前回からの続きで法人税に関する税制改正大綱の一部をご紹介いたします。
1.イノベーション促進のための研究開発税制の見直し
(1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度について、税額控除率を次のとおり見直した上、研究開発を行う一定のベンチャー企業(※)の控除税額の上限を当期の法人税額の 40%(現行:25%)に引き上げられます。
① 増減試験研究費割合が8%超
9.9%+(増減試験研究費割合-8%)×0.3(上限10%)
② 増減試験研究費割合が8%以下
9.9%-(8%-増減試験研究費割合)×0.175(下限6%)
(※)設立後10年以内の法人のうち当期において翌期繰越欠損金額を有するもの(大法人の子会社等を除く。)をいいます。
(2) 試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合における試験研究費の総額に係る税額控除制度の控除税額の上限の上乗せ特例について、次のとおり改組した上、その適用期限が2年延長されます。
① 試験研究費の総額に係る税額控除制度における控除税額の上限(当期の法人税額の 25%又は40%)に、当期の法人税額に試験研究費割合から10%を控除した割合を2倍した割合(10%を上限とする。)を乗じて計算した金額を上乗せする(現行と同じ。)。
② 試験研究費の総額に係る税額控除制度における税額控除率を、上記(1)により算出した率に、その算出した率に控除割増率(※)を乗じて計算した率を加算した率とする(小数点以下3位未満の端数は切捨て)。
(※)試験研究費割合から10%を控除した割合に0.5を乗じた割合をいいます。(上限10%)
(3)試験研究費の総額に係る税額控除制度の税額控除率の上限を14%(原則10%)とする特例の適用期限が2年延長されます。
(4)中小企業技術基盤強化税制について、増減試験研究費割合が5%を超える場合の特例を増減試験研究費割合が8%を超える場合の特例に見直した上、その適用期限が2年延長されます。また、試験研究費の額が平均売上金額の 10%を超える場合に税額控除率が割り増しされます。
(5)特別試験研究費の額に係る税額控除制度について
① 対象となる特別試験研究費の額に、次の要件を満たす企業間の委託研究に要する費用の額を加え、その税額控除率が下記③を除き20%とされます。
イ 受託者の委託に基づき行う業務がその受託者において試験研究に該当するものであること。
ロ 委託に係る委任契約等(契約又は協定で、委任又は準委任の契約その他これに準ずるものに該当するものをいう。)において、その委託して行う試験研究の目的とする成果をその委託に係る委任契約等に基づき委託法人が取得するものとされていること。
ハ 次のいずれかを満たすこと。
(イ)委託して行う試験研究が委託法人の基礎研究又は応用研究であること。
(ロ)委託して行う試験研究が受託者の知的財産権等を利用するものであること。
(注)上記の「知的財産権等」とは、知的財産権、これに準ずるノウハウ(第三者との契約により受託者が権利を有することが明らかなものに限る。)その他これらを活用した機械その他の減価償却資産をいう。
ニ 委託に係る委任契約等において、その委託に係る試験研究が委託法人の工業化研究に該当するものでない旨又は受託者の知的財産権等を利用するものである旨その他一定の事項が定められていること。
② 特別試験研究費の対象となる国の指定を受けた医薬品等に関する試験研究について、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の改正を前提に国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所からの助成金の交付を受けて行う特定用途医薬品等に関する試験研究を加えるとともに、その助成金の交付を受ける法人の常時使用従業員数が 1,000人以下であることとの要件が設けられます。
(注)上記の「特定用途医薬品等」とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の特定用途医薬品、特定用途医療機器及び特定用途再生医療等製品のうち、その用途に係る対象者の数が本邦において5万人未満であるものをいう。
③ 研究開発型ベンチャー企業との共同研究及び研究開発型ベンチャー企業への上記①の委託研究に係る税額控除率が25%とされます。
(注)上記の「研究開発型ベンチャー企業」とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者でその発行する株式の全部又は一部が同法の認定ベンチャーファンドの組合財産であるものその他これに準ずるものをいう。
④ 控除税額の上限を当期の法人税額の10%(現行5%)に引き上げる。
⑤ 特別試験研究費のうち大学等との共同研究に係る費用について、研究開発のプロジェクトマネジメント業務等を担う者の人件費の適用を明確化する。
(6)上記(2)の改組に伴い、平均売上金額の 10%を超える試験研究費に係る税額控除制度が廃止されます。
(7)新設の分割承継法人等に係る調整計算等の適正化その他の所要の整備が行われます。
2.中小企業向けの各租税特別措置等におけるみなし大企業の範囲について
みなし大企業の判定において、大規模法人に次の法人を加えるとともに、その判定対象となる法人の発行済株式又は出資からその有する自己の株式又は出資が除外されます。
イ 大法人の100%子法人
ロ 100%グループ内の複数の大法人に発行済株式又は出資の全部を保有されている法人
(※)上記の「大法人」とは、資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上である法人、相互会社若しくは外国相互会社(常時使用従業員数が1,000人超のものに限る。)又は受託法人をいいます。
3.仮想通貨の評価方法等について
① 法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。
② 法人が仮想通貨の譲渡をした場合の譲渡損益については、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度に計上する。
③ 仮想通貨の譲渡に係る原価の額を計算する場合における一単位当たりの帳簿価額の算出方法を移動平均法又は総平均法による原価法とし、法定算出方法を移動平均法による原価法とする。
④ 法人が事業年度末に有する未決済の仮想通貨の信用取引等については、事業年度末に決済したものとみなして計算した損益相当額を計上する。
⑤ その他所要の措置を講ずる。
(※)上記の改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用する。なお、同日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度について、会計上仮想通貨につき時価評価していない場合には、上記①及び④を適用しないことができる経過措置が設けられます。
4.組織再編税制について
① 株式交換等の後に株式交換等完全親法人を被合併法人とし、株式交換等完全子法人を合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その株式交換等に係る適格要件のうち完全支配関係継続要件、支配関係継続要件及び親子関係継続要件について、その適格合併の直前の時までの関係により判定することとする。
② 合併、分割及び株式交換に係る適格要件並びに被合併法人等の株主における旧株の譲渡損益の計上を繰り延べる要件のうち、対価に関する要件について、対象となる合併法人等の親法人の株式に合併法人等の発行済株式の全部を間接に保有する関係がある法人の株式を加える。
あすか税理士法人
【国内税務担当】高田和俊
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