〈前提〉
A氏は×3年に海外へ移住しました。
その際にA氏が株式の100%を保有するX社とY社の株式(非上場株式)について、国外転出時課税の適用を受け、納税猶予を選択しました。
その後×5年にX社を合併法人、Y社を被合併法人とする合併を行いました。
この場合国外転出時課税による納税猶予を受けている税額はどのようになるでしょうか。
納税猶予を受けている個人が国外転出時に有していた適用資産の譲渡若しくは決済又は贈与による移転をした時は、これらの事由が生じた資産に対応する所得税については、その事由が生じた日から4月を経過する日までに納付が必要となります(所得税法137条の2第5項)。
この譲渡に合併が含まれるか否かですが、措法37条の10第3項1号で次のように規定されています(国外転出時課税においてはこの規定を準用します)。
一般株式等を有する者が交付を受ける次に掲げる金額は譲渡所得に係る収入金額とみなす。
法人の株主がその法人の合併により交付を受ける金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額。
ただし、当該法人の株主に合併法人又は合併法人との間に完全支配関係のある法人のうちいずれか一の法人の株式以外の資産の交付がされなかったものを除く。
→つまり、適格合併については当該譲渡から除かれることになります。
この場合に取得した株式については、国外転出後に引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条の2第11項)。
上記1と同様、租税特別措置法において次のように規定されています。
法人の株主がその法人の分割により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額は譲渡所得に係る収入金額とみなす(措法37条の10第3項2号)。
ただし、法人税法に規定する分割対価資産として分割承継法人又は分割承継法人との間に完全支配関係のある法人のうちいずれか一の法人の株式以外の資産の交付がなかったもので、当該株式が分割法人の発行済み株式等の総数のうちに占める当該分割法人の各株主等の有する当該分割法人の株式の数に応じて交付されたものを除く。
→つまり、言い回しは難しいですが適格分割については当該譲渡から除かれることとなり、合併と同様、取得した株式については国外転出後に引き続き所有していたものとみなされます。
この場合も上記と同様で、所得税法57条の4第1項に定める適格株式交換又は適格株式移転により株式の異動があった場合については課税の繰延が行われ、取得した株式については国外転出時後に引き続き所有していたものとみなされます。
なお、その後譲渡を行った場合については、国外転出時の株式の価額は一定の算式に当てはめて国外転出時の評価額を計算します。
例えば、合併の場合は以下のように計算します。
国外転出時の合併法人株式の評価額=被合併法人株式の国外転出時評価額÷被合併法人株式1株について取得した合併法人株式
いかがでしょうか。
適格組織再編の場合は担税力が生じているわけではないので、納税猶予が継続するイメージは理解できると思います。
ただ、他にも株式分配、資本の払い戻しなど様々な事由が生じるのが実務です。
国外転出時課税は金額が大きいだけに、納税猶予が解除される事由はその都度しっかり調べてください。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
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