法人や個人事業主の方の中には、経理処理についてどのように処理すべきか悩まれた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
例えば、飲食を伴う支出があったとき、福利厚生費・接待交際費・会議費いずれの科目で処理をするべきなのか?これについては、「誰と」「どのような目的で」「1人あたりの金額はいくらか」といったことを明らかにした上で経理処理をする必要があります。
日々の経理処理では、きちんとそれぞれの勘定科目の違いを理解しながら、判断することが大切といえます。弊社のブログでは交際費や福利厚生費について取り上げている記事がございますのでそちらも是非ご確認ください。
さて、今回は、消耗品等の取得に関する経理処理についてご説明します。
事業を営まれている方であれば消耗品や事務用品等を購入する機会は必ずといって良いほど出てくると考えられます。そのようなとき、何となくで処理をしてしまっていないでしょうか?
実は金額によって線引きがあり、必ずしもすべて経費計上できる訳ではなく、固定資産税(償却資産税)という税金にも影響があります。
ここでは消耗品等の取得について経理処理の判断基準をお伝えいたします。
一般的に消耗品等を取得した際、消耗品費等として経費計上できるのは、①使用可能期間が1年未満のものや②取得価額が10万円未満(※)のものです。
※金額については、適用している消費税等の経理処理方式に応じて判定することになります(以下同様)。税抜経理方式を適用している場合には、税抜の価額を取得価額として判定し、税込経理方式を適用している場合には、税込の価額を取得価額として判定します。
なお、消費税の免税事業者となっている場合には、税抜という概念が存在せず、税込経理方式のみの採用となるため、税込の価額を取得価額として判定することになります。
①の使用可能期間については、法定耐用年数で判定するのではなく、その事業者の業種において一般的に消耗性があるものと認識され、かつ、その事業者の平均的な使用状況や補充状況からみて使用可能期間が1年未満であることをいいます。使用可能期間が1年未満である場合には、次に説明する②のような金額制限はありません。
②の取得価額というのは、通常1単位として取引される単位ごとに判定を行います。
応接セットの場合だと通常はテーブルと椅子が1組で取引されるため、その1組で10万円未満になるかどうかを判定しますが、単独で取引される事務机や椅子の場合は、それぞれ1つずつの単価で判定することになります。
なお、貸付(主要な事業として行われる貸付を除く)のために取得したものについては、たとえ取得価額が10万円未満であっても消耗品費等で経費とすることはできません(令和4年4月1日以後取得分からの改正)。
では、①や②に当てはまらない消耗品の購入はどのように処理をすれば良いのでしょうか?
上記①や②に当てはまらない使用可能期間が1年以上のもので10万円以上の減価償却資産を取得すると基本的には通常の減価償却の対象となります(有形のものに限らず、ソフトウェア等の無形のものも含みます)。
しかしその中でも次の2つの特例を適用できる可能性があります。
まず1つ目は、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産。
このような資産を購入した場合、各事業年度毎にその全部又は特定の一部を一括したものの取得価額の合計額を3年間で均等償却することができる「一括償却資産の損金算入」の規定を選択することができます。
通常、償却資産の減価償却費は、購入した月に応じて月割で算定しますが、一括償却資産を選択した場合には、月割計算は行わず、全体の3分の1ずつを3年間、減価償却費として計上することができます。(法人の場合には一括償却資産の損金算入額については、法人税申告書別表において申告する必要があります。)
*具体例*
事業年度×1年4月1日~×2年3月31日(第×1期とする)
×1年5月 1台15万円のPCを6台購入
×2年3月 1台18万円の複合機を2台購入
→すべて10万円以上20万円未満のため、一括償却資産として処理することができます。
第×1期に購入した一括償却資産の合計額は126万円であり、これらを3年にわたって均等償却するので・・・
第×1期の減価償却費 126万円×1/3=42万円
第×2期の減価償却費 上記同様42万円
第×3期の減価償却費 上記同様42万円
なお、一括償却資産として取得した消耗品に関しては、3年以内に除却や売却をしたとしても、個別に減価償却費を算定することはしません。あくまで、まとめて3年間均等償却を続けます。
続いて2つ目は、取得価額が10万円以上30万円未満の減価償却資産。
このような資産を購入した場合、中小企業者等(※)に限り「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」の規定を適用することができます。
一括償却資産とは異なり、全額を消耗品費等として経費計上することが可能です。
この特例の適用を受けるためには、その資産を事業の用に供した事業年度において、損金経理をし、かつ、少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付して申告する必要があります。
適用を受ける事業年度における少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円を超えるときは、その取得価額の合計額のうち300万円に達するまでが限度となります。
この特例は現時点では令和6年3月31日までが適用期限とされており、2年ごとに適用期限が延長されているものの改正の度に適用期限を確認する必要があると言えます。
※中小企業者等とは資本金等の額が1億円以下の法人で常時使用する従業員の数が500人以下であり、大法人による完全支配関係がない法人等を指します。
詳細については下記の国税庁HPを参照ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
*具体例*
事業年度×1年4月1日~×2年3月31日(第×1期とする)、中小企業者等に該当
×1年5月 1台22万円のPCを15台購入
→すべて10万円以上30万円未満のため、少額減価償却資産として処理することが可能です。ただし取得価額の合計額が300万円までというのが限度が設けられているため注意が必要です。13台目までは合計額が286万円、14台目を合計すると308万円となり300万円を超えるため、少額減価償却資産として損金経理できるのは13台目まで、損金算入額は286万円が最大となります。残りの2台に関しては固定資産に計上し、通常の減価償却を行う必要があります。
10万円以上20万円以上の減価償却資産で、中小企業者等である場合には、一括償却資産と少額減価償却資産については資産毎に選択して適用することが可能です。どちらを選択すべきか、それぞれの事業者毎に判断が必要だと考えられますのでその特徴をまとめてご説明します。
[一括償却資産の特徴]
・中小企業者等の制限なし
・事業年度毎の金額の上限なし
・固定資産税(償却資産税)は課税対象外
・合計額を3年間で均等償却するので、月割りで減価償却費を計算する必要がない
・取得した年度毎に管理をするので、個別に管理する必要がない
[少額減価償却資産の特徴]
・中小企業者等の制限あり
・事業年度毎の金額の上限あり(取得価額の合計が300万円以下)
・固定資産税(償却資産税)は課税対象(ただし、課税標準額が免税点150万円未満の場合を除く)
・損金経理をすれば取得した事業年度に全額損金算入することができる
なお、貸付(主要な事業として行われる貸付を除く)のために取得したものについては、たとえ一括償却資産や少額減価償却資産に該当する金額のものであってもこれらの特例を適用することはできません(令和4年4月1日以後取得分からの改正)。
これは、貸付けを主要な事業としていないにもかかわらず、利益を抑えることを目的とした課税繰り延べのスキームが見受けられたためです。具体的には、単価10万円未満の資産(ドローン等)を大量に購入し、取得した事業年度に全額損金へ算入することにより取得した事業年度の利益を減らし、その後、別の年度で他者へ貸付けをしてレンタル収入を得ることや、売却をして売却収入を得ることにより翌期以降に課税を繰り延べるスキームです。
同様のスキームを封じ込めるため、一括償却資産と少額減価償却資産についても、貸付(主要な事業として行われる貸付を除く)のために取得したものについては、特例の適用対象外となりました。
10万円以上の減価償却資産を取得すると基本的には通常の減価償却の対象となります。しかし、10万円以上20万円未満の場合は、一括償却資産を選択することができますし、中小企業者等が10万円以上30万円未満の資産を取得した場合は少額減価償却資産も選択することが可能です。つまり、中小企業者等においては、一括償却資産と少額減価償却資産、資産毎に選択適用が可能です。どちらを選択した場合にも通常の減価償却を行う場合より早期に経費とすることができ、節税効果があります。
事業の状況に合わせてうまく利用することができるため、決算の際に検討が出来るよう、10万円以上20万円未満(中小企業者等の場合は30万円未満)の資産の購入については日頃から把握しておくことが大切であると考えます。
あすか税理士法人
【スタッフ】中村麻侑子