インボイス制度導入まであと1ヶ月少々となりました。
国税庁からQ&Aも公表されており、このQ&Aは実務対応を検討する上で、有益な情報源となっております。
今回はそのQ&Aから「外貨建取引における適格請求書の記載事項」について、つまり日本国内で外貨決済を行う際の請求書記載内容についてご紹介したいと思います。
まずは、適格請求書(支払側の負担が増加しない請求書)として記載が求められる事項について確認します。
適格請求書として記載が求められるのは下記6点です。
(1)発行事業者の氏名又は名称及び登録番号(インボイス番号)
(2)取引年月日
(3)取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
(4)税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
(5)税率ごとに区分した消費税額等
(6)書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
現在、インボイスの対応を進めておられる会社様が多いと思いますが、特に(1)のインボイス番号(Tから始まる13桁の数字)が請求書に明示される点が特徴的です。
法人についてはインボイス番号検索が出来るので、事前に取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認することも可能です(個人事業主については検索出来ない点には注意が必要です)。
外貨建取引については、記載事項を外国語や外貨にて行うことも問題は無いのですが、上記のうち特定の項目は円金額を記載することが求められています。
外貨建取引については、上記6項目の適格請求書要件のうち(5)の「税率ごとに区分した消費税額等」のみ円換算した金額を記載する必要があります。裏を返せばその他の情報は外貨での表記でも差し支え有りません。
「税率ごとに区分した消費税額等」の円換算は、下記のいずれかの方法により計算します。これは売り手側のお話です。
(1)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税抜)を円換算後、消費税額等を算出する方法
① 外貨税抜で金額集計
② 外貨合計額(税抜)× TTM※=円合計金額(税抜)
③ 円合計金額(税抜)× 消費税率 (端数処理)
※TTM:対顧客直物電信売相場(TTS)と対顧客直物電信買相場(TTB)の仲値
(2)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税込)を円換算後、消費税額等
① 外貨税込で金額集計
② 外貨合計額(税込)× TTM =円合計金額(税込)
③ 円合計金額(税込)× 10/110(又は8/108) (端数処理)
(3)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税抜)から計算過程の消費税額等(外貨)を算出後、円換算する方法
① 外貨税抜で金額集計
② 外貨合計額(税抜)× 消費税率=外貨消費税額等
③ 外貨消費税額等 × TTM (端数処理)
(4)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税込)から計算過程の消費税額等(外貨)を算出後、円換算する方法
① 外貨税込で金額集計
② 外貨合計額(税込)×10/110(又は8/108)=外貨消費税額等
③ 外貨消費税額等×TTM (端数処理)
ここで外貨建取引の話しを少し離れて、買い手側における適格請求書等保存方式における仕入税額控除について確認します。
買い手における仕入税額計算は下記三つの方法から選択することとなります。
(1)請求書等積上げ計算
交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち、課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を乗じて算出する方法です。
つまり、売り手側から交付された請求書に明示された消費税額を合算した金額を持って仕入税額控除を実施します。一番インボイス制度に合致した方法と言えると思います。
(2)帳簿積上げ計算
課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(又は108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税額等として帳簿に計上している場合は、その金額の合計額に100分の78を乗じて算出する方法です。
つまり、売り手側から交付された税込請求金額×10/110(又は8/108)した金額を一年分集計して仕入税額控除を実施します。
(3)割戻し計算
課税期間中の課税仕入れに係る支払対価の額を税率ごとに合計した金額に110分の7.8(又は108分の6.24)を乗じて算出した金額で仕入税額控除する方法です。
仕入税額において割戻し計算を入れる場合は、売上税額も割戻計算する場合に限られている点にご注意下さい。
消費税の取扱いにおいて、円換算時に使用する換算レートは、資産の譲渡等の対価の額の円換算の方法(消費税法基本通達10-1-7)と同様、所得税又は法人税の課税所得金額の計算において外貨建ての取引に係る売上金額その他の収入金額を円換算する際の取扱いの例による事となっております。
上記に基づくと、売り手側・買い手側で異なる為替換算レートとなることがあり得ることとなります。
例えば、売り手側はTTB・買い手側はTTSを利用するパターン、売り手側は月末のレート・買い手側は前月平均レートを利用するパターンなどです。
このように売り手・買い手の双方で為替換算レートに差異が生じる場合、買い手側がいずれのレートを利用するかは、その買い手側が適用する消費税額計算方法(上記3,参照)によって異なることとなります。
(1)請求書等積上げ計算を適用するケース
交付を受けたインボイスに記載された消費税額等の合計額を基に仕入税額を算出する計算方法であるため、取引先(売り手側)が自社と異なる換算レートで円換算した消費税額等を記載したとしても、インボイスに記載された額面通りの消費税額等で仕入税額と算出する必要があります。仕入税額を自社(買い手側)の換算レートに置き換える子とは出来ません。
よって税抜仕入額と仕入税額とがバランスしているかどうかを後から概括チェックすることが困難となります。
(2)帳簿積上げ計算を適用するケース
課税仕入れの都度、帳簿に記載された仮払消費税額等の合計額に仕入税額を計算する方法ですが、この仮払消費税額等は外貨税込対価を自社換算レートで円換算した後、10/110(又は8/108)を乗じて求めます。
税抜仕入額と仕入税額とはバランスしますが、請求書記載の消費税額と仕入税額とは乖離することとなります。
(3)割戻し計算を適用するケース
課税期間中の税込課税仕入対価の合計額を基礎として仕入税額を計算する方法ですが、帳簿に記載するのは外貨税込対価を自社換算レートで円換算した金額となります。
(2)同様、税抜仕入額と仕入税額とはバランスしますが、請求書記載の消費税額と仕入税額とは乖離することとなります。
如何でしょうか。
「請求書等積上げ計算」を適用する場合は、概括チェックが困難となるため、請求書に記載された消費税額をしっかり帳簿に反映し、その反映状況をチェック出来る体制を構築することが必要になるように思います。
インボイス制度については、運用開始後もQ&Aや通達更新が予想されるので、適宜、最新情報をキャッチアップする必要が有るように思います。
あすか税理士法人
【国際税務・国内税務担当】高田和俊
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