以前に、私のブログで触れさせて頂きましたが、金融庁は有価証券報告書等の記載事項について改正を行うため、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正を公表しました。今回は、改めてその内容をご説明したいと思います。
1.サステナビリティに関する考え方及び取組の開示
今般の改正によって、「第2 事業の状況」の中に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」が加えられることとなりました。これによって、事業の状況の記載は、一般的に以下の構成になると考えられます。
1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
2.サステナビリティに関する考え方及び取組
3.事業等のリスク
4.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
5.経営上の重要な契約等
6.研究開発活動
この新設される「サステナビリティに関する考え方及び取組」においては、連結会社(企業グループ)としての考え方や取組状況の記載が求められます。
具体的には、「ガバナンス」と「リスク管理」について、すべての企業で記載が求められます。
ガバナンス = サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続
リスク管理 = サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、管理するための過程
さらに、「戦略」と「指標及び目標」については、重要なものについての記載が求められます。
戦略 = 短期、中期及び長期にわたり経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組
指標及び目標 = サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、監視するために用いられる情報
なお、人材の多様性を含む人的資本については、人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例.人材の採用・維持や従業員の安全及び健康に関する方針)を「戦略」において記載し、この方針に関する指標の内容・当該指標を用いた目標と実績を「指標及び目標」において記載することが、すべての企業で求められますので、ご留意ください。
2.サステナビリティに関する開示の考え方
今回の「企業内容等の開示に対する内閣府令」の改正案に対しては、多くのコメントが寄せられており、そのコメントに対して、金融庁の考え方が示されています。サステナビリティに関する開示の部分について、参考になると思われる部分をまとめてました。
【基本的な開示の考え方】
内閣府令においては、細かな事項は規定せず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟な記載が可能な枠組みと考えられています。そのため、現状の取組状況に応じて2023年3月期の有価証券報告書の開示をスタートし、その後のサステナビリティに関する取組の進展に応じて、有価証券報告書の開示を充実することが考えられます。また、翌年度以降に開示内容が拡充されたとしても、遡って当年度の有価証券報告書について虚偽記載等の責任を負うものではないとされています。
【重要性の判断】
企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となるという観点から、「ガバナンス」と「リスク管理」については、全企業に開示が求められています。「戦略」と「指標及び目標」については、各企業が「ガバナンス」と 「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断し開示を行います。
「戦略」と「指標及び目標」について、企業が重要性を判断した上で開示しないこととした場合において、その判断根拠等は必ず開示しなければならない事項ではないものの、投資家に有用な情報を提供する観点から、重要性がないと判断するに至った検討過程や結論を開示することが考えられます。
【GHG排出量の開示】
気候変動に関するGHG(温室効果ガス)排出量の開示は、必ず開示しなければならない事項とはされていませんが、「記述情報の開示に関する原則」においてScope1及びScope2の排出量については、開示が望まれる事項とされています。
【連結グループの開示】
サステナビリティに関する開示は、基本的に連結ベースでの指標及び目標の開示を行うことが想定されていますが、連結グループの主要な企業のみで取組が行われている(すべてのグループ企業で取組が行われている訳ではない)ようなケースでは、その旨の記載した上で、一定のグループ単位での指標及び目標の開示を行うことも考えられます。
【将来情報の記載と虚偽記載等の責任】
有価証券報告書に記載した重要な将来情報と実際に生じた結果が異なることとなった場合でも、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないと考えられます。また、その説明の記載にあたって、社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経ている場合には、その旨と検討内容の概要を記載することが考えられます。
【他の公表書類の参照】
サステナビリティに関する開示にあたっては、他の公表書類(任意に公表した書類や他の法令・上場規則等に基づく公表書類)を参照することが認められていますが、参照先の書類内の情報は、基本的には有価証券報告書の一部を構成しないと考えられます。また、他の公表書類の参照にあたっては、前年度の情報が記載されたものや将来公表予定のものを参照することも考えられます。
一方で、企業が重要と判断した事項については、直近の連結会計年度に係る情報を記載する必要がありますが、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合は、概算値や前年度の情報を記載することも考えられます(その旨を明示して、投資家に誤解を生じさせないようにする必要があります)。また、後日実際の集計結果が開示内容と大きく異なり、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼすと判断された場合は、有価証券報告書の訂正を行うことが考えられます。
3.人的資本、多様性に関する開示
人的資本や多様性については、前述のサステナビリティに関する考え方及び取組での開示に加え、女性活躍推進法や育児・介護休業法に基づく情報の開示義務に基づき、「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表している提出会社及び連結子会社について、「第1 企業の概況」の中の「従業員の状況」において、これらの指標を記載することが求められます。また、任意の追加的な情報を記載することもできるとされています。(改正後の企業内容等開示ガイドライン5-16-3)
※企業内容等開示ガイドライン=「企業内容等の開示に関する留意事項について」
この改正は、女性活躍推進法や育児・介護休業法に基づく情報の開示義務がある企業が適用対象となりますが、記述情報の開示に関する原則(別添)の改正により、会社ごとの開示に加えて、投資判断に有用な連結ベースでの開示に努めるべきであるとされています。
4.コーポレートガバナンスに関する開示
「第4 提出会社の状況」の中の「4.コーポレート・ガバナンスの状況等」においては、新たに以下の内容を記載することが求められます。
・最近事業年度における提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会、企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会の活動状況(=開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役(委員)の出席状況等)
・最近事業年度における提出会社の監査役会、監査等委員会(監査等委員会設置会社の場合)、監査委員会(指名委員会等設置会社の場合)の具体的な検討内容(※)
・内部監査の実効性を確保するための取組(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会ならびに監査役及び監査役会に対して直接報告を行う仕組み(=デュアルレポーティングライン)の有無等を含む)
・政策保有株式の保有目的が株式発行会社(相手先)との間の営業上の取引、業務上の提携等を目的とする場合のその概要
(※)監査役会等については、従前から「主な検討事項」を開示することが求められていましたが、今回の改正で「具体的な検討内容」と用語が改められました。これは、会議体において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するために行ったものであり、開示事項を実質的に変更するものではないとされています。
改正案から大きく変更された内容はありませんが、改正案に対するコメントに対する金融庁の考え方等も公表されており、それらを踏まえて、今後有価証券報告書の開示内容を検討していく必要があると思われます。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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