いよいよ、インボイス制度開始まで1ヶ月を切り、請求書準備や社内手続きの調整に追われている事業者の方も多いのではないでしょうか。
インボイス制度の概要については、下記ブログにて解説しています。
さて、今回はインボイス制度における様々な特例のうち出張・旅費関係について解説いたします。経理の方だけでなく、営業や現場等の方にも影響があるので社内への周知が大切です。
今回解説する特例に該当した場合には、インボイスがなくとも帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能です。なお、仕入税額控除とは、売上時の消費税額から仕入等の消費税額を差し引いて納付する仕組みを言います。
売上 110,000円(内消費税10,000円)
仕入 88,000円(内消費税8,000円)
納付消費税額 10,000円-8,000円=2,000円
基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間の課税売上高が5千万円以下の事業者は、令和5年10月1日から6年間、税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができます。
早速ですが、インボイス制度における出張・旅費に関連する特例を次に紹介いたします。
①公共交通機関特例
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送は、インボイスの交付義務が免除されるため、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能
[ポイント]
*公共交通機関とは、船舶・バス・鉄道・軌道を指すため、航空機やタクシー等での移動は含まれない。
*3万円未満の判定は、1回あたりの税込取引価額で判定。切符1枚や、月でまとめた際の金額ではない。
*旅客の運送に直接的に附帯しない入場料金や手回品料金は本特例の対象外。
*帳簿への記載例:通常の記載事項+「3万円未満の鉄道料金」
②出張旅費等特例
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費・宿泊費・日当及び通勤手当)は帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能
[ポイント]
*旅費は、「使用人等が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため」「使用人等の転任に伴う転居のため」等の旅費いう。
*通常必要と認められる旅費の範囲は、所得税法基本通達9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する。(支給額は会社内の役員及び使用人全体を通じて適正なバランスが保たれているか?支給額はその使用者等と同業種・同規模の他の使用人等と比較して相当と認められるものであるか?といった事項を勘案して判定する)
*通勤手当については、事業者が通勤者に支給する通勤手当が、その通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てる場合、その通勤に通常必要であると認められるものをいう。なお、所得税法施行令第20条の2各号《非課税とされる通勤手当》に定める金額を超えているかどうかは問わない。
*帳簿への記載例:通常の記載事項+「出張旅費」
③入場券等回収特例
(簡易)インボイスの記載事項が記載されている入場券であっても、それが使用の際に回収される取引は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能(①に該当するものを除く)
[ポイント]
*電車の乗車券や特急券で、登録番号等のインボイスの記載事項が記載されないものはそもそも(簡易)インボイスの要件を満たしている訳ではないため、例え改札で乗車券等が回収されたとしてもこの特例の対象外となる。
*帳簿への記載例:通常の記載事項+「入場券等」
出張・旅費に関する特例としては、上記①~③が挙げられますが一体どのように判断し、特例を適用すれば良いのでしょうか?
これについては、下記の順番に判断することをお勧めします。
a,出張旅費特例(②)に該当するか?
これは、あくまで会社が従業員に対して支給する出張旅費等に適用されます。そのため、会社の銀行口座から引落しがされる法人クレジットカードで支払った等、会社と従業員の間で金銭の授受がされていない場合には出張旅費特例の適用対象外となります。
b,公共交通機関特例(①)に該当するか?
当該出張旅費が公共交通機関を使用したものか、1回の取引金額(税込)で判定したものが3万円未満であるかどうかがポイントです。
c,入場券等回収特例(③)に該当するか?
この特例は公共交通機関特例に該当しないことが前提となっているため、b→cの順に判定する必要があります。その入場券等が(簡易)インボイスの要件を満たしているかどうかがポイントです。
出張・旅費について、従業員の方に対し実費精算等、会社との間で金銭のやり取りがある場合にはほとんどが出張旅費特例の対象になると考えられますが、会社の法人クレジットカードを使用する場合等で、公共交通機関特例の対象外のものはインボイスの受領が必要です。また、出張の際には接待供応等の目的で手土産の購入や飲食店の利用が考えられますが、これらの場面では上記で説明した特例の対象にはならず、インボイスの受領が必要となるため社内へ周知しておく必要があります。万が一インボイスが受領できなかった場合やインボイスの要件を満たしていない領収書・請求書を受領した場合には、免税事業者への支払として、課税事業者とは区別する必要がございますのでご注意ください。
さらに、従業員の方が経費を立替払いした際の領収書等でインボイスの宛名が「従業員名」になっているとそのインボイスのみでは事業者は仕入税額控除をすることができません。例えば、会社で使用する備品を従業員個人がインターネットで購入する場合や誤って従業員個人名の領収書を受領してしまった場合が想定されます。この場合、会社が負担する費用であることを示すため、会社名が記載された立替金精算書の作成・保存が必要です。事務的負担が増えることが想定されるため、従業員の方が領収書等を受け取る際には出来る限り宛名を「会社名」にしてもらうことが大切だと考えます。
まもなく開始されるインボイス制度。今一度、売上・仕入・その他経費関係に区分し、発行時・受領時・仕訳計上の処理を整理することをお勧めいたします。
あすか税理士法人
【スタッフ】中村麻侑子