中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となる(=保証債務を負う)ことを求められることがあると思います。これを経営者保証といいます。
事業を継続する上で資金は必要不可欠であるため、致し方なく連帯保証人となった経営者の方も多いのではないでしょうか?
仮に企業が倒産等により融資の返済が出来なくなった場合、連帯保証人となった経営者は、企業に代わり返済(=保証債務の履行)を求められる事になってしまいます・・・。
今回解説する「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」とします)に経営者保証に関する支援策が示されているのはご存知でしょうか?
本ブログと次回以降に分けて、当該ガイドラインについて解説したいと思います。
当該ガイドラインは2013年、全国銀行協会と日本商工会議所が作成し、2014年2月1日より適用が開始されています。(2022年には経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速するため、「経営者保証改革プログラム」が策定されましたが本ブログでは説明を割愛します。)
当該ガイドラインが策定される以前は、
・借入時、経営者保証がないと融資を受けられない・・・
・会社が破産し、会社と同等の債務を経営者は負うことに・・・
(=経営者が債務整理を行う必要があります。企業の借入額は多額であることも多く、経営者が支払不能にあるときは債務整理の方法として法定根拠に基づき自己破産をするしかないという状況が考えられます。)
結果、経営者保証によって経営者による思い切った事業展開や、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因になるなど、経営者保証の契約時及び履行時等において様々な課題が存在していました。
経営者保証に依存しない融資の促進、主たる債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うため、当該ガイドラインが策定・公表されました。
※なお、ガイドラインには法的な拘束力は無く、中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルールであり、関係者が自発的に尊重・遵守することとされています。そのため、最終的にガイドラインに基づく手続きを行うかどうかは金融機関に委ねられることになります。
当該ガイドラインは次の3つの時において活用することが出来ます。
①借りる時 (新規・既存の借換え)
→経営者保証なしで融資を受けられる可能性
②事業を引き継ぐ時
→既に提供している経営者保証を見直すことができる可能性
③返済する時
→・保証履行後に残せる資産等の範囲が自己破産時より増える可能性
・経営者の債務整理に関連する情報が信用情報登録機関に報告・登録されない可能性
本ブログでは①②について解説し、③は次の機会に詳しく述べることとします。
当該ガイドラインの適用対象となる保証契約は次の全ての要件を見たす必要があります。
・保証契約の主たる債務者が中小企業であること
・保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること
※ただし特別な事情がある場合は実質的な経営権を有している者、経営者の配偶者、事業承継予定者等が適用対象に含められます。
・主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等について適時適切に開示していること
・主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
また、①借りる時②事業を引き継ぐ時においては次の3つの要件を金融機関が総合的に勘案して、充足していると認められて初めて検討がなされます。
イ)法人と経営者が明確に区分・分離されている
=役員報酬・賞与、配当、経営者への貸付等、法人と経営者の間の資金のやりとりを社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、法人・個人の一体性の解消に努めるべきであるとされています。
この整備・運用状況については、公認会計士や税理士といった外部専門家による検証を実施し、金融機関等の債権者に適切に開示することが望ましいとされています。
ロ)財務基盤の強化
=経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化することが必要とされています。
ハ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
=経営者は、経営者自身のものを含め資産負債の状況、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより経営の透明性を確保することが求められています。
(開示情報の信頼性向上のため、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示がなお良いとされています。)
また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には自発的に行動するなど適時適切な情報開示に努めるべきであるとされています。
また、経営者保証全般に関する相談は、取引金融機関・商工会議所・商工会・中小企業団体中央会が請け負っています。
今回は、借りる時と事業引継ぎ時における経営者保証について解説をしました。
安定した事業継続や新しい事業を展開のため融資を必要とするとき、経営者保証がネックになる場合は多いのではないでしょうか。
経営者の誠実な姿勢と安定した会社経営(またはその見通し)を条件に支援が受けられる可能性のある本ガイドラインは、融資本来のあり方であると個人的には考えます。まずはガイドラインの存在を知り、これを利用した融資等が受けられるかどうか取引金融機関に相談することが第一歩と考えます。
次回のブログでは、有事の場合の経営者保証を付けた借入についてどのような支援策があるのか、解説したいと思いますので是非ご確認ください。
あすか税理士法人
【スタッフ】中村麻侑子