに(四半期)切放し法を適用していた企業においては、期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い、第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とでは差異が生じる可能性があります。また、中間会計基準等の公表から適用までの期間が短いことから、システム対応等実務上の対応が困難な場合がある(特に棚卸資産の場合)との意見も示されました。
これらの点を踏まえ、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができるという経過措置が設けられています。(適用指針第62項及び第63項)
(4) 一部の簡便的な会計処理に関する取扱い
中間会計期間末における一般債権の貸倒見積高(貸倒引当金)は、一般債権の貸倒実績率等が前年度の財務諸表の作成において使用した貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合は、前年度末の決算において算定した貸倒実績率等の合理的な基準を使用することが認められています。(適用指針第3項)
また、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる中間会計期間末の未実現利益の消去にあたっては、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産の金額や当該取引に係る損益率を合理的に見積もって計算することが認められており、前年度から取引状況に大きな変化がないと認められる場合は、前年度の損益率や合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用することも認められています。(適用指針第7項)
これらの取扱いは、四半期財務諸表に求められる開示の迅速性という観点から、四半期会計基準等において認められていたものですが、上場会社が作成する中間(連結)財務諸表は、非上場会社等が作成する中間(連結)財務諸表よりも開示の迅速性が求められることから、簡便的な会計処理として引き継がれています。
また、第1四半期において算定された貸倒実績率や未実現利益算出のための損益率を中間会計期間において用いることも、理論的には適切でないと考えられるものの、簡便的な会計処理が財務諸表利用者の判断を誤らせないことを条件に認められたものであることから、会計処理の見直しによる企業の実務負担を考慮して、従前の第2四半期での実務が継続して適用できる経過措置が設けられています。(適用指針第61項及び第64項)
基本的には、従前の第2四半期と同じ決算手続で中間(連結)財務諸表が作成できるように基準が開発されていると思われますが、条文の適用関係については、一度確認しておかれるのが望ましいと思われます。
今後の基準開発については、中間会計基準等と四半期会計基準等を統合する作業が提案されていますが、その統合の方法については、様々な意見があるとされており、今後引き続き検討が行われることとなっています。
また、上場会社については、第1・第3四半期も取引所規則に基づく四半期決算短信の開示が行われるため、統合した会計基準の開発が行われるまでの間は、四半期会計基準等の適用を終了しないこととされています。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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