東京証券取引所は、11月に「四半期開示に関する実務の方針」を公表しました。今回は、この内容について、ご説明します。
1.公表の背景と概要
金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)では、中長期的な企業価値にとって重要となる開示事項とすることを通じて、企業が必要な取り組みを行い、また、投資家との建設的な対話を促すという視点で、様々な角度から議論が行われてきました。
※金融審議会DWGの議論の内容については、こちらのブログもご覧ください。
その中で、「四半期開示をはじめとする情報開示の頻度やタイミング」がテーマの1つとして取り上げられ、四半期開示の今後のあり方について、一定の方向性が示されました。これを受けて、金融商品取引法の改正案が国会に提出され、11月に臨時国会で成立しました。
この改正により、2024年4月1日以降開始する事業年度から四半期報告書が廃止され、第1・第3四半期は取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されることとなりました。なお、第2四半期については、法令に基づく開示として半期報告書の提出が求められますが、その内容については、従前の第2四半期における四半期報告書の開示内容から大きな変更はないものとなっています。
東京証券取引所では、この法令改正が行われた後の第1・第3四半期決算短信の開示内容やレビューのあり方等についての議論を重ね、今回一定の方針が示されたこととなりますが、論点として、以下の5つが取り上げられています。
・第1・第3四半期決算短信の開示内容とタイミング
・第1・第3四半期決算短信のレビューとエンフォースメント
・見直し後の第2四半期・通期決算短信の取扱い
・決算短信のデータ配信形式
・情報開示の充実
2.第1・第3四半期決算短信の開示内容とタイミング
新しい制度の下での、第1・第3四半期決算短信の開示内容についての基本的な考え方は、(法令に基づく)四半期報告書で開示されていた事項のうち、投資者の要望が特に強い事項を四半期決算短信に追加して、開示を義務付けるものとされました。
そこで、新制度における半期報告書の作成にあたって適用される財務諸表等規則や会計基準のうち、取引書が開示を求める事項以外の省略を認める一方で、必要な事項を追加する形で財務報告の枠組みが整備されています。
以下、開示内容のポイントをまとめてみました。
✔ 適用される会計基準に関わらず、連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書を開示する(連結キャッシュ・フロー計算書は、投資家ニーズに応じた開示を要請する)
✔ 現行の注記事項に加えて、セグメント情報等の注記及びキャッシュ・フローに関する注記(連結キャッシュ・フロー計算書の開示を省略する場合)を開示する
✔ サマリー情報の注記事項として「レビューの有無(義務のレビューと任意のレビューを区別)」を記載する(決算短信に関するレビュー制度については、後述します)
また、開示が義務付けられる事項以外についても、投資家ニーズのある事項について積極的に開示を行うことが重要されており、投資判断に有用と考えられる情報の例として、以下のものが示されています。
✔ キャッシュ・フロー計算書
✔ 財務諸表に係る注記
・貸借対照表関係の注記/損益計算書関係の注記
・金融商品/有価証券/デリバティブ関の注記
・重要な後発注記
✔ 経営成績等に関する説明に当たって、投資判断に有用と考えられる事項
・経営管理上重要な指標
・設備投資や研究開発費
・適時開示を行った事象が決算に与える影響
なお、第1・第3四半期の決算短信の開示タイミングについては、決算の内容が定まり次第開示を求めることとし、四半期末から45日を経過する場合にはその状況について適時開示を求めることとされています。また、現行制度と同様に、開示内容の一部を先行して開示することも認められています。
3.第1・第3四半期の決算短信のレビューとエンフォースメント
これまでの制度では、四半期決算短信そのものをレビューする制度はありませんでしたが、四半期決算短信の開示後に、法令に基づく四半期報告書において開示される四半期連結財務諸表について、監査人のレビューを受けることが求められていました。
今回の改正によって、第1・第3四半期については、法令に基づく四半期報告書の開示が行われないため、第1・第3四半期決算短信の情報の信頼性をどのように担保するのかということが1つの論点となっていました。
検討の結果、第1・第3四半期決算短信についての監査人によるレビューは原則任意とする一方、会計不正等により、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合には、監査人によるレビューを義務付けることとされました。監査人のレビューが義務付けられる具体的な要件は、以下の通りとなっています。
① 直近の有価証券報告書・半期報告書・四半期決算短信(任意のレビューを受ける場合)において、無限定適正意見(結論)以外の場合(訂正の場合を含む)
② 直近の有価証券報告書において、内部統制監査報告書における無限定適正意見以外の場合
③ 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合(訂正の場合を含む)
④ 直近の有価証券報告書・半期報告書が当初の提出期限内に提出されない場合
⑤ 当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付される場合
また、エンフォースメント(実効性の強化という意味合いがあります)については、会計不正等の疑義が生じた場合等、必要と認められる場合に、上場会社への確認を基本としつつ、監査人との連携を強化し、会計不正の概要を早期に把握できるよう上場規則等の改正等が行われることとされています。
4.新制度における第2四半期・通期決算短信の取扱い
新制度における第2四半期・通期においては、法令に基づく開示(半期報告書・有価証券報告書)が存続するため、第2四半期・通期決算短信については、現行の取扱いを維持するとされています。従って、以下のような点に留意が必要と考えられます。
✔ 第1・第3四半期決算短信について監査人のレビューを受けている場合であっても、第2四半期・通期決算短信はレビュー・監査の対象外となる。
✔ 第1・第3四半期決算短信で追加される開示事項については、第2四半期決算短信では、開示の義務付けはせず、速報性と投資者ニーズを踏まえて各社で開示の要否を判断することとなる。
✔ 第2四半期決算短信の名称は、「中間決算短信」等ではなく、「第2四半期(中間期)決算短信」とする。
この他、決算短信のデータ配信形式の一部が変更されたり(これまで任意とされてきたHTML形式による添付資料の提出が義務付けになる等)、上場会社が主体的に判断し、投資者にとって有用な情報が積極的に開示される市場環境の整備を行うことが示されていますので、経理・IR等のご担当の方は内容をご確認頂きたいと思います。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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