前回までの国際税務の基礎①、基礎②では居住者と非居住者について解説してきました。
日本の居住者に該当した場合は全世界の所得が課税され、非居住者に該当した場合は国内源泉所得にのみ日本の法人税または所得税が課税されることになります。
では非居住者が課税される国内源泉所得にはどういったものがあるのでしょうか。
今回より数回に分けて国内源泉所得について解説していきます。
国内源泉所得は大きく分けて以下の17種類の所得が定められています。
一 恒久的施設帰属所得
二 国内にある資産の運用又は保有による所得
三 国内にある資産の譲渡による所得として政令で定めるもの
四 民法組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生ずる利益の配分
五 国内にある土地等又は建物等の譲渡による対価
六 国内における人的役務の提供事業から生ずる所得
七 国内にある不動産等の貸付け等から生ずる所得
八 日本国の国債若しくは地方債又は内国法人の発行する債券の利子,外国法人の発行する債券の利子のうちその外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係るもの,国内にある営業所に預け入れられた預貯金の利子及び国内にある営業所に信託された合同運用信託,公社債投資信託又は公募公社債等運用投資信託の収益の分配
九 内国法人から受ける剰余金の配当,利益の配当,剰余金の分配,金銭の分配若しくは基金利息及び国内にある営業所に信託された投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)又は特定受益証券発行信託の収益の分配
十 国内において業務を行う者に対する貸付金でその業務に係るものの利子
十一 国内において業務を行う者から受ける工業所有権等の使用料又はその譲渡による対価でその業務に係るもの
十二 国内において行う勤務その他の人的役務の提供に対する給与,報酬又は年金
十三 国内において行う事業の広告宣伝のための賞金
十四 国内にある営業所又は契約代理人を通じて締結した生命保険会社又は損害保険会社の締結する保険契約その他の年金契約に基づいて受ける年金
十五 国内の営業所等を通じて締結されたものにかかる定期積金の給付補塡金,抵当証券の利息,いわゆる金投資口座の差益,いわゆる外貨投資口座の差益又はいわゆる一時払養老保険等の差益
十六 国内において事業を行う者に対する出資につき,匿名組合契約に基づいて受ける利益の分配
十七 一から十六まで以外でその源泉が国内にある所得として政令で定めるもの
国内源泉所得は,人的帰属に着目して居住者並みの課税範囲とされる恒久的施設帰属所得と,地理的帰属に着目した課税範囲とされる恒久的施設帰属所得以外の国内源泉所得とに区分されます。
まず、この恒久的施設帰属所得の概念を理解することが、国際税務の第一歩だと思います。
恒久的施設帰属所得は,非居住者が恒久的施設を通じて事業を行う場合において,その恒久的施設がその非居住者から独立して事業を行う事業者であるとしたならば,①その恒久的施設が果たす機能,②その恒久的施設において使用する資産,③その恒久的施設とその非居住者の事業場等との間の内部取引その他の状況を勘案して,その恒久的施設に帰せられるべき所得とされています(法161条1項1号)。
この場合の恒久的施設とは、国内にある支店,出張所,工場その他事業を行う一定の場所,鉱山など天然資源を採取する場所などをいいます。
では、勘案すべき上記①~③の判断基準をご紹介します。
①の「恒久的施設が果たす機能」には,恒久的施設が果たすリスクの引受け又はリスクの管理に関する人的機能,資産の帰属に係る人的機能,研究開発に係る人的機能,製造に係る人的機能,販売に係る人的機能,役務提供に係る人的機能等が含まれます。
これらのリスクの引受け又はリスクの管理に関する人的機能を恒久的施設が果たすかどうかが判定の要因となります。
この判断は恒久的施設に従事する者が積極的にこれらの意思決定を行っていることが必要とされています。
②の「恒久的施設において使用する資産」の範囲には,恒久的施設が他の者から賃借している固定資産又は使用許諾を受けた無形資産等だけでなく,事業場等に帰せられる固定資産又は無形資産等で事業場等との間で賃借又は使用許諾に相当する内部取引が行われているものも含まれます。
顧客リスト,販売網等の重要な価値のあるものも含まれるのでご注意ください。
③の「事業場」とは恒久的施設に定義される場所の他、建設若しくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供を行う場所や自己のために契約を締結する権限のある者に相当する者も含まれます。
また、勘案すべき「その他の状況」には,④恒久的施設に帰せられるリスク及び⑤恒久的施設に帰せられる外部取引が含まれます。
④のリスクは、為替リスクや金利リスク等の金融上のリスクに加え、在庫リスク,信用リスク及びオペレーショナルリスクなど経済事情の変化その他の要因による利益又は損失の増加又は減少のリスクが含まれます。
いかがでしょうか。
恒久的施設帰属所得の判定は主に、外部取引から生じる所得の帰属、取引に利用される資産の帰属、そしてリスクの帰属が恒久的施設か否かの判定が重要となります。
恒久的施設に帰属する所得と判断した次のステップとして、移転価格税制による取引価格の判定を行うこととなります。
次回以降はその他の国内源泉所得について解説していきたいと思います。
あすか税理士法人
【国際税務担当】街 有帆
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