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国内税務2023.08.16 課税事業者と免税事業者の共有不動産賃貸~インボイス制度~

 

インボイス制度の施行が令和5年10月に迫っています。

 

適格請求書発行事業者は売上の際に適格請求書を発行する必要がありますが、適格請求書発行事業者と免税事業者の共有不動産を賃貸している場合はどのように適格請求書(インボイス)を発行する必要があるのでしょうか。

 

貸主側の視点で簡単にまとめてみました。

 

 

 

不動産貸付業のインボイス対応


 

インボイス制度が始まると、貸主は下記の適格請求書の記載事項を満たした書類を発行する必要があります。

 

しかし、全ての記載事項を1枚の書類で満たす必要はなく、複数の書類で記載事項を満たすことが認められています。

 

したがって、必要な記載事項の多くは既に発行している契約書などに記載されていることが想定されるため、

 

主に①登録番号消費税率消費税額などを記載した通知書を追加的に借主に発行する処理などが必要となります。

 

 

 

共有不動産の場合


 

貸付けの用に供されている不動産(建物や駐車場)の中には、共有で所有されているものが多く存在しますが、その所有者の中にインボイス登録事業者と免税事業者が混在している場合はどのような処理が必要となるのでしょうか。

 

 

この点について、国税庁のインボイスに関するQ&A(問51)に記載があります。

 

 

Q.当社は適格請求書発行事業者です。適格請求書発行事業者でない事業者と共有している建物を売却することになりましたが、適格請求書はどのように交付すればよいですか。

 

 

A.持分割合などに応じて適格請求書を交付します。

 

 

インボイス発行事業者が免税事業者と不動産を共有している場合は、適格請求書発行事業者の所有割合の部分について適格請求書を発行する必要があります。

 

(インボイス通達3-5 「共有物の譲渡等における適格請求書に記載すべき課税資産の譲渡等の対価の額等」)

 

 

したがって

 

 

不動産賃料のうち、インボイス発行事業者の持分割合などに応じてインボイスを交付する必要があるということです。

 

 

 

実務上の問題点


 

インボイス制度が開始されると、インボイス発行事業者の持分の賃料に応じた分だけインボイスを発行することになりますが、実際の貸付けの状況によってはこの対応は難しくなる可能性があります。

 

 

そもそもインボイス制度の影響があるのは借主が課税事業者である場合であり、事業者でない一般消費者である場合にはあまり関係がありません。

 

 

そのため、賃貸している不動産には多くの事業者が入居しているのか?それとも少ないのか?などの状況から判断することがまず必要となります。

 

 

 

①借主(事業者)が少数である場合

少数の借主に賃貸している場合は、借主と協議、相談をしたうえで今後の対応を決定することはしやすいと考えられます。

 

 

 

そのため上記Q&Aの通り賃料のうちインボイス発行事業者の分のみインボイスを発行することは比較的容易だと考えられます。

 

 

この場合のデメリットとしては下記のようなことが考えられます。

 

 

・貸主側で事務処理が煩雑

・賃料のうち免税事業者分の価額について、値下げ交渉が入る可能性がある。

・借主側での経理処理がややこしくなる

 

 

借主側でインボイスの交付を受けない分に関しては消費税を控除することができないので、その分の値下げ交渉が入る可能性があります。

 

 

さらに、同じ物件の賃料なのにも関わらずインボイスのある賃料と無い賃料で経理処理を分ける必要があるため、借主側の処理がややこしくなってしまいます。

 

 

 

②借主(事業者)が多数である場合

 

駐車場経営やテナントビルなど、事業者である借主が多数にわたることがあります。

 

 

その場合は上記でも紹介したとおり個々の借主ごとに免税事業者分の値下げ交渉が入る可能性がありますし、借主ごとにその対応をすることは実務上かなり煩雑であると考えられます。

 

 

そのため多数の事業者に賃貸している場合は、共有所有者のうち免税事業者の考えられる選択肢は以下の3つになります。

 

 

・免税事業者のままでいく方法

・課税事業者となり、インボイスを発行する方法

・課税事業者となり、インボイスを発行して簡易課税制度により申告する方法

 

 

以下ではこの3つの選択肢についてメリットとデメリットを簡単に確認していきます。

 

 

 

 

 

 

免税事業者のままでいく場合


 

メリット

・消費税申告にかかる手間や税理士費用がかからなくてすむ

・消費税を納付する必要がない

 

消費税を申告・納税する必要がないため、値下げ交渉などが入らない場合は単純に手元に残るお金が大きくなります。

 

 

デメリット

・借主ごとに消費税分の値下げ交渉が入る可能性がある

・退去されるリスクがある

・借主側での経理処理がややこしくなる

 

 

借主側で消費税を控除できないので、その分の値下げ交渉が入る可能性があります。

 

また、借主側からするとそもそも消費税的に不利な取引となるために退去されるリスクも考えられるでしょう。

 

 

 

インボイス発行事業者(課税事業者)になる場合


 

メリット

・借主側が消費税を控除することが出来る

・借主側の経理処理がややこしくない

 

 

課税事業者となってインボイスを交付することで免税事業者である場合のデメリットが消えることになります。

 

 

デメリット

・貸主側で消費税を申告・納付する必要がある

 

 

課税事業者を選択するため、消費税を申告・納税する必要があります。

 

しかし免税事業者のままでいることにより値下げ交渉に応じたり、退去者が出るリスクを考えれば消費税を申告・納付する方が結果的に手元に残るお金が多いということも考えられます。

 

 

賃貸する不動産の規模や借主の状況によって有利不利は変わるといえるでしょう。

 

 

この判断について迷う場合は税理士などの専門家にご相談されることお勧めします。

 

 

 

 

簡易課税制度を選択する場合


 

年間の課税売上高が5,000万円以下である場合は簡易課税制度を選択することもできます。

 

 

不動産賃貸業の場合は、年間の売上高にかかる消費税のうち60%を申告・納付する方法です。

 

 

 

年間の売上高にかかる消費税から実際に経費にかかった消費税を控除した分を申告・納付する原則の制度と比べても、計算方法が簡単で納付する消費税が少なくなる可能性があります。

 

 

 

ただ、簡易課税制度を選択する場合は継続条件などがあるため注意が必要です。

 

 

 

 

まとめ


 

 

・共有不動産の場合はインボイス事業者の分だけインボイスを発行する必要がある。

 

・貸主にインボイス事業者と免税事業者が混在している場合は処理が煩雑になることが考えられる。

 

・退去リスクなどを考えると、インボイス事業者を選択した方が有利な場合もある。

 

簡易課税制度を選択することで、不動産業の場合は売上の消費税の60%の納付ですみ、計算も簡単になる。

 

・判断が難しい場合は税理士などの専門家に相談をお勧めします。

 

 

あすか税理士法人

【スタッフ】西浦 翔太